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後始末の後

「以上が、現在流れている亜人絡みの噂です」


 ニュウは社長に報告を終えて、その視線を獣皮紙から社長へと移した。

 獣皮紙に纏められているのは亜人に絡んだ噂だけだ。


 現在辺境で溢れ返っている大きな噂は纏められていない。

 現在の辺境はとある噂でもちきりだ。


 伝説の探索士ミリバールが辺境領主の実姉であったとの噂で。


 伝説の探索士ミリバールは死して尚人々の間で酒の肴として、英雄譚として、寝物語として語り継がれている。

 その伝説の英雄は実は姫様だった。それは多く人々の関心を呼んだ。


 それは隻腕の領主にとって良い方向に作用した。

 いけ好かない権力者の一人から、大衆的伝説の身内になったのだから。

 それまでは隻腕と言う特徴は暴力が奉じられる辺境においては悪い方向に作用していたのだが、物語の登場人物においては身体の欠損は一転して魅力的な特徴となる。

 そうで無くとも顔だけで一部の女性からは人気があったのだから、尚更だ。


 同時にどこからかミリバールと領主の姿絵が流通し始めて、今や姉弟揃って辺境で絶大な人気を誇る。

 そして何故か弊獣社が儲かるのだ。


 同時に鳴りを潜めたのは亜人の国にまつわる物語である。

 亜人が疫病を運ぶと言う噂が出回り悪い印象が定着しつつあった所に、唐突に持ち上がって消えたのが亜人詐欺の噂である。


「詐欺師が亜人の国との交易を行う商隊を結成する為にと資金を募り、一線を越えて領主からも資金を巻き上げようとしてばれて殺された……ってこんな話私初めて聞きましたよ?」

「所詮噂だからね」


 訝しげなニュウを一瞥もせずに、社長は徐に眼球に指を二本突っ込むと刃状に加工された骨を取り出した。

 ニュウは一瞬びくりと肩を震わせたが、すぐその目に諦観の光を宿して気を落ち着かせた。


「でも噂は重要だよ? だから今回の収穫の一つは、閉都に耳と口を用意出来た事だね」

「非武装のノットですね?」

「そう。今はカンマと言う名を名乗っているけどね」


 閉都に憧れていたみたいだからきっと頑張って仕事をしてくれるよと、社長はどこか投げ遣りに言って、取り出した骨を照明の光に翳した。


「それ、何の骨です?」


 ニュウは何と無く気になって社長に聞いた。

 ニュウは動物の骨を一目見ただけで種類や部位を判別出来る訳では無いが、それでも何故か何の骨か分からない事が気になったからだ。


「鳥の亜人の腕の骨だよ。昔師匠と亜人の国々を暴力で黙らせに行った時に、生きの良い鳥娘が僕を殺しに来たから両腕を捥いで羽毛を毟ってやったのさ」

「……ああ、そうですか」


 興味の失せたニュウの前で、社長は骨を握り込んで息を吹きかけた。

 次の瞬間社長の拳から無数の羽根が湧き出て宙を舞った。

 ニュウはそれを眺めながら掃除が大変だなと思った。


「で、領主に恩を売りつける為に噂を流したのは理解出来ますが、亜人の噂を潰したのはどんな理由ですか?」


 後学の為に教えて下さいと言うニュウに、社長は胡散臭いが少しだけ真面目な顔をしてニュウを見据えた。


「人間ってのはね、常に敵を欲しがるのさ」

「はあ」


 今一要領の得ない回答にニュウが気の無い返事を返すと、社長は少しだけ考えてから言葉を追加した。


「明確に自分と異なる人間は敵にし易いし、共通の敵があれば人間は一致団結してしまうのだよ。そうなると、少しばかり人間は扱い難くなる」


 いつまでも身内で醜く争っていて欲しい物だと、社長はそう締め括って袖口に着いた羽根を鋭い息で吹き飛ばした。

ファンタジーにおいて亜人の存在は大きな要素ですが、当然この話には出て来ません。

何故なら剣も魔法も無い世界ですから。

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