ライルの考え②
カケルは黙った。
その通りなのかもしれないと思ったからだ。
今までは人の印象に残らないように生きてきた。
教室で息を殺してまるで存在なんてないように。
でもそれは、自分が笑いものになりたくないからだった。
いじめられて、情けない自分を誰にも見せたくなかったから。
”恥ずかしい印象や変な印象をもたれることは誰にだってある”
ライルの言葉がカケルに刺さる。
カケルが持たれたくないと思っていた印象は誰でも持たれているものなのだ。
カケルは自分が見つめるべき場所を間違えていることに気がついた。
”俺はただ、ひとりでもいいから誰かに覚えてもらいたい。あの時、あんな考えや思いを持っていた人間がいたということを誰かに覚えていてもらいたいんだ”
(ライル、あんたはすごいよ)
下を向いて黙りこくっているカケルをライルが心配そうに見つめた。
「おい、カケル?」
カケルは顔を上げるとじっとライルの青い瞳を見つめた。
「ライル、俺、ライルの考え方すごく好きだ。だって俺今その言葉ですごく救われた。なんか背中を押されたような気分になった。さっき、俺は誰にも覚えられない人間なんだって言ってたけど、俺は絶対ライルを忘れない。忘れないよ」
じっとライルを見つめるカケルに、ライルは拍子抜けしたような顔をしていたが、にっと笑うと、カケルの頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。
「うわ、なにすんだよ。ライル」
「なんだよ。カケル、お前めちゃくちゃいい奴じゃねえか」
それからライルはカケルの頭をポンと叩いた。
「ありがとうな」
カケルは、顔が少し赤くなった。
「ほら、はやく案内しろ。カケル」
そう言って微笑んだライルの顔はやっぱりカッコイイなとカケルは思った。