予感
「お疲れさまー」
更衣室で福寺の横に水田がきた。
「お疲れさまです」
水田は福寺より4才年上の先輩だ。ここで会うと駅まで一緒に帰るという流れになる。去年まで同じ部署にいたが、今年から水田は事務所内に配属された。終わる時間に微妙な差がでたので一緒に帰る日が少なくなってきた。
二人は会社をでて駅に向かった。
「金曜日、久しぶりにみんなで食べて帰らない?」
「そうですね。みんなの予定が大丈夫ならいいですよ」
去年は同じ部署だったので福寺、水田、そして年齢の近いあと二人の女性従業員と度々食事に行っていた。計画するのは水田だった為、部署がかわった今はしばらくなくなっていた。
「濱中さんと潮崎さん今付き合ってるらしいよ」
「えーそうなんですかー」
福寺は驚いたような顔をして答えたが内心どうでもよかった。この水田は色々な社内情報を何故かよく知っている。どこにでもいそうなタイプ。人当たりがよく交遊関係が幅広いので情報が入ってくるのだと福寺は思っていた。一緒に帰るときはそんな社内の話題が多い。水田が苦手なわけではない。去年
は色々教わりかなりお世話になったほうだ。しかし食堂や帰り道の雑談では自分にとってプラスになるような内容はほぼなかった。電車でも同じ方向だったらまだ雑談は続くが、お互い逆方向に帰るので福寺はほっとしていた。
「浦部っておったやーん。」
「浦部さん?」
「福寺さんが入ってから半年ぐらいで辞めた人」
「あー覚えていますよ」
「あの人、転職してめっちゃ稼いでいるらしいよ。」
「何の仕事してるんですか?」
「あまり詳しくは聞かなかったけど外資系の営業マンみたい」
「そうなんですか」
「年齢も近かったし付き合っていたら今頃って思っしまうわ」
「そんなふうになるなんて思わないですよね」
水田はうなずいた。二人は駅で別れた。ホームに一人になった福寺は浦部の事を思いだすと複雑な気持ちになった。
(そうなんだー、いい転職だったんだ…)
見た目はパッとした印象はなかった。同じ部署で働いていたので、当時入社したての自分をかなり気にかけてくれたのを覚えている。誰もいない時にこそこそっと食事に誘われたことがあった。浦部は二人で行きたかったみたいだったが、「誰か他の人がいるならいいですよ」と返答した。浦部は誰かを誘ったかどうかは分からないけど、結局行くことはなかった。
(あの時、二人で行っていたらよかったかな…)
連絡先も知らない。今さら誰かに聞くこともできない。もう付き合っている人がいるかもしれない。
ため息と同時に肩の力が抜けた。まだ男性と付き合ったことはなかった。チャンスがなかった訳ではない。浪人中にファーストフード店でアルバイトをしていた。その時に一人の仲間から交際してほしいと言われた事はあった。福寺はアルバイトでその人を初めて見た時、何故かこの人は浮気しそうだと頭によぎった。その事が頭にあったので、浪人中という理由で断った。数週間後にその人は別のバイト仲間に交際を申し込んだ。
(誰でもよかったの?)と腹立たしい思いがあったが、断って正解だったと改めて思った。二人は付き合いだしたみたいだが、数ヶ月後女性の方から福寺に相談があった。内容を聞いてみると、二股をかけられていると分かったみたいだ。福寺はあの時の予感が当たったことに気づいた。人の顔を見た時、希にその人が将来どんな風になるのか直感が働く。今までは第一印象での個人的な主観だと思っていた。しかし浦部の事が頭にあった。
(どうなのかな…)
福寺は電車を待ちながら自分にはそういう能力が備わっているのか、あるいは偶然なのか悩んだ。しばらくすると携帯がなった。水田からのメールだ。
「金曜日みんなOKだって」メールを見た福寺は(みんな集まるんだ)と喜びはなく、付き合いだからしょうがないと言い聞かせた。