ナナ
インターホンの音が聞こえて、リリィは夕食を中断した。
ドア越しに声を掛ける。
「どちら様ですか?」
「リリィ様にお届けものでーす」
(ん?この声どこかで聞いたような)
リリィはドアを開けた。
「やっぱりあんただったのね、何がお届けものよ」
そこには、にこっと笑ったナナが立っていた。
ナナは、見た目は12、3歳の少女。
以前、リリィはナナと公園で出会ったことがあった。
「あんた、何しに来たの?」
リリィは嫌そうな顔で、ナナを見つめた。
「その喋り方と顔、こわーいリリィの先輩にそっくりだね」
「全く、口だけは達者ね。で?」
「ん?」
「だから、何の用なのよ?」
「あのね、私の親、今日仕事で遅くなるみたいでひとりで夕ご飯を食べるのが怖いの」
「だから?」
「だから、一緒に私と食べてくれない?」
リリィは、はあっとため息をついた。
(この子に住所を教えるんじゃなかったわ)
「だってリリィ、前に言ったじゃない。困ったことがあったらいつでも来なさいって」
(確かに言ったわ。はやくあんたを追い払うために。適当な住所を教えちゃさすがに可哀想だと思って本当の住所を教えた私も悪いけど)
「わかったわよ。入りなさい」
「やった。おじゃましまーす」
部屋に入るやいなやナナは、ソファーの上に荷物を投げ捨て、テレビのチャンネルをいじり始めた。
リリィは大きなため息をつきながら、キッチンに立つ。
「たいした材料が残ってないからオムライスでもいい?」
「うん。いいわよ」
目当ての番組を見つけたのか、椅子に座るとじっとテレビを見つめていた。
「ねえ、ナナ」
「何?」
「あんたさ、いつも公園であんなことしてるの?」
「あんなことって?」
「この前、私たちにしたことよ」
「あれのこと?同情するなら金をくれ作戦」
「なによその名前」
「どっかの国のテレビドラマの名言からとったの。私、親がちっともお小遣いくれないからさ、ああゆうことしないと、お金ないのよ」
「あれはやりすぎよ。それに一緒に連れていた犬はどうしたの?」
「パトラッシュのこと?あの子は誰かの飼い犬だから、家に帰ったと思うわ。あの作戦には可愛い動物が欠かせないの」
リリィはもはや呆れて言葉が出なかった。
「でもね、あの作戦でこうやって本気で優しくしてくれたのはリリィだけよ」
「私も好きでやっているわけじゃない。先輩に言われて仕方なく」
「ふーん。なんだか可哀想ね」
リリィはむっとしてナナを見つめた。
(あんたが言うな)
「ほら、できたわよ」
リリィは、テレビを見つめるナナの前にオムライスを置いた。
ナナは目を輝かせながら、スプーンをとった。
「こんなまともな料理本当に久しぶりだわ」
(嘘つけ)
「同情引いて儲けたお金でそれなりに食べてるでしょ」
「あら?あんまり収入がないのよ。あの作戦」
「あっそう。私、シャワー浴びてくるからそれ食べたらまっすぐ家に帰りなさいよ」
「ふぁい」
スプーンを加えたまま笑顔でそうナナは答えた。
(笑顔は可愛いんだけどね)
シャワーを浴びてリビングに戻ると、ナナの姿はもうなかった。
「ちゃんと帰ったようね」
きれいに平らげた器のよこに、“また来るわ”と書かれたメモ用紙が置かれていた。
「あの子の親は一体何をしているのかしら」
リリィはナナが食べ終わった食器を流し台へと運んだ。