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吉光里利の化け物殺し 番外編  作者: 由条仁史
第3部 別れる時に出会う時
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第8章 深入り(Ⅱ)

 ……私は、自嘲気味になっていた。


 もう、どうしようもない。このメンバーで、どうしようとも、トートロを殺すことはできない。そう、諦めかけていた。


 いや、いずれ倒すことはできるかもしれない。殺し切ることも、いつかできるかもしれない……けれど、私は、もう待つことなんてできやしない。

もう、待てない。


 ……だから、もう、次にトートロに遭遇した時は――もう、どうでもいい――かなめちゃんの肉体を乗っ取って、トートロに特攻してやろう。


 そして、死のう。

 ……話は、それで終わりなのだから。


「まず、手駒を確認するぞ。リーダー、リリ。サニー。カノン。そして俺の4人だ」


「……6人いたことを考えれば、ずいぶん少なくなったね……それぞれの能力は、さとりの『化け物の引き寄せ』、私の『幻像創造(アイムクリエイター)』、カノンちゃんは『情景移植(プラントビジョン)』、そしてルートさんは『拡張生命(ライフエクスミー)』……戦えるのは私とルートさんだけかな」


 サニーが言う。今更能力を確認したところで……どうしようもないだろう。そんなことは関係ない。吉光里利さえトートロに触れればいいのだから……そうだ。吉光里利の手を握ったまま、トートロに体当たりしてやろうか。そうすれば私もろとも、ハッピーエンドだ。


「化け物がどれほど強いかにもよるよね……って、違うね。私が化け物に触って、それで化け物が殺せるんなら――火力はまったく問題にならない」


「で、でも。リリお姉ちゃんが怪我しないように、守らないと……」


「だったら、私の幻像創造、使えないかな。化け物の攻撃を阻む透明な壁……作れると思うよ」


 守る? そんなもの必要ない。守ることなんて、何の意味もない。特攻して、死んで、ハッピーエンド……ああ、そうだよ! 死ぬことはハッピーエンドを迎えることなんだ!


「確かに、サニーの能力を使えば、化け物からの攻撃を防ぐこともできるか……だが、問題は『触れる』ことだ。壁越しに触れることはできないだろう」


「ああそっかー!」


 サニーが頭を抱える。


 コントでもやっているのか。


「……うーん。あ、さっき檻を作るって話したじゃん。あれはどうかな」


「檻……はかなり有効だね。化け物の足止めをして、安全に殺す……確かに、これが一番の選択肢じゃないかな」


 誰も傷つかず、平和に終わらせる? ……そんなの、できるわけないだろう。


「と、いうか……なんで、触れれば化け物は殺せるの? リリお姉ちゃんが化け物に触って……それでどうして、化け物は死ぬの?」


 吉光里利の過去の話は、かなめちゃんのふさいだ耳越しに聞いていた。


「……触れるというか。私が受け入れるってことだと思うけどね。その点で言えば、触れる必要っていうのは、実はないのかもしれない。……もともとそうなんだよね。化け物なんていなかったら、失った個性はまた思い出せばいい……だから、化け物が私から生まれたのなら――その化け物は、私が回収しなきゃいけない。……もとより、化け物が私を追っていたのはそのためなんだよね。私の中に入りたいからこそ、化け物は入り込もうとしていた」


「……ということは、むしろ邪魔をしなければすぐに化け物を殺すこともできたわけか」


 そうだよその通り吉光里利に向かってくるなら何もせずに吉光里利を襲わせるべきだったんだよどうしてそれが分からないんだこいつらは。


「そういうわけじゃないと思うよ……さとりに個性を返そうとしているなら、誰かが失った個性が化け物になる、なんてことはないんじゃない? だって、元から一つの個性を持っているんなら、それ以外に個性は要らないじゃん?」


「……そう、確かに、化け物にもともと個性が入っているなら、誰かの個性を刈り取る必要はない……そこで出てくるのが、あの透明な化け物。透明ってことは、多分、個性が入ってなかった。つまり……個性を誰かから刈り取り、それを私に移植する。化け物自体は、単なる容器なんじゃないかな」


「容器……透明な、容器ね……」


 個性の容器。器。ああそうさお前はそれを捨ててしまったからこうなったんだすべてはお前の責任だ。だからお前が責任をとれ。私の悲願を奪った責任もとれ、そして私を殺せ。


「……その化け物が、他人から個性を刈り取って、それをさとりに移植するんだよね? あくまでも化け物は個性の容器で、個性を得るために人を襲っているとしたら。その刈り取った個性ごと、さとりの中に入っていけばいいんだよね?」


 サニーが、何かに気付いたようだ。


「私の見立てでは、そうだよ」


「……じゃあ、さ。さとりは……どんな個性がほしいの?」


「――っ」


 吉光里利は、閉口する。


 ……それは、吉光里利が生き残るという前提があって話しているようだった。


 誰も死なないほうがいいと考えているのだろうか……そんなの、ただの生者のエゴでしかないのに。


 生きていたってしょうがない……そんな状態は、確かに存在する。そして私は、もう確実に、生きていたってしょうがない。……だって、生きていないのだから。


 それでも、この期に及んで――吉光里利は、生きようとしているのだろうか。自分が生きていることが、どれほど罪深いのか、それも知らずに?


 罪を背負ったまま、罰を受けずにこのまま生きる?


 そんなの……図々(ずうずう)しすぎる。


 だから、私は――そんな、吉光里利が。


 死にたくなるほど――羨ましい。

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