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襲撃

 あれから2週間ほどたった。

 メイリには、俺の身の回りのことを命令で無理やりやらせるなど、必要最低限な会話しかしていない。

 魔法の訓練の時も彼女はただだまってみているだけだ。


 俺もそのほうが集中できるから特に気にしない。というのも、学園で主人公と対決するのはゲームのシナリオ通り揺るがないだろうが、そもそも俺は戦えるのか疑問に思っている。


 なにせ、実際魔法を使ってみるとゲームの中とは別物だ。俺の魔法をどうかわしてくるのかわからないし、相手の技の対処法もわからない。とにかくここ最近は、ゲームの中の主人公であるアレンの技をイメージして、現実とすり合わせていくことに専念していた。


 傍から見たらシャドーボクシングをしているように見えるだろ。仮想の敵を自分の脳内に作り現実に投影する。ベインは魔法の才能があるだけに、そういう能力も得意だった。俺の中ではすでに、幻影がみえるほどに集中していた。


 アレンは刀を持って戦うタイプだ。特にやっかいなのは相手の動きを見切る目を持っていることだ。こちらの行動の予備動作を的確に読み、相手の行動を先読みするのだ。つまりアレンに勝つには動きが読まれる前提で動かなければならない。もちろん勝つ必要もないが、ぎりぎりで負けなければならないので、完敗しないようにしなければならない。


 ひたすらイメージして、相手の踏み込みには速攻で発動できる小型の電気球を前面に展開したうえで、大きく回避行動をとるここまでしてようやく、相手の一太刀をかわすことができる。俺はなんども動きを練習つづけた。問題は相手の強さがわからないことだ。なので、俺が対応できるようになると、少しずつ相手の強さも上げていき常に限界に挑んでいる。


 「ふぅ、メイリ。タオルをくれ」


 俺はメイリからタオルを受け取り汗を拭く。

 もう時間はない。残りの期間はひたすら特訓と、メイリへの嫌がらせを集中して行わなければ。

 

 

 「なぜ、ご主人さまはそこまで、必死に訓練してるんですか?」


 今まで無言で見ていたメイリからそう問いかけられた。

 それもそのはず、メイリから見たら何を必死に特訓してるのかと思うだろう。

 なにせ、俺はこの国の王になる人間だ。武人でもなんでもない。

 なぜそこまで、必死に腕をあげようとしているのかわからないのだろう。


 さて、なんて答えよう。それは将来アレンというやつと対決して負けるためだ。

 などといえるわけがない。かといって、ベインは「学園に入学するのだから、それなりに力はつけないといけないだろ」なんて真面目な奴では決してない。ならば、傲慢でわがままなベインが言いそうなことは。


「そんなの決まってるだろ。俺より強いやつが存在していいわけがない。俺はこの国の王になる男だからだ」


 俺はなぜそんな当たり前のことを聞くのかという風を装って、それがさも当然であるかのように言う。

 それを聞きメイリはなぜか顔を下に向け。拳を握りしめていた。


 「そうですか……」


 それだけいい、メイリは何も言わなかった。 

 よしよし、うまくいってるぞ。多分俺のことを馬鹿なやつだと笑っているのだろう。井の中の蛙だと、世間知らずの愚か者だと。

 俺は部屋に戻ろうと、歩き出そうとした瞬間、叫び声を聞いた。


 「うわああああああああああああ」

 「きゃっ。悲鳴がきこえるよ」

 

 メイリが驚いて声を出した。

 くそっ、ゲーム開始は4月の学園に入ってからだったから、こんな展開知らねえぞ。

 俺はとにかく、声に聞こえるほうに走った。


 「確か裏庭の森の中からだ」


 なにか、致命的なことが起きる前に対処しなければならない。

 俺はひたすら走った。後ろからメイリも走ってついてくる。

 悲鳴が聞こえてきた場所につくと、一人の使用人が化け物の前に倒れていた。


 「なにあれ、人間……じゃないね」


 メイリのいうとおり、人の影がそのまま直立したような不気味な存在だった。

 その両手に抱えるように持っているのは、これまた実体のない死神の鎌のようなものだった。

 

 「あれは……悪魔だ」

 「悪魔って、え?ほんとに悪魔なんて存在したの!?」


 今はメイリに気を配っている余裕はない。


 「おい、お前大丈夫か」


 とにかく、使用人に声をかけるも気絶しているのか、仰向けに倒れたまま返答はなかった。


 「どうするの、ご主人様」


 メイリが俺に視線を向けてきた。

 影のようなものは、ゲームの世界ででてきた、悪魔と同じだ、

 ベインはこんな序盤から悪魔と遭遇してたのか、つまり、学園にいたときはすでに半分乗っ取られてた可能性があるな。だが、今の俺が乗っ取られるわけにはいかない。


 「どうするだって?そんなの決まっているだろ。俺の領域に無断で立ち寄るようなやつは、化け物だろうか許すわけないだろ」


 とは言ったものの、状況は簡単ではない。最初に悪魔と戦うのはゲーム中盤なのだ。今の実力で勝てるかどうかわからないが、やるしかない。


 「サンダーアロー」

 

 俺は右手を上にあげ、3本の真っ白な矢印上の矢を作る。

 それを正面の悪魔に放つ。

 しかし、3本とも鎌を一閃させてはじかれる。


 「くそっ、やっぱまともな攻撃じゃ通じねえか」

  

 「あんな化け物になんて勝てないよ!早く逃げないと」


 メイリが慌てたように叫ぶ。

 だが、俺は直感した。倒さない限りこいつから逃げることはできない。

 覚悟を決める。これがこの世界の意思という奴なら、最後まであらがってみよう。

 最初っからそのつもりだったしな。


 「逃げるなら一人で逃げろ。俺はこいつを倒す」


 俺は悪魔につっこんで、接近戦を仕掛ける。

 右手に電気を集めて、剣を作り、そのまま切りつける。

 悪魔はよこに体をスライドさせてかわす


 「おいおい、人間の動きじゃねえな」


 そのまま俺に向けて鎌をおろす。

 がちんっ!と音がする。俺はとっさに左手に電気の剣を作り受け止め、後方にジャンプして距離をとると、悪魔はそのまま突進し、鎌を連続でふるってくる。俺は咄嗟に複数の電気玉を前面の展開するが、鎌の一閃で吹き飛ばされる。


 肉薄してきた、必殺の一撃をふるってくる。俺はなんとか致命傷を避けながら、両手の剣に、電気玉を展開し、鎌の攻撃を防いでいるけど、次第にうけきれなくなり、徐々にかすり傷ができてくる。

 

 「本格的にまずいな。動きが速すぎる」

 

 攻撃の速さは人間並みだが、予備動作なしで攻撃を繰り返されると、かわし切れない。

 このままじゃじり貧だ、守ってばかりじゃ勝てないと反撃にでようとした瞬間、悪魔の蹴りが無防備になったお腹に入る。

 並みの力ではない。ベイルはそれなりに体は強いほうだが、それでも耐えられない一撃だ。


 「ぐはっ」


 無防備になった一瞬の隙をつかれ、吹っ飛ばされた。そしてそのまま、俺は動けなくなった。ゆっくりと悪魔が俺に近づいてくる。


 ああ、俺は負けた。ゲームだのなんだの言いっていたのが馬鹿みたいだ。

 始まる前に惨めに終わるのかよ……。

 どんなに、戦略を立てても、どんだけ特訓を重ねようと。終わりは一瞬だ。


 まあでも、おそらく2回目の死なんだろうな。

 そう思うと、なんだか仕方ないような気もしてきた。

 最後に涙を流してるメイリには、謝らないとな。


 「メイリ……ごめんな。でも、お前は助かるから。必ず救世主が現れるから。今は逃げてくれ」


 そういった瞬間。悪魔が鎌を俺に振り下ろした。


 「いやあああああああああああああああああ」


 俺は悲鳴を聞きながら。目を閉じた……

 が、いつまでたっても、終わりがやってこない。不思議に思い目を開けると。

 メイリが俺と悪魔の間に入り、バリアを展開していた。


 嘘だろ……あれは、ゲームの中盤で主人公であるアレンが悪魔にやられそうになった時、今まで魔法を使えなかったメイリが初めて発動させる魔法なのに。これが彼女の隠された力。このバリアは普通の攻撃はふせげないが、対悪魔にたいしては絶対の壁になる。通常の魔法は使えない代わりに、対悪魔専用の魔法のみを使える特殊な体質なのだ。


 「メイリなぜ助けた」


 「そんなの、そんなの決まってます。あなたは私のご主人さまだから」


 今も悪魔の攻撃に耐え続けるメイリは、俺に笑みを見せながらいった。

 はっ、ゲームのシナリオなどは後で修正するとして。今はこの悪魔を倒すことに専念することにしよう。


 「なら命令だ。そいつの攻撃に耐え続けろ」


 俺はそういうと、目をつぶり両手を前に出し魔力をため始めた。

 現状で俺が出せる最強の魔法をぶつけてやる。

 メイリは何をするつもりなのかと、俺を振り返ったが、魔力をため始めたのを見て理解したのだろう。

 ただただ、シールドを維持するのに集中した。


 いくら、悪魔に対して絶対の壁だとはいえ、メイリの集中力が切れたらそこで終わりだ。ろくに今まで魔法を使ってこなかったメイリの魔力は多いとは言えない。だけど、必死に耐える。攻撃の反動で腕が折れそうになっても絶対に後ろには通さないという意思をもって。


 「メイリ、シールドを切り、そのまま俺の後ろに飛べ」


 俺が命令するや、すぐさま魔力を切り、後方へジャンプした。

 これが、こいつに効かなければ、正真正銘おしまいだ。もう手の打ちようがない。

 俺は両手にできるだけ溜めた魔力を一気に放出する。


 「サンダードラゴン」


 両手に注ぎ込んだ魔力が真っ白なドラゴンの形をとり、前方に放たれた。

 すさまじい轟音とともに、視界が白一色に染まる。

 

 「はぁ……はぁ……」


 目の前にいた悪魔は消失し、前方50メートルの地面はえぐれ、木々は跡形もなく消滅していた。

 なんとか、なったか……


 魔力を使い切り、ふらふらになり倒れそうになる。すると、柔らかい感触が当たり何かが俺を支えてくれた。俺はそのまま意識を失った。


 



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