ライルとの出会い
ライルはカケルに右手を差し出した。
カケルはその右手に自分の右手を差し出し、ぎゅっと力強く握った。
この街の、この挨拶の仕方がカケルは好きだった。
「あの、ライルもウォーキンシティに住んでるの?」
「前はな。このあたりの会社に勤めてたんだが」
ライルは、ふと遠くに立ち並ぶビルを眺めた。
「でも潰れちまってな」
そんなライルをカケルはきょとんとした顔で見つめた。
(ふうん。ウォーキンシティだとやっぱり経営大変なのかな?)
その時、大きなぐうっという音が聞こえた。
カケルは、顔を赤くして反射的に自分のお腹を押さえた。
そんなカケルを見てライルはまたゲラゲラと笑った。
やっぱりイケメンに似つかわしくない笑い方だとカケルは思った。
「なんだ、お前腹減ってんのか?」
「フリーマーケットを見てから、昼飯を食べようと思ってたんだけど」
「こりゃ、先に腹ごしらえした方がよさそうだな。そうだ、いい店を教えてやるよ。また街の中心地に戻らないといけないんだが」
「いいよ。公園のカフェはほとんど行き尽くしたから」
ライルは驚いて、また目を見開いた。
(あ、しまった)
「お前、本当長いことここに滞在してるんだな」
「学校が長期休暇だからね。それでお店の場所は?」
カケルはさっさと会話を戻す。
「街の中心地のビジネス街のすぐ横にダミアンの店ってところがあって」
「ダミアンの店?」
「なんだ?知ってるのか?」
「え、いや」
(確か、ここに来てすぐの頃、ナナに行きたいって言ったらそこはあんまり美味しくないからダメって言われた店だ)
「そこのサンドがめちゃくちゃうまいんだよ。俺が勤めていた会社の近くで」
「おいしいの!?」
ライルは不思議そうな顔をしてカケルを見つめた。
「やっぱり知ってたのか?」
「前に友達が、あ、ここに住んでいる友達がそこの店は美味しくないからやめとけって」
「なんだって!あそこのサンドを食べてうまくないなんて言う奴がいるとはな。そいつの舌きっとおかしいぞ。とにかくあの店のサンドはこのウォーキンシティで一番オススメだ」
「わかった、ライルがそこまで言うなら行ってみるよ。ていうか」
「なんだ?」
「そんなにオススメするならライルも一緒に行かない?」
そのカケルの誘いにライルはきょとんとした顔をして、それから微笑んだ。
(え?)
カケルは、そのライルの微笑んだ顔がとても悲しそうな顔に見えた。
「俺は、いいよ。まだ全然腹が減ってないんだ」
「そ、そっか」
(気のせいか)
「それに今から友達のフリーマーケットの手伝いなんだ。カケルは昼飯食べたあとにフリーマーケット行くんだろ?」
カケルは頷いた。
「また俺を見掛けたらダミアンの店の感想聞かせてくれよ」
「うん!わかった」
ライルは、にっと笑った。
「じゃあ、またなカケル」
「またね、ライル」
ライルは、カケルに左手を上げると、背を向けてフリーマーケットへと向かって行った。
その薬指に指輪がはめられているのがカケルにはわかった。