存在のない存在
授業中であの状態なら休憩中はどんな状態なのかと先生たちは考えたことがあるのだろうか、いやある、だから授業が終わったら逃げるように教室を出て行くんだ。とカケルはチャイムが鳴るとそう思った。
カケルは休憩時間になると息を殺す。
結果的にはカケルはこの教室でひどい目にあったことはない。
だが、今までの経験をふまえてわかっていることは、教室の中ではできるだけ存在を消すこと。
あんな風にひどいことをされるくらいなら、自分は息を殺していたほうがずっと楽だからだ。
目の前からは笑い声が聞こえる。
子供の笑い声とは思えない。
悪魔のような笑い声。
人を殴る音も。
小さな悲鳴も。
(ああ。怖い)
カケルは耳を塞ぎたくなった。
でもそんなことしたら、あいつらに目をつけられる。
だから、耳をふさいだことは一度もない。
この教室ではあいつらが中心。
あいつらのためにカケルはここで生きている。
存在を消しているのに?
変な話だ。
昼休みになるとカケルは、そそくさとひとり教室を出て裏庭に向かう。
そこに座って朝作ってもらった弁当を食べる。
裏庭は人がほとんど来ない。
カケルにとってこの学校で唯一落ち着ける場所なのだ。
カケルにとっていつから教室が怖くなったのか思い出せない。
小学生の頃からかもしれない。
ただ、確かに言えるのはカケルがおじいちゃんからショウカンビトの話を初めて聞いたとき、あの教室から助け出してほしい。そう思ったことは確かなのだ。
だから、きっともうずっと長いこと怖いのだ。