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吉光里利の化け物殺し 番外編  作者: 由条仁史
第3部 別れる時に出会う時
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第7章 役割(Ⅱ)

 吉光里利を事務所につれていき、かなめちゃんのベッドで寝かせる。病院に行ったほうがいいという意見は、呼吸をしていること、かなめちゃんの情景移植による診断で、意識が眠っている時と同じということ、ルートの拡張生命で血管の様子を調べたとき、内出血は見当たらないということだった。どれだけ信用できたか分からないが、どちらにせよ意識が戻ったときには病院に行かなくてはいけない……いや、まあそのあたりはルートのやっていることなので、私には何もできないのだけれど。


 しかし、かなめちゃんの能力が、まさかこんなところで役に立つとは……死んでいるか、死んでいないかという判定もできるのか、と驚いたところだ。私が考えている以上に、かなめちゃんの能力には使いどころがあったのだ。後方支援も、ばかにできない。


 かなめちゃんも、疲れて眠ってしまい――吉光里利と同じベッドで眠るというのは、なかなかに奇妙な感覚がしたけれど――いや、まあこれは私の感覚なので、かなめちゃんがどう思っているかは関係ない。


 かなめちゃんはどうやらそのまま眠ってしまったようだ。私は眠る必要がないというか、眠ることができないので、かなめちゃんが眠っている間、ずっとぼうっとしていた。


 吉光里利が起きた後、私は聞き耳を立てていた――どうやらサニーと話しているようだった。殴ったとか、殴られただとか……まあ、ずいぶんと青春なことをしているようだ。


 友情、努力……そして、勝利を収めるのだろうか。

 青春と言ったら、それが定番だろう。


「…………っ、はぁー、っ……く」


 吉光里利の、息が荒くなる。化け物の倒し方、という話をして――友くんのことを思い出してしまったのだろうか。


「……さとり、落ち着いて。大丈夫?」


 しかし、吉光里利はこんな奴だっただろうか……もっと、落ち着いた人物ではなかっただろうか。何事にも、動じないような――いや、違う。もとから、こんな奴だったのか。友くんの死で、それが表に出たというだけで……。


「あ……うん。大丈夫。ちょっと……レンド君のことを思い出して」


 レンド君……友くん。

 友くんを殺してしまったのは――私だ。


 直接的に殺していないからと言って……私に罪が、ないわけじゃないだろう。


 サニーは無言で、ベッドに腰を掛けた里利に何かを差し出す……いや、見えないから想像でしか語れないんだけど。


「……さとりの話は信じてるけどさ」


 と、サニーは言った。


「やっぱり、さとりが危険にさらされるのは、怖いよ」


 怖い――やはり、積極的賛成と言うわけではないのだろう。吉光里利を心配する、友達であるというだけある。だからこそ……全面的に、賛成するわけにはいけないのだろう。


「…………」


「仕方ないって、頭では分かってるんだけど……ごめん」


「大丈夫だって……確かに怖いけど、でも……やらなきゃいけないことなんでしょ。やるよ。私は」


「うん……私も、全力でサポートする。さとりに、傷一つ負わせないから」


 ――傷。


 風呂場でよく見る、足にバックリと開かれた傷跡。


「あは。ありがと」


 吉光里利は、愛想笑いという調子で言う。


「それで、どんな作戦を立てるか、だったっけ」


「そう。サポートって言っても、何をするか……実は、まだ全然考えきれてないんだ。ごめん、さとり」


「……漫画だったら、どうなるの?」


「うーん……漫画だと、化け物のほうに人間の人格が入ってて、もう悪さしません、って約束するのがセオリーかな」


「化け物に人格って……」


「だよねえ。あの化け物に人格は入ってなさそうだし……」


「ほかには、他の漫画はどうなの?」


「うーん……私が読んでたのって、だいたい人対人だからなぁ。戦闘ものもそこまで読んでたわけじゃないし……そうだなぁ。なんかこう……地形的に化け物が苦手なところに誘いこんで、倒す。みたいな……」


「地形、かぁ……それが一番やりやすいかもしれないね」


「地形を作るんだったら、私の能力の出番じゃん!」


「ああ、そっか。そうだね……その時は使わせてね」


「もっちろん!」


 その時、がちゃり、とまた扉が開く。誰か入ってきた。二人分の足音……おそらく、ジャックとルートだろう。


「お、元気そうじゃねえか、大丈夫か?」


「うん。大丈夫。あ、ルートさん。ありがとうございました」


「……何のことだ? 感謝されることをした覚えはないぞ?」


「え? あ、いや、私が気絶しちゃったときに、化け物を……」


「はっはっはっ。てめえらしくもねえ、照れ隠しか? いーんだぜ照れても、別になぁ?」


 ジャックが茶化す。いや、そこは素直に受け取ろうよ、ルート。見栄を張る必要はないだろう。


「……あれ、カノンちゃんはどこにいるんですか?」


 と、吉光里利がかなめちゃんのことを話題に出す。ここらで潮時か。私はだまって、かなめちゃんの肉体とのリンクを弱めた。


「カノンなら、そこにいるぞ」


「えっ」


 これはサニーの声。


「うわぁっ!」


 これは吉光里利の声。


「――っ!」


 そしてこれが、かなめちゃんの体の硬直とともに発せられた、声にならない悲鳴。


「ぅ……え? ……えっ?」


 寝起きで状況が呑み込めず、困惑している。


「あっはっはっは。さとりビビりすぎー。気付いてなかったのー?」


「ちょっと離れてるくらいじゃ分からないよ! ってか、なんで……って、ここカノンちゃんのベッドだったね。そうだった……」


「え……あの……その……ごめんなさい!」


 かぶりを大げさに振って謝るかなめちゃん。身振りがこういうときオーバーになる。


「謝らなくていいぞーカノン。悪いのは全部リリだから」


「ぐ……そうだけど……ごめん、カノンちゃん。本当にごめん。驚きすぎた。さすがの私でも、これは驚きすぎた」


「……ごめんなさい」


 かなめちゃんの謝った声と同時に、部屋の中は笑い声に包まれた。

 ムードメーカー。かなめちゃんの役割もちゃんとあるということなのだろうか。


 ……そうしたら。

 そうしたら――私の役割って、何なんだろう。

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