ナナのいない休日②
街は昼間の光に包まれかけていた。
少し寝すぎたな、なんてカケルは思いながら空を見上げると目を閉じた。
(いい天気だな)
カケルが再び目を開けて地下鉄の駅へと歩く姿は誰が見てもここウォーキンシティの住人だと思うほど様になっていた。
そう。
カケルがウォーキンシティに来てすでに3週間が過ぎていた。
この3週間でカケルはすっかりこの街に馴染んでいたのだ。
アパートから一番近いコンビニも、駅への近道も、上の階の住人も。
カケルにとってすでに見慣れた光景となっていた。
コーヒーだって飲めるようになった。
そして、ずっとここに住めたらなんて思い始めるほどにカケルはウォーキンシティの魅力にすっかりとらわれている。
だが、ここにいられるのは学校が休みの間だけ。
あと1週間ほどしたらカケルはイアトマ国に戻らなければならない。
そう思うと地下鉄に乗っていたカケルの口から自然とため息が漏れた。
(戻りたくない。あの場所に。学校に)
ふと地下鉄の車内を見回した。
ウォーキンシティは世界一の大都市であるため、地下鉄にも様々な人々が乗っている。
まるでマネキンのような美しいスタイルをした人からとんでもなく大きな体をした人、奇抜な服装をしている人、シンプルな格好をしている人、とにかく様々な人々が地下鉄のこのひと車両だけでもいるのだ。
カケルはそんな人々を見つめるのが好きだった。
この世界にはたくさんの人々がいると気づかせてくれているような気がするからだ。
「あのね、カケルの住んでるティオクはイアトマ国で一番の都市なのよ。ティオクの地下鉄もこんなものよ。カケルがちゃんと見えていないだけ」
ふと、カケルの頭の中にナナの声が蘇った。
いつも地下鉄でこの話をするとナナはカケルに諭すようにそう言うのだった。
(ナナはティオクのことたいして知らないんだ。あんなところ同じ服装、同じ顔した人ばかりだ。みんな暗い服に、暗い顔)
自分の街をそんな風に思っているものだから、ウォーキンシティは、自分が暮らすにふさわしい街だとカケルは信じ込んでいた。
(ずっとここにいられたら)




