カケルへの思い
ナナは頬杖をついて店を眺めた。
黄色い光に包まれたアンティークの小物たち。
外の喧騒などまるで感じさせずに静かに流れるクラシック音楽。
だが、そんな落ち着いた空間の中にいてもナナの目には泣き叫んでいたカケルの姿が焼きついていた。
ナナが初めてカケルに持った印象は“許せない”だった。
リリィのように生きたくても生きることができなかった人間がいるのにどうして簡単に死にたいなんて言えるのか、ただ死にたいなんて思えるカケルがナナは許せなかったのだ。
でも、カケルをずっと見ていてわかった。
カケルは自分が平穏に生きるために、自分の存在を消して生きていた。
矛盾したその生活は息をすることすら辛そうに見えた。
苦しい毎日を、何のために生きているのか分からない毎日を、早く終わってしまえと願うカケルのことを“許せない”なんてナナは思えなくなっていた。
リリィの願いごとは間違ってなどいなかった。
カケルを救わなければ。
リリィの願いを、思いを、届けなければ。
自分とは違う世界なんてないことを。
外に出れば様々な発見や出会いがあることを。
音楽を聞くだけで気分が変わることを。
そうじをすることで身も心もスッキリすることを。
家具の組み立てが実は楽しい思い出になることを。
美味しいものを食べるだけで幸せな気分になることを。
すべては自分の身近にあることを。
生きていればなんでもできることを。
そして、逃げ出すこともできることを。
ナナは悪いことだとは思わない。
人と比べて自分が幸福であることを感じることを。
忘れてはいけないのだ。
自分がいかに恵まれているのか。
死んだ人間に比べれば生きている人間はなんだってできることを。
カケルに知ってほしい。
そして生きてほしい。
この世界で。