嵐山 3
渡月橋近辺に戻った二人は河原沿いにあるベンチに座った。平日は会話する機会がほとんどない。お互い学校と仕事があるので電話も頻繁にすることはなかった。こうして二人で会った時は会話の話題も豊富だった。福寺は会社の人間関係についてたまに話すことがあった。あまり休みの日に会社の事を思い出したくはないが、どうしても上島に聞いてもらいたい時があった。会社で聞き役の福寺は自分の本音を会社で言うことはなかった。その我慢している思いを上島にぶつけた。上島は人間関係が希薄なので人に対しての批評はあまりなかった。むしろ自分の交友のなさのほうが悩みだった。福寺の話にたいしてアドバイスなどできるわけもなく、聞いてうなづいているだけだった。福寺は自分の考えを否定しないで同調してくれる上島がいることで、自分が正しいと認識ができ気持ちもすっきりした。
前にある桂川は穏やに流れていた。家族にお土産を買うために複数の店にたちよった。いろいろ試食して二人は京野菜の漬物をそれぞれ買った。そして嵐山で過ごす時間も終わりをむかえた。
二人を乗せた電車は大阪へと走りだした。
「疲れたね。」
「うん。今日はよく歩いたわー。」
朝からの疲れが二人の顔にあらわれた。つり革をつかむ手に力が入った。口数が減るなか何事もなく時間だけが経過した。
帰りは京橋駅まで一緒だった。
「大丈夫?」
福寺は別れる間際に上島に確認した。
「うん。電車はもう大丈夫みたい」
上島は一言言われたことが嬉しかった。京橋駅に着き、福寺だけが電車を降りた。電車を降りた福寺は電車が出発するまで動かなかった。扉がしまりガラス越しに上島と福寺は向き合った。電車が動き出した時にお互い手を振った。福寺は上島が見えなくなった。
(大丈夫かな?もしまたあの女性に会ったらどうしよう…)
上島の事が心配になりながらも自分の乗る電車の場所へと向かった。一方上島は車内が混雑していたので、つり革を持って微動だにせず鶴橋駅に着くのを待った。
(近鉄線では一番後ろに乗ろう…)
上島は真ん中の車両より一番後ろの車両のほうがあの女性とはちあう可能性が低いだろうと考えた。鶴橋駅についたとたん、速足で連絡改札を抜けホーム後方へと急いだ。ホーム、車内を見渡すが朝の女性はいなかった。上島は席に座り、「ふー」っと大きく息をはき落ち着いた。ボディーバッグから一眼レフをとりだし、今日撮影した嵐山の画像を確認した。福寺が写っている写真や風景などかなりの枚数を撮影していた。家に帰りどの写真をツイッターにアップしようかと考えているうちに到着間際になった。一眼レフをボディーバッグになおしチャックを閉めた。
「朝の女性とは会わずに帰れたよ」と福寺にメールを送った。
「よかったー。今日は楽しかったね」と返信が届いた。
その夜、上島家の食卓にはお土産で買ってきた漬物がならんだ。
「これ美味しいなー」
「了が嵐山で買ってきてくれたのよ」
上島の父親が白い大根の漬物を食べながら話した。
「嵐山よかったか?」
「うん。いろいろ見てきたよ。今度トロッコ列車に乗りにいくかもしれない。」
父親はうなづいた。食事も終わろうとした時に父親があることを思いだした。
「了のパスポートまだつかえるんかな?」
「わからへん。」
「高校の修学旅行の時に取ったからあと数年はいけるんじゃないかしら」
母親が答えた。
「そうかー。今のうちにもう一回海外に行ってみたらどうだ」
「海外?」
「ああ。春休みとかなら安くでいけるんじゃないかな。仕事に就いたらなかなか行けないぞ。」
父親からそんな事を進められるとは思わなかった。
「海外か…。」
「まあ、無理に行く事はないよ」
心配性の母親は旅行なら海外ではなく日本でいいじゃないかと思っていた。
「考えてみるわー」
上島はそう答えて自分の部屋に入りパソコンの電源を入れた。
(そうだなー)
机に座り上島は自分なりに考えた。福寺を見ていたら海外旅行なんてなかなか行けるものではないことが分かる。学生の間に行ってみるのも悪くないと思った。自分だけ楽しんでいいのだろうか。福寺と一緒に行きたい願いはあるがそれは無理だと分かる。将来もし福寺と海外旅行に出かけるならどこに行きたいといってくるか考えた。なんとなくヨーロッパが思い浮かんだ。上島はたちあがったパソコンで世界地図を開いた。ヨーロッパは避けて行ってみたいところを探した。
(韓国、東南アジア…。)
上島は史記、三國志が好きだった。
(そうだ、中国がいいかも)
万里の長城、兵馬俑と歴史的な場所が思い浮かんだ。中国の観光名所をパソコンで検索してみた。上島は前向きに考えるようになった。日本の航空会社で直通便で行ける。来年からは就職活動が始まる。今年の春休みか夏休みがいいと思った。上島は両親のいる一階に降りた。つけっぱなしのパソコンの画面には始皇帝の兵馬俑が映っていた。




