ナナの行方
(街の方に向かったみたい)
リリィは、ナナの後を追った。
街はまだたくさんの人で賑わっていた。
それもそのはず。今日は休日前夜なのだから、多くの人は誰も家に帰りたがらない。
そんな人ごみの中、ナナを見つけられるはずがないし、まるで空を飛ぶように逃げた
ナナがこんな人ごみに紛れるはずがない。とリリィは思った。
リリィは顔を上げて建物を見上げた。
ナナが建物から建物へ飛び移っているのではないかと考えたからだ。
そこでリリィは、我に返った。
(私、何やってるんだろう)
ふっと鼻で笑ってリリィは視線を人ごみに戻した。
(ナナがあんなところにいるはずがないし。あんな風に身をこなして飛べるはずもない。そもそもあんなこと人間ができるはずがない)
「きっと何か見間違えたんだ」
まるでさっき目撃したことはすべて夢だったんだとリリィは思い始めていた。
人がしかも知り合いが建物の屋根を突き破って飛び出してきて、そのまま夜の街に消えてしまうなど信じられるわけがなかった。
(きっと疲れてるのね)
リリィはさきほどまでの出来事をまるでなかったかのようにいつもどおり地下鉄に乗り、ふた駅あとで下り、アパートに戻った。
だがリリィは本当はわかっていた。
さっきのあの出来事が見間違いでないことぐらい。