空港
日曜日の上島は旅行にいく準備を終え、福寺からの連絡を待った。夕方ぐらいには終わるだろう予想していた。しかし16時になっても連絡が全くこなかった。複雑な思いが上島の中で高まってきた。付き合いの中で相手の本音がわからないほど怖いものはなかった。福寺が仕事なら問題ないが、本当の事が分からない為上島にはこたえた。悩んだ上島は福寺の家に行くことにした。行ってもいいか確認して、もし断られたら終わってしまう。どこかに行ってきた帰り道に、近くを通ったので立ち寄った事にしようと考えた。
上島はバイクに乗り、家を出た。インターネットで中国の人気のお土産を何度も検索した。どういうものがほしいか知りたかった。そして旅行から帰ってきたら今度は福寺を自分の家に招きたかった。その為には後味のわるい出発だけは避けたかった。数十分で福寺の家に到着した。上島はバイクを止めて家を眺めた。窓からは電気がついているように見えなかった。
(誰もいないのかな…)
上島はインターフォンを押した。手元で呼び出しの音が鳴った。約束なしできたのは初めてだった。しばらくしても反応はなかった。もう一度押そうとした時、散髪をしおえたばかりの福寺の父親が帰ってきた。
「こんにちは、上島です。」
「あ~、こんにちは。」
「栄子さんいてます?」
「栄子?15時ぐらいに出ていったよ。まだ帰ってない?」
福寺の父親は鍵を開けて中に入った。すると外にまで呼ぶ声が聞こえた。
「まだ帰ってないなー。」
「そうですか。ありがとうございます。」
そう言うと上島はすぐに立ち去った。そしてどこにも寄ることなく家に帰った。その日は結局福寺から連絡は何一つこなかった。
月曜日、4時半にアラームが鳴った。夕べはなかなか寝付きが悪かったが、朝起きるとしっかり睡眠をとった目覚めだった。下に降りるとリビングには、昨日準備したスーツケース、パスポートなどが入ったボディーバッグ、そしてスーツケースの上に今日着る服がまとまって置いてあった。いよいよ出発だと上島は気分が高揚した。何か食べる物はないかと冷蔵庫を開けた。中を見るが何を食べていいのか分からなかった。冷蔵庫を閉めるとパタンという音が響いた。上島は先に着替え、着ていた寝巻きがわりのジャージを洗濯機の中にほりこんだ。顔を洗い髪型を整えていると階段を降りてくる音が聞こえた。リビングに戻ると母親が起きてきた。
「おはよー」
母親は時計を見た。
「5時半だったね。」
「うん。」
母親は上島の家を出る時刻を確認した。そして朝食の準備を始めた。上島はダイニングテーブルに座り携帯を確認した。誰からもメールなどはなかった。
「お父さん起こしてきてー」
母親が上島にお願いした。
「うん。」
上島は両親の寝室に入った。
「お父さん。起きてー」
その声に父親は反応した。
「うん。分かったー」
そう呟いたが起きる気配はなかった。
「お父さん、起きてやー」
上島はもう一度父親に声かけた。父親は寝ながらうなずいた。下に戻った上島はテレビをつけた。そして携帯で時刻表を確認した。朝のニュースを見ていると、目の前に朝食が並びだした。白のお皿に目玉焼き、サラダがのせられていた。
「お味噌汁いる?」
「うん。」
母親は棚から貰い物の即席の味噌汁を取り出した。そして、湯気が立ち上るご飯と味噌汁を上島の前においた。
「いただきます。」
そういうと上島は食べ始めた。
「中国、大丈夫?」
「うん。ツアーだから何とかなるよ。」
やはり母親は心配だった。食事をしていると父親が起きてきた。
「もうそろそろ出るよ。」
「駅まででいいんだな?」
父親は上島に確認した。
「うん。駅で充分やわ。」
父親は上島の前に座り、食事が終わるのを待った。
「お父さん、ご飯は?」
母親が尋ねた。
「帰ってきてから食べるわ。」
上島は5時半前には食べ終わり予定の時間に玄関をでた。母親とはここで見送りとなった。寝巻きの上にダウンジャケットをきた父親は車のエンジンをかけた。早朝の静まった住宅街にエンジン音が響いた。上島は荷物をトランクにいれ、助手席に座った。父親は無言のままアクセルを踏み車は駅に向かった。桜並木沿いの道路はあと数日で満開になる頃だった。自転車では十分かかるところが車では数分で駅前に到着した。
「若いときに一人旅したらよかったって今でも思う。」
上島は車内で話した父親の言葉が印象的だった。父親ができなかった事を自分が代わりに実践するようだった。
「気をつけて。」
「うん。いってきます。」
そう言い終わるとスーツケースを転がしながら改札口に向かった。父親は息子の後ろ姿を最後まで見届け車に乗った。




