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後始末の前

「生きていたのか」


 ポンドは何を言うべきか少し考えてから、向かいに座る女にそう言った。

 ポンドは女の顔に見覚えがあった。その女はかつて忽然と姿を消した閉都との連絡要員だったからだ。

 場所は弊獣社の社屋二階にある許可を得た者しか立ち入れない部屋だ。


「社長に拾って貰ってね。今は情報を集めたり流したりする仕事をしているわ」


 これと言って特徴の無いその女の名前を、ポンドは知らない。

 ノットも、ヤードも、ニュウもその女の名前を知らない。

 誰だか分からないままその場に溶け込む。女の特技はそう言った物だった。


「一応、事のあらましを教えてくれるとの事だったが……」


 正直聞きたくないよなあと、隣に座るヤードに話を振った。

 地の文に現れない程度に存在感を消したヤードは何の反応も示さなかった。


「知らないと死ぬかもしれない情報でも?」

「だから、そう言った重い話ばっかり突っ込んで来るのを止めて欲しいんだよ」


 俺はもうただの解体士なんだからなと嫌そうな顔で踏ん反り返るポンドに、ただの解体士は社長や領主に仕事を依頼されたりしないわよと言って、特徴の無い女はただ笑った。


「気付いていると思うけど、社長が領主に説明した東域の真実は部分的に嘘なのよね」

「……」

「……」


 思い当たる節にポンドとヤードが口を開きかけて、結局何も言わずに顔を見合わせた。


「本当はあそこ、軍事施設らしいのよ。と言うか、遺跡のほとんどはそうなんだって」


 冷静に考えれば当たり前の話である。

 遺跡が太古の都市だとして、そこかしこに致死性の仕掛けが施されているのは説明が付かないからだ。

 普通犯罪者を拘束する目的であれば非致死性の武器を使用する。

 死んでも構わない攻撃と殺す前提の攻撃の違いは明確だ。


 ヤードは探索士として活動している時からその不自然を認識していたが、ミリバールから太古の人間は大層丈夫だったと吹き込まれていたため疑問を感じていなかった。

 そして真実を知った今はそれがミリバールの優しさ――余計な事を知らないで済む様にする配慮だと理解しており、逆に社長はその辺り容赦無い質である事を再確認する事となっている。


「要は、東域は結局危険地帯と言う事か?」


 ヤードの言葉に特徴の無い女はそんな単純な話じゃないわと言って、表情を幾分引き締めて座り直した。


「私も全てを聞かされている訳じゃないんだけどね、閉都から辺境までを一気に更地に出来る様な装置もあるそうよ? 本当かどうかは知らないけれど」


 自分で言いながらもどこか懐疑的な特徴の無い女とは対称的に、ポンドはそれが嘘ではないと確信していた。

 東域がそれだけの危険物を収容しているとしたら、社長の動きが理解出来るからだ。


 社長は東域を恐れている。自身も含めて何もかもを東域から遠ざけたがっている。

 危険な装置があったとして、結局その装置を稼働させるのには人間が必要だからだ。

 武器を持った時ある意味一番危険な人間は素人だ。

 それは武器が強力な物である程危険度が増す。


 今更ながら、ポンドは背筋が凍った。

 自分が潜伏していた時の東域がいかに危険だったのか、今更思い知ったのだ。


「ま、ここまで脅す様なこと言った訳だけど、社長からの依頼は簡単で危険の少ない物よ? 要は東域に近付く者を監視して管理したいってだけの事だから。私たちは普段の仕事を熟しながら、東域に興味を持った人物を発見して適切に処置するだけよ」


 気負いの無い名前の無い女の前で、ポンドとヤードはそれぞれの疑念を胸の内に隠しながら煮え切らない返事をして見せた。


 ヤードは社長の説明の矛盾点に気が付いていた。

 領主を前に社長は自身の事を殺人等の重罪を犯していない小悪党と嘯いた。

 だが、ヤードは知っている。社長がアールと言う名の殺し屋を返り討ちにした事を。


 そしてポンドもまた同じ事に気が付いていた。

 ポンドは見ているのだ。東域でモリが猪を殺す場面を。

 そしてモリはまだ生きていて、東域の入口を管理している。


(社長は遺跡を完全に騙す方法を知っているか、或いは遺跡を完全な管理下に置いている)


 その場合、社長は遺跡に任意の人物に殺させる事が可能になった事になる。

 そして、その技術が他の遺跡に転用出来ない理由が無い。

 ヤードはそこまで考えて、全て気にしない事にした。

 どうせ今までだってそうだったのだからと。

 何も変わらない。そう、何も変わらない。そうやって自分を納得させて。


(或いは今までもずっとそうだったのかも知れない)


 ポンドはヤードよりも少しだけ深く思考を進めて、そして納得した。

 ポンドはこれまで社長にとって不都合な人間が何人も姿を消している事を知っている。

 本当に消えてしまうのだ。その人物が生きた痕跡は人間の記憶にしか残らず。

 そして記憶は別の記憶に上書きされる。そうやって薄れて、いずれ消える。


 恐ろしい事だとポンドは思った。

 しかし一方で、ポンドはそう言った事に慣れ過ぎていた。

 だから、ただ納得した。

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