表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/53

第三十五話  柚希と同伴帰宅

「お邪魔します」

「どうぞ、上がって」

 柚希が脱いだ靴を見て、やはりサイズは女の子より大きいんだなと思った。それでも、女物の靴が入るのだからたいしたものかもしれない。

 キッチンから物音がしたので、キッチンとリビングにつながる扉を開けた。お袋がテーブルに買い物袋を置いたところだった。

「母さん、帰ってたんだ」

「ちょうどいま、帰ったばかりなの。あ、そういえば、写真部の子が来るの、今日だったわよね」

「お邪魔してます。瀬戸柚希です。松浦さんには写真部でお世話になってます」

 柚希は大きめの菓子折りを差し出しながら、丁寧な挨拶をした。

 お袋は柚希を見て、呆然となった。

「…あ、これはこれは、ご丁寧に、ありがとうございます……」

 あたふたと受け取りながら、お袋は俺の袖を引き寄せた。

「ちょっと惣介、こんなに綺麗な女の子を連れてくるなら、なんでそう言わないのよ」

 こそこそと耳元で囁かれた声は、なんだか尖がっている。お袋を怒らせるようなこと、したのかな。

「鉄道マニアの熊さんが来ると思ってたじゃないの。どうしてくれるのよ」

「あのさ……」

 柚希は男だから、と言いかけて、俺は口を噤んだ。言ってもいいんだろうか。林原のときは、誤解されるよりいいと言ったが、初対面のおばさんに驚かれるのは、不快ではないだろうか。

「あんた、部屋は掃除してるんでしょうね」

「してるよ」

 一応、だいたいは。

 これ以上、余計なことを言われて恥をかくのは勘弁してほしい。俺は立ち竦んでいる柚希に顔を向けた。

「柚希ちゃん、先に二階に上がっといて。階段上って右側の扉だから」

 柚希は頷いて、後ろ手にドアを閉めた。階段を上るスリッパの音を訊き終わってから、俺は息を吐いた。

「ねえ、惣介、あのお方とはどういう関係なの?」

 あのお方って、べつに崇高な身分のひととかじゃないって。人間、顔って大事なんだな。少なくとも、中年のおばさんには。

「後輩だよ。言っただろ。写真を見に来たんだ」

 つきあってる彼女の……。

「あとで、お茶持って行くけど……」

「はい、はい。お願いします」

「行っても大丈夫よね」

「は?」

「母さん、息子のただならぬ現場に踏み込む趣味とかないし」

「………………」

 俺は頭を抱えた。柚希の名誉のために誤解を解いてやりたいけど、男が女装してる事実と、俺とあらぬ関係だと誤解されているのとでは、どっちがマシか、微妙なところだ。

 お袋とは、もう二度と会うことはないだろうし……。

「あのさ、つきあってるとかじゃなくて、後輩だから」

 とりあえず無難に真実を言っておく。

「わかってるわよ。あーあ、庄野さんに謝っておかないと駄目かしら」

「だから、柚希ちゃんとは本当になんでもないんだって!」

 らしくもなく声を荒げてから、俺は、はっとした。いまの流れは、誤解されたままにしておけば、婚約解消じゃないか。なにをムキになって、否定してるんだ。

 そういやこれこそ、部長が打ち上げコンパで進言した、同伴帰宅の展開じゃないか。

「惣介……?」

「ごめん。なんでもない。とりあえず、待たせてるし……」

 俺はいま、婚約解消されそうになって、焦ったのか?

 ……やばい。まじで、やばい。

 婚約解消が、目的地だったはずなのに。

 どうしようもない嫌な汗が、毛穴から吹き出している感じがした。


松浦惣介は私の中で、優しくて温順で、マザコンです。

そこそこ恵まれた家庭で、専業主婦の母親がちゃんと育てた長男、ってイメージで書いてます。常に周りに気遣うことができる代わりに、自分の感情で、後先考えず突っ走るのが苦手、みたいな(笑)

同じ家庭で育っても、弟はそこそこ、ハチャメチャなところがある気がします。

惣介は珍しい血液型なので、ケガしないように、お母さんが大事にしたんじゃないかな~なんて考えて、より長男色を強めてみました。私なりに(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ