パスタ
「そしてさー」洋風で落ち着いた雰囲気の店内を壊すかのように水田の軽快なリズムの声が響いている。駅近くのパスタ専門店に女4人が集まった。福寺は話すことより聞く方だった。でてくる話題がほぼ会社関係。あの人は働かない、手伝ったのに手伝ってくれない、誰と誰は仲が悪い、そして上司への愚痴など言いたいほうだいである。
共通点が会社なので、社内の話題になるのはしかたがない。かといって他の話題があるかといえばない。福寺にとって3人は会社でうえにあたる。言葉を選んでの発言、敬語、そして気を使う事もあるので、なるべくなら避けたいと思うようになってきた。しかし断る理由も特にない。
(彼氏でもいてたならなー)
福寺は切に思った。もしここにいてなかったら自分の事も言われてしまうのだろうかと考えてしまう。普段の自分の行動が人にはどのようにうつっているのか気になった。考え方は人それぞれなので、自分が良いと思っていても、それは間違いだと思う人もいる。意見のぶつかり合いは絶えない。就職してから福寺はこの人間関係の難しさを知ることになった。
19時過ぎには店をでた。空は暗くなり夜になった。一人になった福寺は空虚だった。
(何も楽しくない…)
入社したての時は誘われて嬉しかった。会社の情報や、個人の性格や態度などが聞けたので、接する時にどう対応したらいいのか参考になった。当時は楽しかったはずなのに、今は残念なことにまったくない。美味しいパスタを食べ自分も一緒にみんなの話を聞いて笑っていた。しかし今は空しさだけしか残っていなかった。これなら家で録画している番組を見ているほうがましなような気がした。
(自分は人付き合いが苦手なのかな)
電車がホームに入ってきた。ライトを見た福寺は目を細めた。降りる人と乗る人が順序よく入れかわった。今日は座る事ができた。仕事帰りとそうでない人が簡単に見分けられそうだった。年輩の男性をみると特に神妙な顔つきに見える。
(家族の生活の為に頑張っているのかな)
座って落ち着くと再び会社のことが頭にわいてきた。一年間働いてみて社内の状況が自分なりに見えてきた。水田の個人的な偏見が多々あることも分かってきた。職場では自分の本心はほぼ語っていない。まだ下のほうという立場もあるが、黙っているほうが円滑にいくように思えた。こんな事を考えている自分が馬鹿らしくなったので携帯をとりだした。
(明日から休みだ)
すこし気持ちが高まった。明日、明後日は何をしようかと考えた。同級生に連絡してみようか、それともショッピングに行こうか。そうしているうちに、さっきまでの事は忘れ気持ちが切り替わっていった。