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転生

 不思議な感覚だった。

 あたり一面が真っ暗で何も見えない。体を動かそうにも、感覚がない。

 なぜこのような状況にいるのかさっぱりわからない。

 次第に、体に感覚が戻り徐々に暗闇の中心部分から光が広がっていく。

 気が付いたら、豪華なベッドの上に寝ていた。

 

 「ここはいったいどこだ」

 見覚えのない部屋で起きた俺は近くにあった大きな鏡で自分の姿を確認した。

 全身を真っ黒なローブに覆われていた。

 そして、その顔をみた瞬間。衝撃が走った。

 

 「ぐっ……はぁはぁ」


 俺は額を右手で抑えながら、今の状況を理解した。

 この顔には見覚えがある。確か俺がはまっているゲームで敵役として出てきたキャラだ。

 名前はベイン。とても傲慢でわがままな奴だ。こいつの父はこの国の王様なので誰も俺に怒ることはできないから余計にひどくなっている。

 ちなみに、この国は独裁国家でよそから奴隷を拾ってきては、働かせ、民からは重い税をかしている最悪の王だ。悪魔に魂をささげて、強大な力を手にしているので誰も逆らえない状態だ。

 最終的には主人公のアレンに俺含めやられる敵役である。


 「とりあえず現状の確認だ。どう行動するからはそれからだな」


 今はゲームの進行度を確認しなければ。

 12歳から学園に通うことになり、そこからゲームはスタートしている。

 情報取集のために、俺は部屋を抜け使用人たちに話を聞くことにした。


 「それにしても、なんて広さだ」


 部屋からでると100メートルはある廊下に出た。

 ちょうど、朝ご飯を運んでいる最中の使用人がいたので声をかけた


 「おい、おまえ。ちょっと聞きたいことがある」


 俺はベインを意識しながら、傲慢でえらそうに見えるように言う。

 すると、使用人は真っ青な顔をし、返事をした。

 

 「な、なんでしょうかベイン様」


 ちょっと手が震えていてかわいそうだがベインを演じなければならない。


 「今日は何月何日だ」

 「2月20日です」

 「そうか、行っていいぞ」


 腕を組み、顎で行先を示しながら言う。

 使用人はそそくさとその場を後にした。

 えらそうな態度をとっているが、内心冷や汗をかいていた。


 なぜなら、20日は俺の12歳の誕生日であり、同時にこのゲームのヒロインであるメイリが俺の奴隷として父からプレゼントされるからである。

 このメイリにひどい扱いをした結果、主人公のアレンからこっぴどくやられるのだが、だからといって、やさしく接するわけにもいかない。なぜなら、アレンは俺との闘いで覚醒することになっているからだ。アレンには覚醒して力をつけて俺の父を倒してもらわなければならない。

 そうしなければ、結局父は悪魔にのっとられて、虐殺の限りを尽くすことになるからだ。


 「それならば、俺がとりうる手段は……」

 


 俺はひとまず、朝食をとるために、食堂へ向かう。

 城の内部には専門のシェフを抱えていてそこで食べることになっている。

 大きな扉を開くと、そこには一番正面奥には父が真っ白な服の上に真っ赤な分厚いマントを羽織った格好で座っており、その横には同い年ぐらいいの少女がメイド服姿で立っていた。

 俺は父の近くに腰を下ろした。


 「ベイン。お前今日が12歳の誕生日だろう。プレゼントをやろう」


 そう言って、父は真横に立っていた少女に目をやった。

 つられて俺も今気づいたような風を装って目を向けた。

 白と黒の色を使った一般的なメイド服を着ている。髪はきれいな黒色をしており、後ろ髪が肩に届かない程度に整えられている。身長は140cmぐらいか。ベインは160ぐらいなので、だいぶ身長差はある。

 十中八九彼女がメイリなのだろう。


 「プレゼントって?何くれるの。もしかして、その子?」


 俺は興味ないようなふりをしてそういう。


 「ああ正解だ。こいつは最近拾った奴隷でな。見た目も可憐だし、うちのメイドとして雇おうと思ったが、歳はお前と同じということでな、名前はメイリちょうど12歳で学園にいく時期だしお前に専用の奴隷をプレゼントしようと思ってな」


 やっぱりか、4月から学園に入ることになると考えると、ゲーム開始まであと1か月しかないわけか。

つまり、俺の破滅をさけるにはここから気を使わなければならない。

 とりあえずの方針はここに来る前に決めている。あとは演じ切るだけだ。


 「ふーん、奴隷がプレゼントなんて思ってもなかったよ。まあでも、好き勝手使える便利な手下ができると考えれば悪くないね」


 俺ことベインがメイリに乱暴に扱っていたのは、実は彼女に一目ぼれしたが、ベインの中で奴隷とは自分と同等の存在とは見なしていなかったために自己嫌悪し、そのイライラを彼女にぶつけていたのだ。つまり俺は考えた。彼女を便利な自分専用のメイドとして淡々と扱えばどうなるだろうと。彼女を雑に扱う部分は変わらないけれど、恨みの強度を減らすことによって絶妙に自分だけ助かることはできないかと。


 「なんだ、予想してた反応とは違うが、これも将来、王となり、民を率いていくための練習とでもおもえ」


 そう言い、父はメイリに顎で俺のとこに行くように命令する。

 メイリは何の感情もない目をしながら、淡々と俺のところまで歩いてきて、横で立ち止まった


 「よろしくお願いします。ご主人さま」


 頭を下げて一礼する。まるでどこかの元貴族かのように、きれいな身のこなしだった。

 いや、彼女はわが国に滅ぼされた国の王女候補だったのは知っているが。


 「ああ、奴隷らしく俺の言うことを聞けよ。とりあえず、許可がない限り俺のそばから離れるな」

 

 好き勝手動かれて、何か余計な面倒ごとを起こされてはたまったものではないので、そう命令した。

 俺は彼女に視線を合わせることもなく、そのまま朝食をとり、部屋へと戻ることにした。

 当然メイリもそのままついてきた。


 部屋の前についたとき、扉を開けようと思ったが、身の回りのことは全部メイリを使うことにした。

 

 「メイリ、なに突っ立っているんだ。早くドアを開けろ」

 

 命令口調で、指示をする。

 メイリは何もいわずいう通りにドアを開け、俺が中にはいるとそのまま一緒に入って、ドアを閉めた。


 俺はそのまま大き目な机に座り父から渡された簡単な資料に目を通すことにした。

 この国の次の王は俺に決まっているので、父の一部の仕事を任せられているのだ。

 とはいえ、ただたんにハンコを押していくだけなので、別に難しいことは一つもないが。

 とりあえずさっきから突っ立っているメイリが気になってしょうがない。離れないように命令したのは俺だが、さてどうしようか。俺はこいつから1か月間の間とにかく恨まれなくてはならない。だが、やりすぎると、ゲームのシナリオ道理に破滅の道しか待っていないだろう。


 「おい、メイリ。そこに立ってられると目ざわりだから、そこのソファにでも座ってろ。暇ならそこらにある本でも読んでるがいい」


 とりあえず、適当に命令を与えることにした。

 メイリはその場から動かず、困ったような視線を向けながら


 「あの、このソファとても高価なものだとおもうのですが」


 そんなことを言ってきた。

 なるほど、彼女は自分がこんなにいいソファに座っていいのかと考えているのか。

 俺が座っているデスクは、木でできた固めのやつだから、奴隷が主人よりいい椅子に座っていいのか迷っているのだろう。これは俺が落ち着かないからあえて固めのやつにかえてもらったのだ。


 「ああ、そういっている。文句でもあるのか」


 俺は仕事の邪魔をされたかのように、いらだった声をだしながら答える。

 

 「い、いえ、そのようなつもりは、了解しました」


 メイリは恐縮するように、首をよこに振りながら言うとおりにした。

 するとまた、声がかけられる。


 「あの、ここにある本ほんとに自由に読んでもいいのですか?」


 また、おびえたような視線を俺に向けながら聞いてきた。

 すっかり忘れていたが、ここには貴重な本がたくさん置いてある。

 俺が王になるために必要な知識を補うために奴隷では決して見れないような本がたくさんあるのだろう。

 というか、彼女も元王族のためどれだけ貴重なのかわかっているからこそだろう。


 「ああ、好きに読めといっただろう。お前は俺の奴隷なのだから、知識もそれなりにつけてもらわないとな」

 

 そういうと、メイリは熱心に本を読みだした。これで俺もメイリを気にすることなく考えに浸れる。


 さて、この世界は当然ながら魔法があり俺は学園に入りすぐに主人公のアレンがベインのメイリの扱いに対して怒り、対決することになるのだが、ここは負けるべきだろうな。実力的には俺はアレンよりも強い。王族の血を継いでる上に、幼少のころから魔法について訓練をされてきてるからな。ゲームの中でも、ベインが油断した隙をついてやられているだけだからだ。


 だが、基本的にはシナリオ通り進めるべきだ。だがここで問題なのは、メイリの俺への好感度だ。本来なら主人公のアレンとの対決イベントで負けることにより、メイリは徐々にアレンへと惹かれていくのだ。それはいい、逆にそうでないと困る。だが、俺に対して少しは情をもってもらうようにしなければ、俺は破滅ルート一直線だ。ここの加減が難しい。

 

 とにかく、俺はメイリに対して強くあたりはするが理不尽な要求はしないようにするか。もし、俺が父より優秀な王になるかもしれないと思わすことができれば、少しは変わるかもしれないしな。そうと決まれば、さっさと仕事終わらせるか。


 そんなことを考えながら、真剣な顔で資料とにらめっこしているベインをメイリはずっと見つめていたことには気が付かなかった。



 


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