衝突 3
時刻は15時をまわった。家に帰った福寺はリビングに座っていた。会社を早退し上島の家までいったが、結局何もわからなかった。自分の無力さを感じた。ただテレビを見て今の現状を知るだけだった。上島が搭乗していなかったらこんな気持ちにはならなかった。ただの飛行機事故で変わらない一日をすごしていたと思う。急に上島が消え、伝えたい事や謝る事ができなくなった。特に昨日の一日を悔やんだがどうすることもできなかった。上島の事を思った。飛行機の座席に座り、すごい衝撃がはしり、目を閉じ、ひじ掛けを強く握っている姿を想像した。そんな中で自分の名前を呼んでくれたのだろうかと考えた。
(そろそろ連絡がきてもいいはずなのに…)
福寺は上島の両親からの連絡を待った。会社で話した従業員が自分の電話番号を伝えてくれていると信じていた。ここまで待っても連絡がこないということは、上島が亡くなり連絡ができない状況だと思うしかなかった。ついにテレビで安否情報が流れだした。亡くなった人の名前がテロップに映し出された。
(ない…)
福寺は最初から見ていた。名前が新たに切り替わるたび唾をのんだ。
(ない…、ない…。)
一人一人の名前を確認した。自分の生涯がかかっているように思えた。手足が震えた。人間のもろさと儚さを福寺は知った。「上島了」の名前は最後まで出てこなかった。出てきたらどんな気持ちになるのか想像できなかった。一息ついた。まだ身元確認中の遺体が数多くあるとアナウンサーは話していた。
(お願い、無事でいて…)
福寺は願った。テレビは再び事故原因の追究に迫っていた。そして朝から続く緊張感と恐怖心は解けることはなかった。
(あの時とにている…)
元気がなくなった福寺はうつむいて一点を見つめた。その先には携帯電話が置いてあった。桜の下でボールをなくした時の事を思い出した。今日、偶然その公園の前を通りかかった。遊具は変わってなく、記憶のままだった。あの時、地元の子供が助けてくれなかったらどうなっていたんだろうと振り返った。恐怖心が続き、いつまでも泣いていたんだろうと想像した。今の状況と似ていた。
当時の記憶がよみがえってきた。しゃがんで泣いている小学生の自分が脳裏に浮かんだ。その時「どうしたの?」という声と共に靴が目の前に見えた。
「ボールがないの…」
泣きながら声の方を見上げた。初めはぼやけていたが、だんだんと顔が見えてきた。
(あーそうだ。あんな顔だった…)
当時、助けてくれた小学生の顔が脳裏にでてきた。
(了くん?)
福寺は桜の下で助けてくれた子が上島に似ているように思った。視線の先にあった携帯電話の画面が明るくなった。そして着信音がなった。母親からだとすぐに分かった。
「もしもし。お母さん?」
「栄子?」
「うん。」
「大丈夫?」
「うん。」
「了くんは?」
「まだ分からない」
「連絡はないの?」
「うん。だめかもしれない。」
「だめかも?」
少し合間があった。
「死んだかもしれない…」
母親は涙声の福寺を察した。
「まだ分からないんでしょ」
「でも、ぜんぜん携帯つながらないんだよ。」
「そうかもしれないけど…。助かってる人もいるんだから。」
「うん。でも…」
「とにかく今から家に帰るね。」
「分かった。」
福寺は携帯をテーブルに置いた。母親との電話でついに上島の死を口にした。喪失感がいっきに膨らんだ。上島が生きているとは思えなくなっていた。
ツイッターでのやりとり、そして交際が始まった。まだまだこれからだという時だった。喧嘩もしてないのに、これほど早く終演をむかえるとは思わなかった。いきなり人生が途切れた上島の事を思うとかわいそうになった。人間はいつ死ぬかわからない。昨日までの幸せは一体なんだったんだ自問自答した。後戻りできない現実を福寺は受け止めることはできなかった。上島を見た時、この人は何か成功しそうだと予感がした。そして自分を助けてくれそうな感覚があった。だからこそ上島にちかづいた。
(あの時の予感はなんだったの…)
いいように思っていた自分を責めた。電話の前の事が頭に残っていた。
(あの子は了くんかも…。だから初めて見た時、助けてくれそうっとおもったのかもしれない。)
このまま飛行機事故で死んでしまったら、何が人生の成功だったのかが分からなくなってきた。自分
が上島に対して抱いていた思いと現実との違いが頭の中で衝突した。




