嫌な予感
ナナは例の廃墟でカケルを待っていた。
「遅いわね。カケル」
ナナがカケルと別れてからかなりの時間がたっていた。
とっくに日は沈んでいる。
その時、遠くからサイレンの音が聞こえた。
ナナはその音に体をびくっと震わせた。
サイレンの音はだんだんと近くなり、やがて遠のいた。
「あの音」
ナナはあの日を思い出していた。
リリィとの最後の日。
あの日、ウォーキンシティでサイレンの音が鳴り止むことはなかった。
今でもナナの耳にあの不安気な音色が蘇る。
だからだろうか、ナナの中に不安な気持がだんだんと湧き上がってきた。
嫌な予感がナナの頭によぎったその時。
「まさか」
そう言って、ナナはいてもたってもいられなくなり駆け出した。
赤いランプが暗闇の中でいくつもぐるぐると回っているその光景を見たナナは、自分の鼓動が早くなるのを感じた。
(やめて。お願い)
サイレンの音がまた近づいてきて、赤いランプの点いた車がもう一台、また一台とやってきた。
ナナは忘れていた。
別れは唐突にいつも突然現れることを。
目の前にはたくさんの人々がざわつきながら煙が立ち込める目の前の建物を見つめていた。
そこはイアトマ国になじみのないナナにとってもうすでに見慣れた建物だった。
「学校で火事?」
「まだ人が何人かいるらしい!」
「消火はまだ!?」
そんな声があちこちで飛び交うど真ん中でナナは立っていた。
ナナにはわかったのだ。
カケルはまだあの学校の中にいる。




