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scrifice  作者: 赤家 梛柘
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chapter1.日常

目を開けると、目の前には巨大な校門があった。

学校と言うにはあまりにも大きすぎる門扉、校舎。

見た目からして只の学校では無いことが伺われる。

国立中央成壇学園、通称凄惨学校は外見的には最新設備の整った国一の学園だが、学園の名を隠れ蓑にした軍―――それも参謀から一兵卒まで、例外もあるが、全員が全員成人以下で形成される特殊な軍である。

この学園に所属すると言うことは軍隊に所属することであり、一般入学は受け付けていない。

この学園に入学できるのは罪人の子供、魔力が発現した者だけで、しかも入学条件を満たした者は強制的に入学させられることになっている。


ほとんどが訓練で過ごすが不定期に上から発せられるミッションをこなしたり、学校らしく魔法の授業があったりもする。生徒は全員寮に入り、生活を制限される。

また、表向きには定時制の学園なので、全日制の学校に通うことは許されている。

ただしその場合は速水等諜報部の監視がつくが。


以上が凄惨学校のざっくりとした説明。



「しっかしこの威圧感溢れる門扉を目にする度に嫌になるね……自分の小ささが。」



校門を睨み付けながら独り言をぼそりと言う。



「ううーん、多分もうみんないるよね、……あと忘れてたけど担任の先生(教官)を説得しなきゃいけないなぁ」


見るからに重そうな門を片手で軽々と開けると、みなとの所属する前衛1班の司令室に向かった。


司令室とは授業や訓練が始まる前や終わった後など自由時間に班ごとにあてがわれる談話室のようなものだ。

もちろんミッション前の司令を出す部屋としても利用される。


下駄箱で革靴から上履きに履き替え、階段を上り三階まで行くと南館の一番端にある前衛1班司令室の、焦げ茶色に塗られた扉をノックをして入った。



「失礼しまーす皆さんこんにちはご機嫌麗しゅう♪」



室内には男女合わせて4人おり、前衛は全班5人で形成されているのでみなとが最後で全員が集まった事になる。



みなとが入ってきたのを見て、扉に一番近いところに立っていた赤みがかった茶髪の男子がみなとに向かって話しかける。



「どうも。どうしたの?今日遅かったじゃん、制服着替えてないし。なんか気持ち悪い位機嫌良いし。こわ。」



「……まぁ色々ありましてね。」



話しかけてきた男子生徒に向かい直り、勿体ぶるようにどや顔でふふん、と鼻で笑った。

男子生徒……前衛1班班長である平山志乃(ヒラヤマシノ)

「何?」

と答えを促し、みなともそれに応じて、

「なんとなんとこのクッソ暇なオフ日にですね……臨時のミッションを引き受けてきちゃいました!!どや☆」

とどや顔大賞を受賞できるのではないかというほどのどや顔で重大発表をした。


その場に居た4人全員が耳を疑い、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ笑顔になると



『ふざけんな!!!!』



と声を揃えてみなとを罵倒しまくった。


「せっかくの休みを何だと思ってるのお前!?」



「今すぐ撲殺しちゃおうかなぁ?」



「どや☆じゃねぇんだよどや☆じゃ!!謝罪しろ謝罪!!」



「せめて班長か司令官に相談すべきじゃねぇの??(怒)」



志乃がみなとの胸ぐらを掴み、とてつもなく髪の毛の長い少女がどこからともなく戦闘用の、とてもその細腕では持上げることも出来なさそうな鈍器(ウォーハンマー)を取りだし、眼鏡をかけたインテリ風の少年は今にも手に持っていたシャープペンシルをへし折りそうになり、天然パーマでオッドアイの少年は眼鏡をかけた少年を指差しながら静かに問いかけた。



「うわぁDVだぁドメスティックなバイオレンスだぁ、助けてドラ●もーん」



志乃から目をそらすと胸ぐらを掴んでいた手を振り払い、



「後衛1班の架凛先輩から頼まれたんです。何かミッションと予行演習が被ってるとかで」



ふてぶてしく呟いた。

それを聞いた志乃は、憐れむような目でみなとを見た後、はぁぁぁ……と盛大にため息を吐き、「あのさぁ……」と話始めた。



「そんな予行演習ねぇけど。」



「……は?」

間抜けな声が漏れた。



「だから、演習ねぇって……そのミッションの話なら一週間位前から十字先輩に変わってくれって言われてたやつだよ。」



「ええ。悉く断られたって、薄情な奴だって言ってましたね」



「だからお前……騙されてんだよ、端から予行演習なんて無いしただ単にこのミッションを十字先輩がやりたくなかっただけだよ」



「…………」

みなとは答えない。



「あーあー、やらかしたな。」



勢いの無くなったみなとに追い討ちをかけるように責める志乃。



「…………」



だんだん俯き気味になる頭。



「とりあえず、受けるって言っちまったもんはしょうがねぇから受けるしかねぇだろ」



はぁ、とまたもため息を吐く。



「………」



俯き気味だった頭が完全に下を向き、ふるふると肩を小刻みに震わせるみなと。それを、ただでさえ切れ長な目をナイフのように細めて見る志乃。


志乃はこめかみに手を当て、疲れたように眼鏡男子に振り返り、前衛1班班長として指示を出した。



「唯十先輩は教官にこの件伝えに行って下さい」



「うーっす」

机から立ち上がると、「平山は苦労性だな、あはは」と笑って部屋から出る。



「……で、桂と竝川さんはそれぞれ準備他の人より必要だから早めにお願いします」



長髪女子と天パー男子はそれぞれ適当に返事をして、それぞれ部屋から出ていく。それに紛れて、みなとも出ていこうとしたが、



「おい。あんたはまだ出て行っていいなんて言ってねーぞ。」

志乃に呼び止められてしまった。



「……………何でしょうか」



バレたか、という様子で志乃の前に戻る。



前に来たみなとを見据えると、うんざりした口調で話始めた。



「ついさっき、速水が学校の敷地内に墜落してきた。」




他人には注意して見ていないと解らないぐらい微かにぴくり、と肩を揺らした。

志乃には気付かれていないだろうと思い、しらをきり通そうとする。

バカにするようにくすり、と笑った。



「へぇぇえ……間抜けですね?」

みなとの様子に気付いているのかいないのかはわからないが、人をバカにする態度のみなとを無視して続ける。



「速水は監査役として寮を離れていたそうだ。」



「諜報部ですもんね。」



いちいち口答えをするみなとに若干苛つきを露にし、



「……黙って話聞いてろよ。で、速水先輩の監査対象はあんた。」



一気に話の核心に踏み込む。



「………………………」



「……どうせあれでしょ?速水先輩ともめたかなんかで魔力使ってその魔力の使用をパンピーに見られたから隠蔽しようとして十字先輩を頼ったと。」



「まるで見てきたようにモノを言いますね……」


じっとりとした目で志乃を見上げる。

そのじっとりとした視線を呆れ返った様子でかわすと本日何回目かわからない溜め息を吐いて呟いた。



「全部推測だけどな……でもこれだけパーツがばらまかれりゃ名探偵の出番もねぇだろ……」



「………」



みなとは聞こえないふりをし、志乃はそれに、と続ける。



「さっきあんた、うまくいったとか思ってか何でか笑ってただろ!腹立つなぁ」さっき目を細めてみなとを見た理由はこれだった。



一瞬目を見開くと、驚いたような声で、

「バレてましたか。」

と返した。



(内心、うっわぁ……こんなに華麗にうまく行くとはwwwwwって思ってたんだよなぁw)


「バレてないと思ってたの!?バレバレだっつの!あんたが責められた位で泣くわけねぇし、基本的にあんたクズでゲスだもんな!!」

(どうせあん時だって、うっわぁ……こんなに華麗にうまく行くとはwwwwwとか思ってたんだろ……)



志乃はエスパーか何なのかみなとの心理を一言一句違わずに当てた。

口には出してないが。



そして、ゲスと聞いてみなとはさも心外そうに抗議した。



「ゲスとは失礼な!!こんな優しい心を持っているというのに!」



「どこが!?微塵も優しさが感じられねぇよ!!素直さも欠片もねぇしよ!!まさに血も涙もない人間だよな!!」



「ナイスツッコミ」



「バカにしてんの!?」


「よくわかりましたね、その通りですよ。」



「うっぜぇ」



ここまで物凄いスピードで言葉の応酬が繰り広げられていたが、その流れを止めるようにみなとがパンパン、と手を叩いた。

「はいはい、そういうことで!もう良いですよね?わたしも着替えてこなきゃいけないんで」



「よかねぇよ。」



「?…………あ、速水先輩の事故現場、参謀以上の方々が見ていたりします?」



「そこなんだが、ばっちり参謀が見てた。てかこの話参謀から聞いた。」



「な、なんだと……?うぉいどーすんだおい」



「知らねぇよ。ま、御愁傷様。」



「それだけですか!?こーしたらいい、とかないんですか!?」



「ん。それだけ。」



「くっそうぜぇ……どうしようかな……」



そう呟きながらドアから出ていくみなと。

そのみなとを見送ると、志乃は再度はぁぁぁ……と深い溜め息を吐き、通信機を取り出した。

連絡相手を呼び出し、もしもし……と会話を始める。


「あ、(サトル)……確認取ったらやっぱそうだったわ……うん、だからさ………………」



通話を終えると満足そうに頷き、この部屋の鍵を握ると部屋から出て鍵を閉めた。










寮に小走りで向かっているみなとはぶつぶつ呟きながら走っていて、回りから見るととても傍ら痛い痛い状態だった。

校舎を抜け、入り組んだ中庭を突っ切り(流石に噴水や生け垣は避けて)、校舎の裏手にある寮にたどり着いたが。



寮の入口に雪が立っていた。



みなとは雪の存在を確認すると、ちっと聞こえないように舌打ちし、無視をして通り過ぎようとした。

しかし、雪は通り過ぎようとしたのを遮ると、

「さっきはどうもね。」



話始めた。

そんな雪を、鬱陶しげに見ると、機械的な感情の無い声で答えた。



「……此方こそ、大人気なかったです。すみません。……じゃ、わたし急いでるので。」




「おお、釣れないねぇ……思考もハッキリと干渉を拒絶してるみたいだし。……でもさ、ちょっと待ってよ。」

と大袈裟にがっかりする。


「別にさ、オレはコーサカを糾弾するつもりは無いから。」



「…………?意味が……」


予想外の言葉に思考が一瞬停止し、見まいとしていた雪の顔を窺った。



「いや、意味が解らないわけない筈ないんだけど?まんまだよ、まーんま。参謀に言われちったんだよ、『上にチクるな』ってさ。……ま、参謀の言いたいことも分かるわな……オレが参謀でも多分そう言ってたんじゃねーの?ま、初めは諜報部だしチクっちゃおうかなぁ、とか思ってたけどさ。でもよくよく考えると、上にとってもオレらにとっても、コーサカってデリケート……ううん、違うな……腫れ物なんだわ。コーサカは戦力になるから生かされているんだろうけど、役に立たないって思われた時点で即処分されると思うよ。」



「………………」



何も答えないみなとを同情するように続ける。

それが失敗だったが。



「ほんと、大変だよねぇ……ロクデモナイ親を持つとさ……」



雪の言葉を聞くやいなや、みなとは激昂した。



「父さんは何も悪くない!!あんたなんかに何がわかるんですか!?何にも知らないクセに他人の評価を勝手にしてんじゃねぇよ!!」



「おっと……地雷踏んだか……ま、それだけだからさ……尋問の心配はしなくて大丈夫だよってね。じゃあ、オレは行くから。」



「……とっとと消え失せろ」



「はいはい。」



雪はみなとが来た方向……校舎に向かって歩き出した。



「…………胸糞悪ぃ」


吐き捨てるように呟くと、建物内に入り、4階にある自室にむかって駆け出した。



寮は15階建てで、一人に一部屋与えられている。

一応どの部屋が良いか希望はとられ、空いている部屋なら希望通りに、空いていない場合はランダムで決められる。

中はワンルームマンションのような感じで一部屋12畳でベッドとクローゼット、机付き。

風呂とトイレ、洗濯機は共用のものを使う。

また、内装も変なところで凝っていて、階ごとに壁紙やら床の色やらが違っている。



415号室 港坂

部屋番号の隣に乱雑な字で書かれた自分の苗字。

盗られるものなど無いので基本的に鍵はかけない。

藍色の扉の、ドアノブを捻って中に入る。

部屋の、一つしかない窓はカーテンが閉めきられ、光源は開け放したドアからしかない。

ドア付近のボタンを押して電気をつけると、ドアを閉めて鍵をかける。

外出時はかけないが、今は着替えをするので、一応。



壁に吊るされているセーラー服を手に取る。

全体的に白色で、襟とスカートは紺色。

襟には一本白いラインが入っている。

スカーフの色は黄色。


今着ているブレザーを脱ぎ、素早く着替える。

黒タイツを脱ぎ捨て、黒いニーハイソックスを履き、膝あてを付ける。


参考書や教科書が積まれた机の、一番下の引き出しから黒い、何の飾り気も無いウエストポーチ―――正確には黒いベルトにポーチを数個取り付けたもの―――を取り出し、腰に付ける。

ポーチの中身を確認し、これじゃ足りないかもしれん、と呟いた。

ポーチの中には魔力回復薬、気付け薬などの薬品や手榴弾などの爆発物、簡単な手当てのための包帯などが入っている。



脱いだ革靴の隣にある、黒い無骨な安全靴を履くと、電気を消して外に出た。










◇◆◇◆◇

志乃が一番最後に来た長髪女子の桂――桂兎花(カツラ トウカ)を確認すると、最終チェックに入った。

「全員揃ったな。……で、唯十先輩、教官はなんて?」



聞かれたメガネ男子の唯十依糸(イトオ イシ)は答える。

遊馬野(アスマノ)ちゃんなら、『わざわざ不利なミッションもらってくるなんてバカなの?止めはしないけど無理はしないでよね』だってー。呆れてたよ。」



「OKです……じゃ、まぁ何だ?みんな死なない程度に無茶してくれ。」



「ド鬼畜ぅ〜♪」

「了解了解」

「頑張るよ」

「心得ました。」

各々了解の意をしめし、それを聞くと志乃は、


「そういや、桂……吸血鬼対策、何かあるか?」



兎花に意見を仰いだ。


「ん〜?あ、そういえば、吸血鬼討伐って初めてだったねぇ……えと、まず、捕まったらお終い。相手の腕、斬り落とすかなんとかして、血ィ吸われる前に逃げて。……で、ただ単純な攻撃じゃすぐに回復するから、中枢神経……脳ミソとか脊髄……か、心臓に聖銀の弾丸ぶちこんでね。弾は依糸せんぱいに渡しとくよ。うーん……あ、あと吸血鬼は暗闇が得意で、音が無くても体臭で相手を認識出来るから、平山の能力の出番は無いよ……残念。」



「いや、魔力使わなくて良いなら助かる。」

ホッとしたように言う。

すると、志乃の横で、思い出したように竝川希夢(ナミカワノゾム)―――天パーオッドアイ男子が、ハイ、質問と手を挙げた。


「ねぇ、そういえば僕の能力は有効?」



「ううーん、多分効くとは思うよ。でもダウンしたら元も子もないし、糸は吸血鬼に見えちゃうと思うよ。」



「え……じゃあさ……」


「それなら……」


暫く作戦会議をし、志乃が「じゃあ、そういうことで!!」とまとめると、みなとたちは学園を後にした。









to be continued.



またまた後書きの場をお借りして登場人物紹介をさせて頂きます

是非ともご一読下さい

.登場人物紹介


★平山 志乃 (シノ)

【性別】男

【学年】高校2年

【所属】前衛1班

【戦闘スタイル】素手or両手剣(大剣)

【魔力】ブラックアウト

自分の半径100メートル以内の空間にいる人物の視覚と聴覚を奪う。

自分も無音・無光状態になる。

消費魔力も膨大なため、乱発は出来ない。

【備考】前衛1班班長。

【性格を一言で表すと】苦労屋。



★唯十 依糸(イトー)

【性別】男

【学年】高校3年

【所属】前衛1班

【戦闘スタイル】拳銃&ダガー

【魔力】千里眼

自分の思うがままの範囲を客観的に(上空から)見ることが出来る。

【備考】司令塔

【性格を一言で表すと】真面目。



★桂 兎花(トーカ)

【性別】女

【学年】高校2年

【所属】前衛1班

【戦闘スタイル】巨大鈍器【魔力】重力操作

対象の重力を操作出来る。

【備考】半魔族

【性格を一言で表すと】ポジティブ(楽天家、とも言う)



★竝川 希夢(ノゾム)

【性別】男

【学年】高校2年(留年しているため本来は3年)

【所属】前衛1班

【戦闘スタイル】棍

【魔力】人形師

対象に糸を絡ませることによって操る。

【備考】医療係

【性格を一言で表すと】穏和。



遊馬野(アスマノ) 崩視(クズミ)

【性別】女

【年齢】23

【所属】成檀学園教師

【戦闘スタイル】魔剣&魔法

【魔力】具現化

自分の想像したものを実際に実体化させる。

実在するものから空想のものまで何でも実体化させることができるが、実在するものは、そのものが持つ技量以上のことは出来ない。【備考】魔法学講師、前衛1班教官

【性格を一言で表すと】保護者。




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