ナナ、ダミアンの店へ
公園を背にしてカケルは歩いていた。
ゆっくりと、日が沈み始めたこの街を眺めながら。
カケルには確信はなかった。
ライルがリリィと知り合いだったのかどうか。
本来は、リリィの家族にあのバッグはちゃんと返すべきだろう。
だが、ライルにはあのバッグが必要だったということだけは確信が持てた。
もし、ライルの知り合いがリリィではないにしてもあのバッグはライルにとってきっと大きな存在になる。と。
「これでよかったんだ。そうだよね?リリィ」
カケルはそうつぶやいた。
ナナはこのドアを開けるのはいつぶりだろうかなんて思わない。
懐かしいとも思わない。
この店をいつも視界にとらえていたからだ。
ここのサンドが食べたいとも思っていたし、ダミアンにも会いたかった。
でも、ナナはあの日からこの店に来ることはなかった。
ここはリリィとの思い出の場所だから。
ナナがドアを開けると、カウンターの奥にいたダミアンが振り返った。
いつも通り「いらっしゃい」と声を掛けるつもりだったのだろうが、ナナの顔を見るとポカンとした顔のまま固まってしまった。
「何よ、ダミアン。その顔は」
ダミアンは、ふっと力が抜けたように笑った。
「ナナ。来るのが遅いよ」
「そう?もう閉店だったっけ?」
ナナはそう言うと、颯爽と歩いて窓際の席に着いた。
何食わぬ顔でメニューを読むナナの席にダミアンは水の入ったコップを置いた。
「ご注文は?」
「見てわからない?まだ選んでるんだけど」
「見てわかるから聞いてるんだよ。もう決まっているだろ?」
ナナは、むっとした顔でダミアンを見つめた。
ダミアンの顔はにっと笑っていた。
ナナは、小さく息を吐いてメニューを閉じた。
「サンドのセットひとつ」
「うん、やっぱり。僕が思っていたメニューと同じだ」
「もう。うるさいわね。早く作りなさいよ」
ダミアンはくすっと笑った。
「はいはい。すぐお持ちしますよ」
ダミアンは素早くメモを取ると、カウンターの奥へと戻っていった。