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相棒とパレード



王都の中心に着けば、見渡す限り人で埋め尽くされており、建物は華やかに彩られ、全ての人を魅了していた。


まるで違う世界に迷い込んでしまったような、そんな感覚に陥る。


1年ぶりのパレードに気持ちはふわふわと昂揚していたが、足取りはしっかりしていた。


あの人を探さなければ……。


目立つ人なので、見付かる時はすぐに見つかるのだ。

見つけ方は簡単。

人だかりを探せばいい。


慣れない人混みに流されないよう、踏ん張りながら前を突き進む。


「おねーさん。」


少年の声が聞こえた。

立ち止まり、声がする方に顔を向ければ、果物を販売している男の子が私を笑顔で見つめていた。


「…私?」

「そうだよ。おねーさん見かけない顔だね、遠くの町から来たの?」

「えぇ…。」


別に遠くはないが、一応少年の言葉に頷く。


「やっぱり!おねーさんみたいに綺麗な人、絶対見たら忘れないもん。」


…見た感じ、10歳前後ぐらいの少年である。この歳にして、タラシの素質があるとは驚きだ。


苦笑いをするが、私の表情筋は既に死んでいるため、無表情のままだ。


「お世辞を言われても、お金がないから買えないわ。ごめんなさいね。」

「別に買って欲しいから声を掛けたわけじゃないよ。おねーさんが綺麗だから声を掛けたんだ。」


この子は将来、ナンパするような子になってしまうのではないか。少し、心配である。


「綺麗なおねーさん、パレード楽しんでいってね。はい、これ。」


少年の手には真っ赤な林檎が握られていた。

つい、まじまじと見てしまう。


「サービスだよ。受け取って。」

「だめよ。ただでなんて。貴方が怒られてしまうわ。」


少年は一瞬キョトンしたが、にっこりと微笑んだ。


「変なおねーさん。普通なら喜んで持っていくのに。今日はパレードだよ?これぐらい大丈夫さ。」

「でも…。」

「父ちゃんに綺麗なおねーさんにサービスしたっていったら、綺麗なら問題なしって言うさ。」


なるほど、カエルの子はカエルという訳か。


「ね?」

「……。」


私は渋々真っ赤な林檎を受け取った。


「こんなに立派林檎、本当にいいの?」

「心配症なおねーさんだね。いいよって言ったらいいんだよ。差し出された物を受け取るのは礼儀たよ。」


自分より10ぐらい下の子に礼儀を教えられてしまった。

遠慮しているのが何だか馬鹿らしくなる。


「……ありがとう。」

「どーいたしまして。パレード楽しんでいってね。俺のオススメは最終日にやる締めのサーカスかな」


ピクリと死んでいるはずの表情筋が動く。

ほんの微かな変化であるため、少年は気付かない。


「そう、楽しみだわ。じゃ、またね。」


小さく手を振り、また前を向く。

さっきよりも人が増えている。

林檎を胸の前で包み込み、足を踏み出す。

赤く小さい存在が、少しだけ心強いと思ってしまった私は、心の中で苦笑いするしかなかった。


小さな相棒と共にあの人に会いにいく……。



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