夜景 2
エンジンをかけると音と同時にヘッドライトが点灯した。
「行くよー」
一声かけて上島はスロットルをまわした。下り坂なので惰性でブレーキをかけながら山を下っていった。上島は山道を運転した経験があまりないので不安になっていた。
(事故るかも!!)
上島の脳裏にいやな予感がはしった。自分でも分かっている。この予感は当たるかもしれない。上島はブレーキをさらに強くかけ速度を落とした。前から勢いよく車が峠に向かって走りさっていった。カーブを曲がりながらゆっくりと山を下った。
上島は体を掴んでる福寺の手に力が入っているのが分かった。
「もうだいぶん降りてきから。」
「うん。」
福寺は転倒することはないと思っているが、自分の体が前のめりになると不安になった。街の灯りがだんだんと近いてきた。それにともない坂道も緩やかになってきた。上島の地元の道にでてきた。慣れしたしんだ道にでると上島は少し肩の荷がおりたような気がした。自分の家がだんだん遠ざかっていった。
「お母さんが了君に会いたいんだって。」
「そうなん」
「もしよかったら私の家で夜ごはん食べていかない。」
「今日?」
「うん。今日」
「別にいいけど…。」
上島にとっては急なことだったので戸惑った。
「何か緊張するわ」
「大丈夫大丈夫。」
そこから20分後に福寺の家の前に着いた。
「ありがとう。ちょっと待っててね」
福寺はバイクを降りるとすぐに家に入った。上島は家の前にバイクを停め、その横で福寺が出てくるのを待った。付き合いだして2ヶ月。手を繋いだぐらいは大丈夫だろう。何を聞かれるのかわからないのでだんだん緊張してきた。すぐに玄関のドアが開いた。
「お待たせ。」
「う、うん。」
上島はうなずいて玄関に入った。かわいらしいスリッパが置いてあった。
「これ履いてね。」
言われるままスリッパを履き福寺について行った。内装は白で統一されていた。福寺はついに上島を親に紹介する機会がきた。早く家に帰れそうなら連絡すると母親に伝えていた。母親も連絡を受け上島と食事を共にできるように準備していた。上島はどんな母親なのか気になりながら部屋に入った。4人掛けのテーブルには1人分ずつ盛りつけられたお皿が綺麗に並んでいた。福寺の母親がキッチンから出てきた。「こんばんは。栄子の母です。」
上島は福寺の母親を見た。年齢は自分の母親より4つ下の46歳だと聞いていた。長い黒髪を後ろで束ね、ラフな格好だった。
「上島了です。」
福寺の母親は笑顔で挨拶したが、上島は緊張していたので笑顔はなかった。
「ここに座って」
福寺が上島に座る場所を示し、二人は並んで座った。向かい側に福寺の母親が座った。そのとなりは空いているのに同じように料理が並べてあった。
(栄子さんも一人っ子…、お父さんのぶんか。)
「じゃあ食べよっかー」
福寺の言葉により食事がスタートした。
「夜景は綺麗だった?」
福寺の母が話し出した。
「うん。」
福寺は答えた。
「どこに見に行ったの?」
福寺は上島を見た。
「信貴山です。地元からバイクで上れるので。」
「地元はどこなの?」
「八尾です。」
そんなあたりさわりのない会話が続いた時、玄関のドアが開く音がした。
「お父さん帰ってきた。」
福寺と母親は迎えることはなく食事を続けた。
(どんなお父さんなんだろう)
上島は気になった。
ガチッ。
スーツ姿の福寺の父親が入ってきた。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
母親が返答した。
「こんばんは。お邪魔してます。」
上島はすぐに立って父親に挨拶した。
「了君ね。栄子から聞いてるよ。」
恐そうな顔立ちじゃなかったことに、上島は少し安心した。細身の体に眼鏡をかけ、はっきりとした口調で上島に話しかけてきた。一旦カバンをリビングに置き着替えに行った。
「仕事帰り?」
「うん。土曜日は出勤する時もあるかな」
普段着に着替えた父親が食卓についた。
「今、大学生だったね」
福寺の父親が聞いてきた。
「はい。市立南大学に通っています。」
「三回生?」
「二回生です。」
福寺は上島の事についてあまり詳しく両親に話していなかった。その為、両親は娘の将来の事を考え上島の素性を知りたかった。大学やアルバイト、家族構成などについての質問が続いた。これ以上質問が続くなら福寺はやめさせようと考えた。上島は質問に答えるだけだったのでまだ楽だった。そして4人での会話になり時間は経過した。食後にはフルーツがでてきた。上島はちらっと腕時計をみた。福寺の両親の顔は覚えた。もうじゅうぶん話した。これを食べたら終りだ。上島はそう自分に言い聞かせた。
「もう帰らないとね。」
福寺が言った。
「うん。そうする。ご馳走さまでした。」
上島は軽く頭を下げた。福寺の母親が軽く会釈した。上島は立ち上がり玄関に向かった。両親とはここで挨拶をして別れた。福寺だけが玄関外まででてきた。
「遅くまでありがとうね」
「今度は栄子さんが僕の家にくるばんかな」
福寺は軽く笑った。
「気をつけて帰ってね」
上島はヘルメットをかぶり手をふった。少し将来のことが見えたような気がした。




