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「あーあ、ベタなもん買っちゃったよ・・・」
「・・・そういう顔されたら、すげー気に入らないみたいに見える」
たった今、手渡されたばかりの腕時計。
手首にはめたそれを見て、ふう、と溜息を吐いた京子が首を振った。
「だってさー、緋天が。・・・蒼羽さんに時計あげてるんだよ、なんか嫌っていうか」
紺地のメタル色を背景にしたクロノグラフ。
京子に誕生日プレゼントだと言われ、受け取ったその時計。
見事に自分の趣味を把握しているな、と一目で気に入ったのに。
緋天と仲良く買いに行き、彼女はそれを蒼羽の為に購入。京子も同じようにこれを買ったのだ、とその言葉から推測してしまったから、引っかかってしまう。
「なんで時計が嫌なんだよ。つーか、緋天ちゃんの付き合いのついでに買ったな?」
「んー・・・私の緋天が、どんどん蒼羽さんと普通のバカップルっぽくなってくのがね・・・」
何だか遠い目をして、自分の問いに答えずに呟く彼女。
何故、いつまでたっても彼女の友人に勝てないのだろう。
「・・・ま、ぶっちゃけ亮祐さんのはついで以外の何物でもないけどね」
面白くない。
そういう顔をしているのが分かったのか、京子がくすくすと笑い出し、そんな事を言い出した。
「だって、プレゼントは私、でしょ?」
にや、と意地悪げな笑みを浮かべてみせて。
彼女だから、そういう表情も男を魅了する。口にした言葉は、もっと甘い。
「・・・わかったら、キスして?」
数年前に京子の唇から紡がれた言葉を、反芻してみる。
「うん。早く」
にこりと笑って、目をつぶる彼女の。
触れた唇は、変わらず甘かった。
ああ、自分のものだ、と感じさせてくれた、あの頃と同じように。