溝 1
「福寺さん、取り引き先からクレームがきてるんやけど。」
直属の上司が福寺に声をかけた。
「クレームですか?」
「水曜発送した100個口のブラケットが98個しか入ってなかったらしい。納品できへんから早くほしいって連絡ががきてる。」
福寺は固まった。自分は確実に個数通り入れたと信じたかった。取り引き先が箱を開けた後になくしたかもしれない。しかし自分が確実に数量通り入れたという確固たる自信はなかった。
「すいません。」
「今から倉庫にブラケットとりに行ってくるからすぐに郵送してくれるかな」
「わかりました。」
上司はそう言うと、倉庫にブラケットをとりに行った。
今日は週末の金曜日。いつもなら気が楽になるのだが今日は逆に落ち込んだ。上司が戻ってくるまで作業の続きを始めた。
「この二つね。」
上司が福寺の作業台に2個ブラケットを置いた。
「すいません。すぐに発送します。」
いつもは穏やかな上司だが明らかに怒ってると読みとれた。福寺は今の作業をやめ、すぐにブラケットを梱包して送り状を貼った。そして業者に引き取り以来をかけた。
(これで何とかなればいいけど…)
再び自分の作業を始めた。定時になり福寺は上司に帰る挨拶をしたが、クレームの事は一切言われなかった。福寺は着替えて会社をでた。後味の悪い退社となった。
電車にのり上島のツイッターを確認した。そこには咲きかけの桜がアップしてあった。
(もう桜が咲く時期か…)
今年は例年より早く咲きだした。上島は大学が休みなので時間を気にしないでカメラ撮影を楽しんでいた。福寺はすぐに携帯を消した。福寺の会社では業務でトラブルを起こした場合は対策書を提出することになっていた。以前、先輩の水田が同じ失敗をして対策書を提出していたことを福寺は知っていた。失敗した事実をどうすることもできない福寺はこれ以上事が大きくならないことを願った。今日の失敗を上島にメールで送ろうとしたが、自分のミスを慰めてもらうみたいで送信することはなかった。
(月曜日が嫌だな…)
気分が落ち込む休日前となった。
土曜日は上島がアルバイトの為会う事はなかった。福寺は部屋の掃除など普段できないことをして過ごした。夕方、福寺の携帯がなった。
(この着信音は!!)
嫌な予感がした。福寺は会社関係の着信音を変えていた。携帯を見ると上司の名前が表示されていた。「もしもし、福寺です。」
「休みの日にわるいねー」
福寺は話の内容を聞いた。責任者の社内会議において福寺のクレームがやはり問題になった。取り引き先は欠品分を送ることで無事に解決した。しかし何故発生したのか、これからの業務にあたり再発防止策をどのようにするのかを問われた。月曜日までに福寺が文章にまとめて会社に提出することになった。
(やっぱりか…)
電話を切った福寺の最初の感想だった。取り引き先の憂いがなくなったのはよかったが、単純な数えまちがえに対して再発防止策など思い付くものでもなかった。
(あー、何て書こう…)
夕食の時に両親に聞いてみた。結局は気をつける、2回数えるぐらいしか出てこなかった。それで会社にとおるとは到底思わなかった。
「あーどうしよう。」
だんだん会社に対してと対策が思いつかないことに苛立ちがでてきた。自分の部屋に入っても同じ状況は続いた。会社が休みの日に会社の事を考えることがむなしかった。自分の失敗を悔やんだ。上島から明日の予定についてメールが届いている事を思い出した。
「明日は無理かもしれない。」
上島とデートすることはできたが、そんな気分にならなかった。上島はアルバイトの休憩中に福寺からのメールをみた。
「えー、どうしたん?何とか少しでも会われへん?」
いつもなら「わかったー」で終わるかもしれないが、明後日から中国に行くこともあり上島はくいさがった。
「仕事で提出しないといけない書類ができたの。明日までに準備しないといけないから。」
福寺は返信した。
「わかったー。頑張ってね」
上島からすぐに返信が届いた。この日はそれ以上、上島からメールが届くことはなかった。
(明日までに考えないと…)
対策書におわれる自分と上島の自由さがあいまみえた。それが上島に対して少し冷たい態度になった。上島は中国に行く前に何かほしいものがあれば聞いてみようと考えていた。仕事ならしょうがないと思う反面、会えないことのほうがショックだった。自分だけが旅行に行く事に怒っているかもしれないと自分なりに考えた。
日曜日になり上島は荷物の最終確認をした。
(これで大丈夫かな)
準備を終えた上島は福寺に連絡をとりたかった。しかし仕事の邪魔になってはいけないので連絡は控えた。福寺はこの日も対策を考えないといけない事が念頭にあった。しかし結局はインターネットで靴とか鞄などを検索したり、平日に見れなかったテレビの録画を見たりして時間が過ぎた。ふと時計を見ると15時になっていた。
対策が思いつかない福寺は先輩の水田に相談することにした。携帯で水田に電話をかけた。耳元でコール音が流れていた。
(でるかな…)
「はい。」水田が電話をとった。
「どうしたん?」
「すこし、相談があって…」
福寺は対策書の事を水田に話した
。「そんなん適当に反省してますって書けばいいねん。」
「そんなんでいいんですか?」
「私も同じ失敗したけど、反省文だけ書いて気をつけますで終わったよ。」
本当にそれだけでいいのか福寺は信じられなかった。
「今から会って一緒に考えてあげるよ。」
同じ経験をしてるならアドバイスが欲しくなった。水田が時間をとってくれるなら、電話より直接会って話すほうがいいかもしれないと福寺は判断した。
「すいません、ありがとうございます。どこがいいですか?」
「今、天王寺にいてるから会社の近くでもいいよ。夜ごはんも一緒に食べない?」
「わかりました。準備してすぐ家を出ますね。」
福寺は筆記用具を鞄に入れ家をでた。




