夜景 1
「今度、夜景を見に行きたいんだけど」
福寺が上島にお願いした。
「いいけど、寒くない?」
「会社の人が綺麗だから見に行ってみたらって勧められたの。冬の方が早く暗くなるから時間的にもいいかなって思って。」
福寺は親と一緒に暮らしているので、なるべく遅くならないように気をつけていた。
「いいけど、大阪の夜景でいい?」
「うん。了君がバイクで行けるところならいいよ」
「わかったー。考えとくわ。」
一週間前にこんな会話をした。そして今、上島は福寺を後ろに乗せて山道をバイクで走りだした。
「この道を登れば大阪を一望できる場所があるねん」
「そうなんだー
上島は二人乗りで初めて山道を走った。坂道とカーブを曲がる時は怖かった。
(こけたらあかん!!)
心の中で言い聞かせた。対向車にも細心の注意をはらいながら目的地を目指した。
山の中腹に駐車場があり何台か車が停まっていた。
「ここにお寺があるねん。お父さんと水をくみにいったことがある」
そう言って上島は通りすぎた。昼間はショッピングモールで買い物をした。少し早めに切り上げることにした。夜景をここで見てもいいのたが、夕暮れまでもう少し時間があったので、峠のスポットまで登ることにした。
急な坂道になると福寺も心配になってきた。
「大丈夫?」
「うん。ゆっくり運転する!!」
福寺は上島がいつも以上に慎重に運転しているのが伝わった。なるべく動かないでじっとしていた。上島は後ろから車がきたら先にいかすぐらいの気持ちだった。耳がつーんとしてきた。上島は唾を飲み込んだ。横を見ると木々の合間から大阪の景色が時折見えた。停まって見てみたい気持ちを押さえてスロットルを握った。太陽がだんだん沈みかけているのが分かった。
峠にさしかかろうとした時、駐車場があった。
「ここや、ここ。」
上島はバイクを停めた。そこは整備されており、駐車場の横から芝生の広場になっていた。まわりに木々はなく、遮るものは何もなかった。
「空が近いね」
上空にひろがる大空を見て福寺が言った。
「だいぶん登ったからね」
二人はまだ明るい大阪の景色を見た。自分たちの家付近や天王寺梅田などが、ここからでもじゅうぶん分かった。
「もうすぐ日が暮れるね。」
「うん。夕焼けだね。」
太陽が落ちてからも明るさはまだ残っていた。空が暗くなると同時に街の灯りが目立つようになってきた。上空から飛行機の音が聞こえた。上島と福寺の上を飛行機が高度を落としながら伊丹空港に着陸しようとしていた。
「今度、中国に行っみようかと考えてるんやけど」
「中国?」
「史記とか三國志、あのへんの中国の歴史が好きやから見に行くのもいいかなって思って。まだ決まった訳じゃないけど」
自分だけ行くことに多少の罪悪感があった。上島は福寺の顔を見た。
「いきなりどうしたの?」
「高校の修学旅行でつくったパスポートがもうすぐ切れるから、それまでに海外に行ったらどうかってお父さんに勧められて。もし一緒に行けるなら中国じゃなくて、別の場所でもいいんやけど…」
「ううん、いいよ。仕事休めないし。」
「そうやんなー」
「でも、いいと思うよ。行ける時に行った方が。」
福寺は後押しした。内心では羨ましかった。自分もどこか旅行に行きたい願いは常にある。かといって仕事を休むわけにはいかない。まだ付き合いだして数ヵ月、一緒に旅行というのも考えてしまう。悔しいからといって止めると上島の思いと自分の思いが衝突してしまいそうだった。複雑な思いだが、ここは見守るしかなかった。
ここに着いてから一時間経過した。空が暗くなり目の前は夜景となった。
「綺麗だね」
「うん。高速道路の灯りが目立つね。」
目の前一面に白や赤、黄色オレンジなどの光が見えた。暗いところを見つける方が難しかった。
「私たちはこの中で生活してるんだよね」
福寺は家から会社までを山からおってみた。自分の行動範囲の狭さが手に取るように分かった。それがいいのか悪いのかわからないが、寂しさが出てきた。今の生活スタイルが悪いとは思っていない。何か違った道はないかと考える自分はいるが、行動にうつす勇気がなかった。その思いが寂しさとなってあらわれた。
(私は何もできない…。)
隣にいる上島に自分の将来を委ねるようだった。上島を初めて見たときの忘れかけていた予感を思い出した。
(了君についていけばなんとかなる。)
福寺は自分の予感を再び信じた。
「……したん」
「ごめん。何て?」
考え事をしたせいで上島の話した言葉が聞こえなかった。
「きゅうにどうしたん」
「私はずっと大阪にいるのかなって思って。」
上島は福寺の言葉を深読みした。
「僕は住み慣れたとこれがいいな。」
「そうだよねー」
「夜景見れてよかった。」
「ここでよかったかな?」「
うん。会社の人に夜景見てきたって言える。」
「もう少し見ていく?」
「もう寒いからいいよ。」
「そしたら帰ろっかー」
二人は夜景を背にして歩きだした。
「また家まで送ってくれる?」
「うん。そのつもりやけど。」
「いつもありがとう。」
福寺は時計を見た。
(18時過ぎ。)
携帯を取りだし母親にメールを送った。




