カケルとナナの朝
次の日、カケルは朝からナナに叩き起こされた。
まだベッドもないカケルたちのアパートでマットを一枚敷き、その上で薄い毛布にくるまってカケルは眠っていたのだが、ナナに毛布を剥ぎ取られた。
「カケル、いつまで寝てんの?朝よ」
カケルはようやく起き上がると、目をこすりぼやけた視界の中でナナを探した。
ナナがはっきりと見えてくると驚いて二度見した。
「ナナ、それって」
「ええ。買ってきたわ」
カケルの目に飛び込んできた物体はナナの膝くらいまでの高さのある大きなスピーカーだった。
カケルは口をぽかんと開けたまま固まっていたが、ふとあることに気がついた。
「買ってきたって今」
カケルは枕元に置いていた時計を見つめた。
「まだ朝の7時だそ。どこで買ってきたんだよ」
「細かいことは気にしなくていいのよ」
ナナのその一言にカケルは思わず吹き出した。
(ショウカンビトって、本当何でもありだな)
「でもなんでスピーカー?」
「カケルが音楽を全然聴いたことないっていうから。せめてここにいる間は聴いてもらおうと思って」
「そんなことしなくてもいいのに」
「音楽があるとないとでは大違いなのよ」
「人生がってことか?」
「それはもちろん。でも今は」
ナナは、うしろに回していた手をカケルの前につきつけた。
ナナの手にはホウキが握られている。
カケルはじっとホウキを見つめた。
「えっとつまり?」
「掃除よ」




