第八話 写真部の非凡なる後輩たち
ゼミが終わって部室に行くと、最近おなじみのメンバーが机を囲んでいた。
佐々木や碧、それに柚希は、もともと写真部の活動も熱心だったけど、さくらはこのところ、意外に頑張っている。
さくらは去年、学祭の名画を手伝っているうちに写真部に入部したのだが、そのあとはコンパくらいにしか顔を出していなかった。今年は個人写真も出品したし、ちょっとやる気になってるのかな。
「うわっ、副部長、なんか顔、汚くないですか?」
さくらに容赦のない指摘をされて、俺は自分の顔をなでた。口の上と顎に少しざらついた感触がある。
「そういや、三日…いや、四日くらい、髭、剃ってないな」
「やだな。横着しないでくださいよ。似合わないんだから」
無精ひげが似合う奴なんか……いるか。林原なんかちょっとそんな感じだし、佐々木も似合いそうだな。でも、佐々木が髭を伸ばしたら、おっさんになりそうだ。
俺はもともと髭が薄いから、毎日剃ったりはしないんだけど、さすがに四日目になると目立ってくるか。
「昨日は友達の家に泊まったから、剃れなかったんだよ」
「部長のアパートっすか?」
佐々木の問いに、俺は首を振った。
「いや、美大の友達。ああ、そうだ。佐々木によろしくって言ってたぞ。あいつ、お前のこと、気に入ったみたいだな」
「油絵の林原さん?」
「ああ」
「泊まりにいったりするほど、仲良かったんすか?」
「高校の同級生だからな。でも昨日は遊びに行ったんじゃなくて、絵のモデルに行ったんだ」
「へー。松浦さんがモデル……。想像できるような、出来ないような。油絵のモデルって、脱ぐんすか?」
「脱ぐよ」
「きゃー、エロいー!」
さくらがふざけてはしゃいだ。この子は、いちいち反応が激しいよな。
「期待を裏切って悪いけど、上半身だけだから」
「なんだ。つまんない」
「つまんなくて、悪かったね。林原が言うには、俺の背中は主張し過ぎなくて、いま描いてる絵にちょうどいいらしいよ」
部員が一斉に、どっと笑った。
そんなに面白かったか? いまの。
「こんにちは。あ、なんか盛り上がってる」
ノックの音と共に、部室のドアから入ってきたのは亜衣だ。最近よく、写真部の部室を訪れる。
さくらと碧は、いっそのこと写真部に入ったらいいのに、と説得しているようだが、写真は携帯でしか撮らないからと、入部は断っている。
「いつもお邪魔してるんで、お菓子持ってきました」
見れば、亜衣の手には紙袋があった。
「亜衣ちゃんの手作りクッキー?」
碧が尋ねると、亜衣は驚いたように頷いた。
「どうしてわかるんですか?」
「昨日、亜衣ちゃんのブログに、最近お菓子作りにはまってる、って書いてあったし。クッキーを試行錯誤中なんでしょ?」
「そうなんです。ブログってやりだすと愉しいんですけど、私生活がバレバレになりますね」
さくらと碧がお茶の準備を始めた。最近、写真部の部室は、こんな感じで穏やかだ。めぼしい活動予定もないから、休息中だな。
写真部の部室は、広さが二十畳くらいだろうか。壁のコルクボードには、部員が撮った写真が重なり合うように貼りつけてある。
奥まった一角が暗室になっていて、白黒のフィルム写真を現像することができる。水道もあって、何年か前の卒業生が湯沸かしポットを置いていったので、部室とは名ばかりのお茶会ルームのような場所になっていた。
もともと、写真を撮るときに部室で撮ることは稀だし、佐々木や碧は鉄道だの景色を撮るから、本当に活動しているときは外に出て行ってる。
ここに集まっているときは、情報交換だったり充電してるときだから、この状況も当然ではあるのだ。
この部室が写真部らしい活気で溢れるのは、学祭の準備のときくらいだ。
「さっき、なんか盛り上がってました?」
「そうなの。訊いてよ、亜衣ちゃん。副部長がね、ヌードモデルしてるんだって」
「ええ? すごい……んですか、それ?」
「さくらちゃん君の言葉じゃ説明不足だろ。美大の友達に頼まれてモデルになってるんだよ」
「ああ、そうだったんですか」
「副部長の背中が頼りなくて、ちょうどいいんだって」
「頼りなくて、なんて言われてないって。主張し過ぎなくて、だよ」
「どっちでも一緒じゃん」
さくらがぽそりと呟くと、また一斉に笑い転げた。どうもこないだから、笑われてばかりだ。
「でも、副部長さんって、脱いでもあんまり色気とかなさそうですよね」
「男に色気なんかあるの?」
「ありますよ。もちろん」
「うーん、そういえば、林原にも言われたよ。『惣介は美少年と言うより好青年だから、色気はない』って」
「完璧な表現ですね。さすが美大生」
部員全員に大きく頷かれて、さすがに俺は落ち込みそうになった。