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後始末2

 ポンドは深々と溜息を吐くと、観念して社長を見据えた。


「いつから気が付いていたんだ?」


 感情が一周して穏やかな声で問い掛けるポンドに社長は最初からと答えた。


「僕の事を魔術師じゃなくて奇術屋と呼ぶのは、大抵資料廟もしくは魔術協会の関係者かその取引先だよ」


 ポンドの主な取引先は統治院だったが、資料廟の仕事を受けた事も何度かあったし、最初の仕事は資料廟からの発注だった。

 魔の字を避けるのは恐らくその時についた癖だ。


「ああ、でも勘違いしないでよ? 僕は解雇するために来たんじゃないんだ。ちょっと閉都に流して欲しい情報があってさ」


 飄々とした態度でそう言う社長に、ポンドは敵わないなと思った。


 辺境に来た時のポンドは密偵であり暗殺者だった。

 とある補佐管理者からの依頼を受けて、社長を殺しに来た。


 前任者が辺境に到着した日に消息を絶ったと聞いていたポンドは慎重に事に当たり、実に五年も潜伏していた。

 余りに時間を掛け過ぎて暗殺失敗と見做された後も、ポンドは肉屋の解体士として仕事を続けた。


 人体を練習台に積み重ねたポンドの技術は、それが害獣相手でも十分に通用したし、辺境は総じて給金が良い。

 たまに接触して来るかつての同業者相手の商売――情報屋稼業も悪くない収入源だ。

 この社長はそんな事まで調べ上げている。


「この前、閉都で二人ほど管理者を始末して来たんだけどね、思ったよりも大騒ぎになっちゃってさ」


 何でも無い事の様に言う社長に、ポンドはいつでも応戦可能な構えを取る。

 選任管理者と補佐管理者が何者かに殺害されたと言う情報はポンドも得ていた。


 場所が閉都の中心部だったせいで、閉都は蜂の巣を突いたような大騒ぎだ。

 資料廟と統治院が個別に武力を増強させ、その緊張が一般民にまで伝播している。

 年に数度発生する守備機工による防衛が行われたのと同時期だったのも悪い影響を生んでいた。


 平穏なのは数信寮くらいのものだろう。

 と言っても、数信寮は役職持ちが複数人殺されても平穏を維持するだろうが。


「良い機会だから、もっと騒ぎを大きくしようと思ってるんだ」


 胡散臭い笑みを浮かべながらとんでもない事を宣言する社長に、ポンドは自分の顔が引き攣っている事を自覚した。


「閉都にさ、辺境で十人もの守護奴隷が死んだ情報をばら撒きたいんだ」


 神祇官はまだ辺境の地に留まっている。

 守護奴隷を大量に失った事を資料廟に報告していないからだ。


 もし、神祇官が報告するよりも速くその情報が閉都に蔓延したら。

 想像するだけでも恐ろしい混乱が生まれるだろう。


 現在の閉都では統治院の失態に付け入る形で資料廟が力をつけている。

 そこに守備奴隷大量死の醜聞が広まれば、統治院がそれを突かない訳が無い。


 その結果起きるのは、一般民の更なる不信と混乱。


 それをそのまま放置するも良し。便乗して何かを煽るも良し。

 独立性を高めたい辺境にとっては利益しかない。


 益々持って閉都に戻る日が遠のいた。

 最近は閉都に戻ろう等と考えても居なかったのに、ポンドはどこか他人事の様にそんな事を考えていた。

形式上群像劇ですが、主人公とヒロインを選定するならどちらもミリバール一択だと思っています。異論は認めます。

社長? あれはただの背景です。

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