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狂った聖者

「――体の調子はどうよ?」


「もうとっくに完治してるさ」


 シュウゴとシモンは、鍛冶屋の小さな机に湯のみを並べ、ゆったりと語りあっていた。メイとニアは教会の手伝いに向かい、デュラは討伐隊の助勢で狩りに出ている。

 シュウゴが投獄中に(わずら)った病気は、リンの継続的な治癒魔法によって既に完治していた。


「……そういえば、討伐隊のクロロさんが隊長に就任したって言ってたな」


 先日、シュウゴは酒場でクロロと会った。そのとき彼は、自分がヒューレの隊を引き継ぐことになったと嬉しそうに語っていたのだ。


「クロロさん? 一番最初に君を助けようとした勇敢な騎士か。隊長といってもまだ若いだろ?」


「まあね。でも、あの処刑場での戦いが高く評価されたみたいだ。彼の行動は反乱ではなく、破滅の道を辿ろうとしたカムラを正す勇気ある行動だってね。確かに隊の部下はほとんど年上だろうけど、クロロの勇姿を見てからは文句の一つも言わないそうだぞ」


 シモンは感嘆の声を漏らし、茶をすすった。


「へぇ~。そんなおとぎ話みたいなこともあるんだな」


「シモンの方はどうなんだ? 知名度が上がって、商売繁盛してるんだろ?」


「まあなぁ……」


 シモンが浮かない顔でため息を吐く。どうも歯切れが悪い。


「なにか問題でも?」


「シュウゴのファンだって若手が増えてきてなぁ……商売の話をしに行くと、たいていは『設計士様』を紹介してくれってみんなうるさいのよ。このままじゃ耳にタコができちまう」


 シュウゴはへぇと心底驚いたように声を漏らした。

 設計士とは、ヴィンゴールから直々に与えられた称号だ。所属に関わらず、一定の影響力を持つ。いわば、教会におけるシスター『マーヤ』のような存在だ。

 普段はシュウゴの家まで押しかけるような無粋な(やから)はいないが、たまに熱のこもった視線を感じることはある。


「驚いた。そんなに俺の知名度上がってたのか」


「この朴念仁! あれだけのことがあって君に注目しないやつがあるか! 今や君は、奇跡の大逆転を遂げた英雄さ。特に鍛冶職人を目指す者なら一度は憧れるよ」


 シモンは深くため息を吐いた。だいぶ疲れが溜まっているようだ。

 シュウゴは申し訳なく思いながらも、なんだか嬉しかった。


「シモンも大変そうだな」


「誰のせいだよ! だ・れ・の!」


 シュウゴは苦笑する。


「でも、あのときシモンが助けに来てくれて本当に良かった。心から感謝してるよ」


「よせよ。むず痒いだろ。ま、君のそういうまっすぐなところは美点だと思うがね」


 二人はしばらくのんびり茶をすすった。

 しばらくして、シュウゴは真剣な表情で気になっていた話題に移る。


「ところでシモン、例の手記なんだが――」


 その質問は想定通りだったようで、シモンは神妙な面持ちで首を横へ振った。


「海の魔物のことだろ? もちろん僕も探したけど、載ってなかったよ」


「そうか……」


 シュウゴは肩を落とす。いつも世話になる謎の手記なら、情報が得られると期待していたのだ。そうすれば、二回目の襲撃を受ける前に対処ができるかもしれないと考えていた。

 そんなシュウゴに、シモンが明るい声をかける。


「でも、良い知らせもある」


「うん?」


「この手記、なんとなく読み返してたら、あるページの余白に人の名前を見つけたんだ」


 シモンはそう言ってページを捲り、シュウゴに見せる。

 そのページには、ある怪物の解説が書いてある隅に『フェミリア』と雑に(しる)されていた。


「これは?」


「人の名前さ。それに聞き覚えがある」


「本当かっ!?」


「ああ。それに、この怪物の説明をよく読んでみろ」


 そう言われ、シュウゴはそこに記されていた魔物の説明を黙読する。


 ~~狂った聖者『アンドロマリウス』~~

 神の加護を得てすぐに死に、その後凶霧により蘇った聖女。生前は予言の力を宿していたが、今はもうない。上半身は人、下半身は藍色の鱗を持つ大蛇、そして背には天使の翼を持ち聖魔術を駆使する異形の魔物。もはや魔神に近い。


 熱心に読み込んでいたシュウゴがやがて顔を上げると、シモンが言った。


「これ、持ち主が書いたんじゃないのか?」


「まさか……このフェミリアという人が魔物になって、これを書いたっていうのか?」


「俺はそう睨んでる。ともかく、俺はこのフェミリアの正体を調べようと思う。シュウゴもなにか分かったら教えてくれ」


「あ、あぁ……」


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