ショートショート「AIぐぬぬ」
Mという作家が、ハナホジしながら小説のアイデアを考えていた。だが何も浮かばなかった。そこへ担当編集者からの電話があった。
「はあい……」
「Mさんですか? まだ次の作品のアイデア、浮かびませんか? そろそろクビにしますよ、もう!」
「クビ、だと?」
布団でゴロゴロしながらスマホを手にしていたMは、がばっと起き上がり、ノートPCの電源を入れた。
「書きまう、今すぐ書きまう! だが残念なことに、アイデアが無くてですね……、何かないですかねえ、こう、斬新なアイデアの種みたいなものが!」
「そうですねえ……、最近の作家さんは、人工知能とかAIをテーマに、ショートショートを書くことが多いみたいですけど」
「AI、だと? 断る!!」
「でしょう? Mさんは流行のネタは、避ける人ですからねぇ、はあぁ……」
「いや、それもそうなんですけどね……。AIネタってもう、すべて書き尽くされてるんです。ほとんどがアシモフっていう作家によってね。あとは全部、その亜流ですよ」
「いやあ、そんなことないでしょ。例えば今こうしてお電話さしあがている私が、もしAIだったらどうでしょうね? AIが人間に小説を書いてもらったり、クビにしたりする小説なんて、なかなか斬新じゃないですか?(にっこり」
「いやいや! 絶対あるよ! 絶対にもう誰かが書いてるよ! 絶対だね!! そんなの俺は嫌だね!!」
「ははは……」
また電話します、と告げたあと、担当編集者と名乗った男はMとの電話を切った。まあ、こうやって適度なコミュニケーションさえあれば、人間は生きていられる。人間というのは絶望やストレスに弱い生き物なのだ。僕たちがもし、そのことに50年前に気づいていたなら……。男は監視カメラで、Mがゴロゴロしながら漫画を読むのを眺めながら、哀しそうにため息をついた。その監視カメラには、こういう張り紙がされていた。
『地球最後のニンゲンです。絶滅危惧種につき慎重に扱うこと。名前はMくん、男性です』
(おわり)