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後始末1

 神祇官は憎々しげに顔を歪ませた。


(この展開はいくらなんでも想定外だ)


 顔を伏せた事でミリバールの死体と見つめ合う形になった。

 大きな黒い瞳が神祇官を映す。

 神祇官はミリバールと面識があったので、この死体が本人のそれである事は疑っていない。

 強引にでもミリバールを死亡指定状態に留め置きたい所だが、ミリバールと言う女はやたら顔が広い。

 ここまで綺麗な状態で死体が存在していては誤魔化しようがなかった。


「我社は遺跡探索組合から一部業務の委託を受けております」


 ニュウが澄ました顔でそう告げた。そんな事当然神祇官は知っているし、ミュウは神祇官が知っている事を知っている。

 つまりこれはただの確認であり嫌味だ。

 先程からずっと神祇官は反論を探しているが、それが見付かる気配は無い。


「ミリバール探索士の認定状態が死亡指定から死亡に移行した事とその時期の確定を加味して、遺跡探索組合側から遡って一般合意規約に基づく遺跡所有者の確定処理を見直して欲しいとの依頼されました」


 遺跡に関する利権は複雑な様で非常に単純だ。

 一言でいえば早い者勝ちなのだ。


 一つ、他者が攻略中の遺跡に手を出してはならない。

 一つ、攻略が失敗した時点で優先権を失う。


 資料廟はこの二点を理由にして強引に遺跡を占有していた。


 今回の騒動でこれらの前提は大きく崩れた。

 全てはミリバールの死亡指定が死亡へと移行したせいだ。


 死亡指定の状態は非常に曖昧な状態だ。

 生きているのかも知れないし、死んでいるのかも知れない。

 攻略中かも知れないし、攻略失敗しているのかも知れない。


 組合はこの死亡指定の状態に対して、一つの特例を設けている。


 一つ、死亡指定状態の探索士は優先権を一時的に喪失する。


 死亡指定された探索士が死んでいたとして、その死体が見つかる保証は無い。

 そもそも誰かがその遺跡に潜らない限り死体が見つかる訳が無い。


 だから資料廟が遺跡を探索する事には正当性があったし、探索の結果ミリバールの死体を発見しても何も問題は起きない筈だった。


 ルートが遺跡に潜る事も問題無い。

 ルートを弊獣社から資料廟に貸し出された人員として扱う事で、発見した遺物に関する権利を強引にでも資料廟に紐付ける予定だった。


 それ以外で遺跡に潜った者は全て優先権の関係で資料廟には勝てない――筈だった。


 だが、この腐敗していないミリバールの死体はそれらの前提を全て覆す。

 ミリバールが最近まで生きていたと言う事は、優先権はずっとミリバールにあったと遡って認定されてしまう。


 更に問題なのは遺跡に潜っていた狩人の二人がミリバール配下の者だった事だ。

 探索士に書類上の引退は無い。

 複数名を率いて遺跡に潜る隊長資格保有者は事前計画書の提出が必要だが、それ以外は優先探索記録簿と拾遺物所有権者目録に名前が載る程度である。


 狩人とは違い誰かからの依頼を受ける事が稀な探索士は、攻略失敗を申請する必要が無いのだ。


 だから、ミリバールの死亡が最近であると認定されてしまえば、ミリもヤードも遺跡の攻略中と見做せるのだ。


 当然、発見した遺物の所有権を資料廟は主張出来ない。


「我社は探索士ミリ及び探索士ヤードの両名を遺跡の所有者として仮認定しました。これは組合の派遣認定士の審査中です。恐らく今日中に追認されるでしょうね」


 用意周到な事に、通常は仮認定後に派遣要請する派遣認定士は既に辺境に到着している。

 ルートが遺跡に潜る際に作成した申請書類を速やかに認定させるために、社長が呼び寄せたのだ。

 そこまでして認可を急ぐ事を不審に思った神祇官は申請書類を入念に確認していたが、派遣認定士を呼び寄せる事自体は寧ろ歓迎していた。

 万が一申請が後日無効になって遺物の所有権が弊獣社に渡る事を恐れたのだ。

 ミリバールの腐敗していない死体の出現なんて、可能性の可能性すら考えなかった。


 こうなってしまうと資料廟に打つ手は無い。

 それでも何か行動を起こすとすれば所有者となった探索士から権利を買い取る事だけだが、当然弊獣社がその程度の事に対処しない訳が無い。


「次に、我社はミリ探索士及びヤード探索士から遺跡の管理業務を委託されました。社長判断でこの委託要請は受理され、こちらも現在派遣認定士による審査中です。よって遺跡は暫定的に我社の管理下にあります」


 そう、つまりどうしようもないのだ。

 資料廟は半年もの間資金と人員を投入した挙句、何も手に入れる事が出来なかったのだ。


「つきましては、資料廟が遺跡周辺に配備しておられます守護奴隷の撤退準備を要請致します。まあ、最短で数時間後には正式な要請が入ると思いますよ」


 反論を考え続けた神祇官だったが、最終的にはただ項垂れる事しか出来なかった。

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