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衝突  作者: ku-ro
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美容室

 福寺は数量確認した商品を小箱に梱包し、丁寧に宛先の札を貼った。それを所定の場所に運び本日の業務が終了した。終了時間がくるまでの数十分、身の回りの掃除を始めた。

月曜日から金曜日まで何も問題なく過ぎ去った。仕事が辛いと感じる事はないが面白いとも思わなかった。三連休前の金曜日はいつもの金曜日と少し気分が違った。

「福寺さーん」

(この声は)

 福寺は呼ばれた方向をみた。やはり水田だった。勤務時間中、水田がこの持ち場に来ることはあまりない。福寺は「はい」と返事をした。

「今日、時間空いてる?」

 何を計画してるか分からないが聞く前に断っとく方が無難だと思った。

「ちょっと今日は」

「えー無理なん?事務の人たちと食べに行く事になったんだけど」

まあそんなところだろうと福寺の予想はあたった。

「すいません、行くところがあるので」

「どうしても?」

少し水田の顔が強ばったように見えた。

「そうですね…」

福寺は申し訳なさそうな顔で謝った。

「どこ行くん?」

そこまで聞かれると思ってもいなかったので一瞬ビクッと福寺はした。

「明日同級生と会うので美容室の予約をしてるのです。」

福寺はとっさに思いついた事を言った。

「そっかー。事務の男の人たちもくるんやけど…、うん、わかった」

水田は振り返って立ち去って行った。

 本人は気づいていないが、福寺は社員の男性に人気があった。水田は福寺を連れていけば男性たちも喜ぶと思っていただけに残念だった。

 定時になった福寺は私服に着替えて駅に向かった。さっきの誘いのことが頭にあった。以前より水田の口から事務の男の人たちの愚痴や不満を聞いていた。そんな不満のある人たちと平然と食事にいく事に呆れた。

(私なら行きたくない)

 いつもと反対側のホームで福寺は電車を待った。立ち去る間際に機嫌がわるそうな水田の顔を見た。とっさにでた嘘がばれるのが嫌だったので天王寺の美容室へ行くことにした。

(もう10月か…)

一年が早く過ぎ去っていくようだと福寺は思うようになった。職場の40才前の人が同じ事を言っていた。高校の時は一年が長く感じた。同じ時間のサイクルのはずが今とは明らかに違った。

(私もそうだなあ)

手鏡を取りだし自分の顔を見た。まだ高校の時とそんなに変わってないように思った。束ねられた髪は肩より数十センチ下ぐらい。まだ切りたいと思う程でもなかった。

 天王寺駅をでた福寺は会社の女性に教えてもらったおすすめの美容室を探した。外から中を確認するとお客は2人だった。予約をしてなかったがすぐに順番はまわってきた。男性の美容師さんに数センチカットして下さいとたのんだ。カラーをどうするか聞かれたが、お金を財布にあまり入れてきてなかったので断った。美容師さんが手際よくカットを始めた。ここはどうします?という問いかけに答えつつ、福寺は鏡に映る自分の顔を見ていた。最近は同じ店に通っていたのでいつもと違う容姿になってきたと思った。

 カットが終わり肩にかかるぐらいに整えられた髪は束ねる必要がなくなった。

(いい美容室を見つけたかも)

福寺は会計を済まし外に出た。

(これで大丈夫だろう)

 カットして軽やかになったような気がした。あたりはすでに暗くなっていた。福寺は地元の駅についた

。そして中央大通り沿いを歩いて家に向かった。ヘッドライトをつけた車が次々と福寺を追い抜いていった。飲食店が立ち並ぶ周辺は看板の光や街灯で明るく保たれていた。

(こんなところで写真とるんだ)

めずらしくおもったので福寺はカメラで撮影している人の背中を見た。その人が振り返りこっちに歩いてきたので偶然目が合った。福寺はその瞬間に衝撃がはしった。普段なら目が合ってしまうとすぐにそらすはずだが、今回は違った。すれ違いながらだが、相手の目を見続けてしまった。心拍数が上がったのが自分でもわかる。少し離れたときに振り返った。何もなかったように歩いて行く後ろ姿を福寺は見た。それは上島了だった。無意識のうちに立ち止まった。こっちを振り向いてもらいたかった。しかしそんな期待は空しく上島は公園の方に曲がって行った。

 この衝撃は会社で初めて浦部を見た時とにていた。当時、この人は何か成功しそうと予感がした。しかしそんな思いは信じられなかった。しかし水田の話では今は営業でかなりの業績を上げていると聞かされた。

(あの予感は当たった。あの人ももしかしたら)

 すれ違いざまに顔を見ただけだが、年齢が近そうなのは分かった。優しそうな顔だちも福寺の理想にあてはまっていた。しかし何もかも分からない人に声をかける勇気などなかった。もう一度追いかけたいと思ったが公園の方に行く事はなかった。耳あたりから毛先にむけて、カットしたばかりの髪をなで下ろした。見えなくなった上島を見送るかたちで福寺は家の方に振り返った。再び大通り沿いを歩きだした横を白いバイクが追い抜かして行った。


 上島は福寺の歩く後ろ姿、そして追い抜いた後に左側のミラーを見た。そこには福寺が一瞬だけ映った。

(あの子、かわいかったなあ…)


 今日は夕方まで大学にいた。その後、難波の書店にたちよった。大学から少し離れていたので意外と時間がかかってしまった。論文の作成に参考になる本がないか上島は探しに行った。静まりかえった書店の雰囲気に上島は居心地のよさを感じた。気になった本を手にとり、目次を開き内容を確認していった。しかし数分後には、まだ参考書はいいかっと思い直し、雑誌などが置いてある場所に移動した。すべて活字の難しい本より写真などが載っている趣味の雑誌の方がやはり興味をそそられた。時間を忘れ色々な雑誌を流し読みしていると携帯がなった。母からだった。小声で上島は電話にでた。仕事が早く終わったので外食にすることにしたという内容だった。よく行くレストランなので上島はここから直接行くことにした。携帯の時計を見ると19時前だった。

(結構いたなー)

 バイクに戻りエンジンをかけ両親と待ち合わせしたレストランに向かった。ヘッドライトを照らし夜の道路を運転していると、さっき書店で流し読みした夜の街並みの写真を思い出した。中央大通りにさしかかった時、飲食店が立ち並んでいる光景を見た。今日はどこかに写真を撮りに行ってもいいと考えていたのでカメラが鞄の中にあった。

(待ち合わせまで時間がある)

 上島は大通り沿いの公園にバイクを止めた。そして少し歩いてカメラを取り出しファインダーを覗いた。左側は数軒の飲食店が明かるさをつくっている。しかし右側は高速道路の下の為、若干薄暗かった。その中をテールランプをつけて次々に走る車の構図が上島には見えた。数回シャッターを押した。そして振り返って歩きだしたすぐ後に福寺と目が合った。すれ違うまでの一瞬の事だったが、上島にとって福寺は印象的だった。

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