入学
今日はベンドラ学園の入学式だ。
そう、まさにゲーム開始の時期、俺はこの日のためにいろいろと準備をしてきた。多少メイリとの関係は変わってしまっているけれど、問題ない。まずは、学園長に挨拶をするとしよう。
俺は学園長室の前にくると、扉をノックする。
「入るぞ」
俺は返事を聞かずに、中に入る。当然、隣にはメイリもいる。
すると、俺がくるのを待っていたかのように、椅子に学園長が座っていた。
「久しぶり~、会いたかったわベインちゃん」
歳は俺の父と同じぐらいで、30後半といったところ。赤いチャイニーズドレスを着ている。
「知り合いなんですか?」
「ああ、俺の母だ」
「ええええええ」
思わず大きな声を出してしまうメイリだが、すぐに口に手を当てて恥ずかしそうにしていた。
「あら、その子はダンナが与えた奴隷ね。うふふ、奴隷というわりに扱いは丁寧なのね」
俺は母の言葉を無視して、ここに来る前に、クラス分けなどについてお願いした部分を、確認する。
「ええ、もちろん。そこの奴隷とベインちゃんは同じクラスよ、あと、アレンという子もね」
「そうか、わかった」
それだけ言って、学園長室を出た。
「あの、もしかして、私も一緒のクラスにするように頼んでいたんですか?」
メイリはたどたどしく聞いてきた。
「当たり前だ。お前は俺の奴隷だろ」
俺はそれだけいうと、入学式を行う体育館に向かった。
「おい、聞いてるか。あの王の息子が今年入学してくるみたいだぜ?」
「まじかー。あの極悪非道の?同じクラスになったらどうしよー」
「そんなこと言うなよ、聞かれたら何されるか」
「お前はどう思ってる?アレン」
僕は周りの生徒にそう聞かれた。
「あはは、そんな風にいうのは可哀そうだよ。僕らはまだその子にあってすらないんだから」
ベンドラ国の王の息子か、どんな人なんだろう。
確かに、今の王様はちょっとひどい。僕も元奴隷の身分だったから。この国の闇の部分を知っているつもりだ。強制的に働かされて、お金なんてほとんどもらえない。今日生きるのに精一杯の毎日だった。
周りで働いている人たちは、みな目が死んでいて、どうやって今日を生きていくかしか考えてない人ばかりだった。僕もちょっと前はそんな人たちと同じだったけれど、お偉い人に買われて、裕福な暮らしを経験して考え方が変わった。
奴隷のように働かされてる人たちも幸せになれるように平等な国を作ると。そのために、学園で精一杯学ぶんだ。だから、僕としては、彼とは仲良くなりたい。そして、彼が王になるときには、少なくとも、今よりもましな国になるように助言していきたい。
そんなことを考えていると、急に回りがざわざわしはじめた。
僕はみんなの視線を追うと、体育館の入り口があいており、2人組の生徒が一緒に歩いていた。
1人は男子生徒で、身長は160ぐらい。僕のほうがちょっと大きいかな。だけど、体は鍛えているのかしっかりしている。髪は黒く、長すぎず短すぎず、まるで模範生とのようだ。とても凛々しく、聡明な印象を受けた。
一方、もう一人の女子生徒だ。身長は140ぐらいかな?とても小柄な子だ。線が細く、庇護欲がわいてきそうな見た目をしている。こちらも、きれいな黒色の髪で肩につくかつかないか、というギリギリのところで整えられている。こちらは、どちらかというと、笑顔が素敵で、誰に対しても分け隔てなく接しそうな印象を受けた。
「おい、アレン。見ろよ、あれが王の息子だ」
隣に座っていた生徒が指をさしていう。
やっぱり、彼がそうなんだ。なんだか王と言われてもおかしくない雰囲気が漂っていたから、そうかなとともっていたけれど、でもその横を歩いている彼女は誰なのかな?
「あの、隣に歩いている女子生徒はだれなの?」
僕は疑問に思って聞いてみた。
「さあ、俺にはわからねえ。だけど、いいよなあ。かわいくて彼女にしてえ」
「ははは……」
一緒にあるいているということは、同じぐらい偉い人なんだろう。きっと、隣の彼の願いは、かないそうにないので、心の中で黙とうをささげた。
そのあとは、学園長が壇上の上でお決まりの挨拶をし、それぞれの教室へと移る流れとなった。
俺は体育館に入った瞬間、やたら注目されて居心地が悪かったが、なんとか耐えきって1-Aの教室へ入った。クラスはA~Cまであり優秀な生徒から順番にAから割り振られる形式である。
俺の席は一番後ろの窓際だ。その隣がメイリの席になっている。そして、アレンは俺の前の席だ。
さて、どういうふうに接しようかと思ったら向こうのほうから話しかけてきた。
「ベイン君だよね、僕はアレンっていうんだ。一緒のクラスになれてうれしいよ」
「ああ、よろしくな」
とりあえず、俺はそっけなく接しよう。いい印象を持たれても困るしな。
だが、アレンは特に気にしてなさそうだった。
「あ、メイリさんだっけ、ベイン君の隣を歩いていた子だよね。もしかして、メイリさんも偉い人だったりするの?」
今度はメイリにも話しかけていた。
メイリのほうを見ると、少し困ったような顔をしながら答えた。
「い、いえ。私はベイン君の奴隷です。普段はメイドとしてお世話をさせてもらってます」
メイリがそういうと、クラス中だざわめいた。
「奴隷って嘘だろ」
「あんなかわいい子が」
「さすが王様は違うぜ」
予想以上に俺たちの会話は聞き耳をたてられているらしい。
対するアレンはというと。
「ど、奴隷?そうなんだ、僕がいうのもなんだけど、よくこの学園に入れたね」
まさか、奴隷だとは思わなかったのだろう、驚いた様子だが言葉を選びながら話しているのが伝わってくる。まあ、いい機会だ。俺はわざと机の上に置いていた。入学式の時にもらった資料を偶然を装って落とした。
「おい、メイリ資料が落ちた」
自分で落としたにも関わらず当たり前のように、メイリに拾わせる。そうすれば、そのうちアレンからなにかアクションがあるだろう。
「あ、はい、今拾いますね」
メイリはスカートを抑えながら、身をかがめ、優雅にとり、俺の机に上に戻した。
それを見たクラスメイト達は俺に対して眉をひそめていた。
「奴隷ってのはほんとみたいだね。うん、でも自分が落としたものは自分が拾うものだとおもうけれど」
さすが主人公だ、俺の立場を知っているだろうに、物怖じせずに思ったことはしっかりというみたいだ。
さて、つかみは順調だ。あとは、俺がどうしようもないやつだと思わせるために、周りの人間を見下すような目をして答える。
「これだから、愚民は困る。なぜ、王たる俺がいちいち自分で紙きれを拾わなければならないんだ?近くに奴隷がいるのだから、そいつに拾わせるのは当然だろ」
すると、アレンが何か言う前に、メイリが口をはさんできた。
「私はいいの。もう、慣れてますから、気にしないでください」
こんな扱いをうけても、いやな顔一つせず、穏やかな笑みを浮かべて言った。
「そうなんだ、まあメイリさんがそういうなら」
アレンがしぶしぶという感じで、引っ込んでいき、今度はほかの生徒と話し始めた。
さて、これで第一印象は最悪になっただろう。
すると、扉が開き、担任の先生が入ってきたのでみんな、話をやめてそちらに体を向けた。
「よし、みんな今日からお前たちのクラスを受け持つことになった。よろしくたのむ」
簡単な挨拶を終えた後、さっそく授業が始まったが、俺は王城の中で必要な知識は学びおわっているため退屈だ。ベインは幼少のころから知識を詰め込まれているので、教わることはあまりない。だが、メイリやアレンを見ていると、真剣に話を聞いて何やらメモをとっていた。そんなこんなで、授業が終わり、昼の時間になると、俺はメイリをつれて食堂に向かった。
「なにか適当に買ってこい」
俺はそこで、アレンも近くにいることを確認してから、メアリに命令した。
「はい、ご主人様」
そういい、なにか注文しにいった。
この学園は当然ベンドラ学園の中でも最高峰で、食堂といっても一流のシェフが作っている。食堂のテーブルには番号がふってあり、商品と番号を伝えれば、向こうが運んでくれる形式だ。
席に座っていると、メイリが戻ってきた。
「ハンガーグセット2人分頼んできました」
なぜか、嬉しそうにメイリが言いながら、隣に座る。俺は視線だけ向けて「そうか」と一言だけいうと、メイリが、俺に近寄ってきた。
「ちょっと、ネクタイずれてますね。直します」
しまった、命令する前に、メイリに自主的に動かれては、周りから見ると俺が強要してるようには見えない。むしろ、ほほえましいカップルか何かのように映っているのではないか。それを知ってか知らずか、楽しそうにしていた。
昼が終わり、午後からは魔法の実習の時間だ。
俺たちは、全員特別ルームに移動した。ここは、1階は四角いステージが2か所あり、2階には観戦用の長椅子がある。
「えー、みなさんにはまず魔法をどこまで具現化させることができるのか見させてもらいます。各々、自分の出せる魔法を使ってみてください」
そういうと、クラスメイト達はそれぞれ距離を空け、なにやら必死に魔法を唱えていた。
俺は、他の人がどれくらい魔法を扱えるのか知りたかったので、しばらく周りを観戦していた。
「ファイヤー」
一人の生徒が両腕を前に出してそう唱える。
ファイヤーか、高温の炎の塊を前方に発射する魔法だ。なかなか、やっかいな技だ。と思ってみていたが、一向に技が発動する気配がない。いや、彼の手のあたりを集中してみてみると、マッチ棒に火を付けたかのように、かすかに灯っていた。
なにか、いやな予感がした。ほかの生徒を見回してみても、ちょろっと水を出せる程度だったり、制服をまくって、筋肉をアピールしている奴がいたり……。ふいに、生徒たちが驚いて拍手などをし始めた、何かとおもって、視線をたどると、俺から少し離れたところで、メイリがシールドをはっていた。
「おお、魔法をあそこまで現実に投影できるなんて」
「あのこすげえ」
「奴隷なんだよな?」
ああ、こいつらの魔法を見る限りじゃあ、それなりの大きさのシールドを展開できるメイリを見れば、そんな反応にもなるか。なんて考えていると、徐々に俺へと視線が移ってきていることが分かった。
「それにしても、そのご主人様は何にもしてないぜ」
「ああ、もしかして魔法使えないんじゃないのか?」
「ありうる。あの奴隷に何もかもやらせてるしな」
なるほど、まだ魔法を使ってない俺をあろうことか、使えないとでも思っているのだろうか。それなら、いい機会だ。メイリにひどいことをするっていうプランは崩れつつあるし、違う方向でアレンから敵対心を持たれるようにするか。
「はっ、馬鹿な奴らだ。実力の差もわからないのか。いいだろう、俺が鍛えなおしてやる。サンダーアロー」
俺はそういうと、右手を上げ3つの真っ白な矢を顕現させる。すると、周りにいたやつらが一斉にこちらを振り返り、ざわざわとしていた空間が一斉に静まり返った。先生も気づき、なにやら言おうとしているが、気にせず、俺を侮辱した3人へむけて一斉に発射する、
「うわあああああああああ」
「やめてくれええええええ」
「たすけてえええええええ」
向かってくるサンダーアローに対し背を向けて逃げ出そうとしたが、遅い。その程度の速さで俺の攻撃が避けられるはずないだろう。だが、ぶつかる寸前。キンッと音がして消滅した。
「ベイン君。彼らが君にひどいことを言ったからといって、これはやりすぎだ。当たったら怪我じゃすまないかもしれない」
アレンが3人の前に入り、両手に持った刀で、魔法を防いでいた。それまで、刀なんて持っていなかったところを考えると、それが彼の魔法なんだろう。刀を作り出したのか、どこからか取り出したのか。
「ちょ、ちょっと、何してるんですか。ご主人さま」
俺とアレンが視線でやりあっていると、メイリが慌ててやってきた。
「ご主人さまの魔法は強すぎるんですから、使う相手はちゃんと見極めないとですよ」
「ああ、そうだったな。俺を見下していたやつらだから、相当できるのかと思ってな」
そんなやりとりをしていると、先生がやってきて、ひとまず場は収まった。
それにしても、アレン以外まったく魔法を使えないじゃないか。予想外の連続だが、目的であるアレンからの敵対心は稼げたからひとまず満足だろう。ゲーム通りなら、そろそろ何かアクションを起こしてくれるはずだが。
授業が終わり放課後になり、帰宅する時間となる。とはいえ、学園生はみんな寮生活だ。男子寮と女子寮で分かれており、俺もメイリもそれぞれの部屋に戻ることになる。
「ご主人さま、帰りましょう」
メイリが手提げカバンを手にもって、俺に近づいてきた。
「ああ、行くか」
席をたとうとしたところ、前の席に座っていた、アレンが急に後ろを振り返り、真剣な表情で俺を見据えてきた。
「ベイン君、君と1対1で勝負させてもらえないか。」
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