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吉光里利の化け物殺し 番外編  作者: 由条仁史
第一部 手を挙げる日まで
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第1章 神岸かずみ(Ⅲ)

 インターネットで探ったからと言って、精神だけを殺す方法なんてどこに載っているわけもない。そんなもの科学的に考えて不可能だし、よしんば脳科学的に可能だったとしても小学生の体を使ってできるようなことではない。この現代、精密かつ大胆な科学を使うには、どうしても規模が必要だ。権力とも言う。そのくらい小学生だって分かっている。


 だから調べても出てくるはずはないのだ……もっとも、何かヒントは得られるかもしれない。精神障害。二重人格。解離性同一性障害。


 私が初めに調べたのは、まさにそのことだった――つまり、私なんて人間は存在しないんじゃないか、ということだ。


 私――神岸かずみという人間は存在せず、ただかなめちゃんの生み出した第二の人格なのではないか。私は専門家でもないからわからないが、人間の脳は奇妙な錯覚を起こすことがよくある。こんなことが起きても――驚きはしない。


 むしろ、私にこんな発想ができたことがおかしい。客観的に考えればそうだ。


 私には、私自身の記憶があり、そしてかなめちゃんに寄生する出来事を覚えている。私は私のこれまでの人生を覚えている。


 だから普通なら――普通の寄生人格なら、先ほどの発想は生まれない。『寄生した』という出来事を覚えているのだから――『生み出された』とは思うまい。


 私が気付けたのはただの偶然だった。


 花坂かなめ。

 神岸かずみ。


 どちらも苗字が漢字で二文字、名前がひらがなで三文字。そして名前はどちらも『か』で始まっている。

 なんとなく、似ているなと思っただけだ。


「だから、かなめちゃんが私を生み出した……なんてのは都合のいい話だけど」


 本当に、都合のいい話だ。そうであったらどれだけよかったことか。

 本当にそうだったら――対処のしようもあっただろうに。


 けれど、現実はそんなマジックではできていない。いや、化け物だなんて、何よりも、マジックよりも奇妙なことなのだけれど――だからこそ、か。


 私は、ちゃんと神岸かずみとして実在していた人物だった。


 そして、ちゃんと自殺していた。


「…………」


 十数階の建物から飛び降り、自殺。ただし飛び降りとは思えないほどぐちゃぐちゃに体は砕かれていたみたいだったけれど。それはあの化け物の仕業ということだろう。


 うっすらとした記憶で覚えているのだ。


 化け物に這入(はい)り、自分の肉体を、ばりばり(、、、、)と喰らう様子を。


 その残骸が、ネットに上がっていた。


「…………」


 私自身は何も驚かない。自殺をしようと決意して、血のあふれるグロテスクなものは飽きるほど見た。だから私がそんなグロテスクな姿になったとして、浮かぶ感慨はよかったな(、、、、、)の一つだ。


 私は、ちゃんと、自殺できていた。


 ……肉体だけは。


「……困ったな」


 本当に困った。


 私がちゃんと存在していた――存在するものにしか死は訪れない――つまり、私の記憶にある荒唐無稽は、事実だということだ。


 化け物に食われ、化け物と一体化し、かなめちゃんに寄生する。


 すべてが現実ということなのだから。


 非現実的なことが、現実で起こったということなのだから。


「……ちっ」


 すなわち――科学的には、どうにもならない。


 調べたところで、どうにもできない。


 対処のしようがない。


「……時間か」


 そろそろ6時。かなめちゃんの起きる時間だ。目には少し負担をかけはしただろうが、この体は万全にかなめちゃんに返さないといけない。


 朝、友くんに起こされて、まずは朝食を食べるんだったか。……どうでもいいが、私はこの、『起きなければならない』という状態が嫌いだ。いやなに、起きるのがしんどいとかそういうことじゃない。私はもう精神のみの存在なので肉体の疲労は感じない。


 ただ、精神的に、その食事(、、)という面で。

 他人に任せっきりというのが、人間としてもどかしい。


 ……自殺、したはずなのに。


 生命、やめたはずなのに。

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