表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/53

第三十三話  撮影会

 後期試験が終わった。ひとつ重荷が降りた気分だ。

 部室で話し合った日から、何度か撮影会を繰り返してきた。俺が参加できない日も、後輩たちは撮影してきたから、枚数だけは結構な数になっている。だがまだ、全員が納得できる写真はないらしい。

 今回の撮影は、碧たちに任せてある。俺は就活を抱えていて、正直、こっちに集中できないし、女の子の方がいいアイデアを出す。

 試験までは屋内で写真を撮ってきたが、これからは天気を見ながら、屋外の写真も撮っていきたいそうだ。

 俺が参加する日はモデルをすることになるので、たまに服装の指定が来る。白っぽい服装で来てくれとか、暗い色の服装で来てくれとか。

 俺が被写体のとき、撮影はほとんど碧だ。

 モデルを務めている間も、碧は技術的な相談をしてくる。

「副部長、これ、どうですか?」

 液晶に映し出された画像を、覗き込んで確認した。人物撮りを苦手にしている碧だが、被写体が柚希だからか、ずいぶん頑張っている。

 いまは図書館の書庫で、許可をもらって撮影中だ。

「もう少し、絞りを強くした方がいいかな。それと、ピントは柚希ちゃんの右目に合わせて。俺は身体が切れてもいいから」

「え? 切るんですか?」

「とにかく、騙されたつもりで、一度、写してみて」

「はい」

 碧は腑に落ちないような表情だったけど、言われたとおりにシャッターを切り始めた。

「あ、ほんとだ、全然違う。切った方が奥行きを感じるし、こっちの方が断然いい。副部長、やっぱり、凄い」

 碧の声に、柚希たちも持ち場を離れてカメラに集まった。

 レフ板を持っているのは、さくらと佐々木。亜衣が予備の三脚を持たされて待機中だ。

「松浦さん、こういう構成は直感でひらめくんですか?」

 柚希が液晶を食い入るように見つめながら訊いてくる。

「それができれば才能があるんだろうけど、俺の場合、丸暗記に近いかな」

「でも、この書庫で撮影するのは初めてですよね」

「それはもちろん。いままでに撮ったことがある場面に近いのを記憶の中から引っ張り出して、あとは応用かな」

「………………」

 柚希は押し黙って考え込んだ。

 感心されてるのは伝わってくるけど、俺はむしろ、柚希や碧の感性の方が羨ましい。

 俺みたいな写真は、数を重ねれば誰でも撮れるからだ。

「碧ちゃん、どうする? 立ち位置もレフ板も動いちゃったけど、まだ撮る?」

「いえ、ここはもう大丈夫です」

「じゃあ、佐々木と交代しようか?」

「それが、佐々木くん、使い物にならないんですよ」

 さくらが親の仇でも見るような目で、佐々木を睨みつける。佐々木は蛇に睨まれた蛙のように、あとずさった。

「指示通り動いてくれないし、表情も作れないし、恥ずかしがって全然、撮れないんです」

「そんなこと言ったって……」

 恐れていた戦力外通告か。予想はしていたが、完全に男手不足だ。レフ板持ちばかり増えてどうするんだよ。

「瀬戸さん可愛いもんね。無理ないよ」

 碧が佐々木を庇っている。庇い方はともかく、佐々木は手を合わせて拝みそうな勢いだ。

「じゃあ、碧ちゃんと柚希ちゃんで写してみようか」

「はい。お願いします」

「碧ちゃんは大丈夫?」

「はい」

 碧は少し緊張した面持ちで頷いた。


 最初はいくらか硬かった碧だが、柚希に話しかけられているうちに、いい表情になってきた。

 その柚希は、服を着替えて、さくらの言うところの男装をしている。黒縁眼鏡と髪を隠した帽子のせいで、男に見える……かもしれない角度もある………ような気がする。

 難しいがそこを狙って、撮ってみるか。幸い、つきあい始めたばかりで、恋人オーラが漂ってるから、先入観を持って見れば、男女の印象になるはずだ。…たぶん……。

 途中、さくらの指示で、碧が亜衣に替わった。

 亜衣の方が華やかで大人びている。柚希とのバランスはいいはずなのに、なぜかしっくりこない。

 表情も作ってるし、指示通り動いてくれてるのに、どうしてだろう。まあ、この小さい液晶じゃ、微妙な良し悪しは判断できないけど。

 今日は風もないので、屋外も写してみることにした。さくらの希望で、渡り廊下から見下ろして撮る。顔の表情はほとんど撮れないけど、レンガの歩道の上に樫の木の影が出来ていて、なかなかいいシチュエーションだ。

 柚希が男装してしまったので、ここでは、俺のモデル役は免除だった。有難い。どうやら、亜衣は、柚希以外の組み合わせがないらしい。林原の恨みを買わなくてすみそうだ。


 この日の撮影は、こんな感じで終了した。

 撮影機材を持って、ぞろぞろ部室に移動する。

「そういえば、理工学部キャンパスの写真部の話、訊いた?」

 部室に戻ったとき、さくらが思い出したように言った。

「なに?」

「出すんだって、この企画」

「へえ、ライバルですね」

 亜衣は賞金に興味がないせいか、気楽な口調だ。

「タイトルが『細菌培養中』なんだって。もう、訊いただけでそそられるよね」

「え~、そう?」

 碧は眉をひそめて首を捻った。確かにさくら以外、そそられないタイトルだけど、実験室で撮った写真なんだろうなあと想像できる。おそらく、白衣を着た男女が。

 美大や理工学部は、大学や専攻の特色を出しやすい。経済学部や文学部のキャンパスは、そういう意味では不利だよな。三位以内はいけるかと思っていたけど、三位どころか十位以内の雑誌掲載も難しいんじゃないのか。

 俺は、急に就活が不安になってきた。この企画も就活も、どうにかなると、気楽に考えていたような気がしてきた。



明日、明後日、更新をお休みします。

少し、頑張って書き進めないと、完結が見えないです~。

それにしても、予定より大幅に長くなってしまいました。

とっくに、終わってるはずだったのに……。

25話くらい、6万~7万字、なんてつもりだったのですが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ