無表情な伯爵令嬢
タイトル変更しました!
自分には似合わない、笑えるぐらいの華美なドレスを脱ぎ、街娘達が来ているようなワンピースに袖を通す。
鏡の前に座り、癖のある長い髪をきっちり三つ編みにし、最後に薄い紫のリボンを結べば、何処にも居そうな街娘が出来上がった。
ここで、ニコリと微笑めばいいものを残念ながら私の表情筋は死んでいる。
鏡の中の無表情な自分を見つめ、満足げに頷く。
「こっちの方が貴女らしいわ。」
そう、自分自身に語りかけた。
ここはセシル伯爵の屋敷であり、私は伯爵の妹にあたる。
兄とは10歳年が離れており、早くに他界した父母の代わりに私を育ててくれている。
根は優しくいい兄であるが、少々……いや、かなり過保護である。
小さい頃、私が本で手を切ってしまった時、兄は顔面蒼白になり王都で有名な医者を呼びつけた。切り傷ひとつに大袈裟である。
そして、あろう事か、屋敷にある本を全て処分してしまったのだ。
「大切なチェルシーがまた怪我をしてしまっては大変だ。」
「貴方の思考回路の方が大変だわ。」
チェルシーとは私の名前である。
チェルシー・セシル
王都の外れにある、高い柵に囲まれた屋敷に住んでいる伯爵令嬢であり、ある意味軟禁生活を送っている。