第二十七話 さくらからの電話
大学の冬休みは、ないに等しい。今年はカレンダーの並びもシビアで、土日を入れても一週間だ。
その代わり、一月末に後期の試験があって、二月から四月上旬まで、長い春休みになる。
俺は、二年までに必修科目の単位を取り終わっていた。一月の試験は選択科目のみで、あとはゼミのレポートだ。
レポートはほとんど出来上がってるし、試験は受けてみたいとわからないけど、よほどのヘマをしない限り、B以上はもらえるだろう。
就活の方が、はるかに大変だ。だが、三十も四十も受験するつもりだとか、書類選考や一次審査が立て続けに通らないというならともかく、いまはまだ、のんびり構えている。
幸い、受けたところが面接まで残っているから、焦る気持ちは湧き起こらない。
自宅の部屋で書類を読んでいたら、携帯の着信音が鳴った。
『こんばんは。さくらです。副部長、いま大丈夫ですか?』
「大丈夫だよ。家だから」
『年内に一度、写真部応援企画の話を詰めておきたいんです。碧が妙なテンションで。出版社に電話して訊いてみてくれました?』
しまった。沢波さんに電話したことを、写真部のみんなに話すのを忘れていた。
「悪い。報告するの、忘れてた。電話はしたよ。それほど情報はもらってないけど」
『できるだけ早く、一度集まって、方向だけでも確認したいんです。副部長の就活に差しさわりのない日、ありますか?』
「今年はもう、なにもないから、いつでもいいよ」
『明日の夕方、部室集合でもいいですか?』
「いいよ」
『じゃあ、明日お願いします。他の部員には、わたしから一斉メール、送っておきますので』
「わかった。よろしく」
『はい』
携帯を置いて、俺は頬杖を突いた。
去年までは、まともに写真部の活動に参加してなかったさくらだが、最近しっかりしてきた。次の副部長を任せるのも、面白いかもしれない。
佐々木に譲るつもりだったけど、写真部の女子はアクが強い。副部長は女の子の方がいい気がする。
碧の方が写真に対しては熱心だけど、まとめ役となると向かないんだよな。
しかし、さくらか……。
俺は、クリスマスイブに起きた惨劇を思い出した。
さくらに副部長を譲って、最終的に部長になったら、写真部が心霊写真部になったりして。
「…ははははは……」
シャレにならない考えがよぎってしまった。
俺は誰もいない部屋で、溜め息をついた。
「さくらちゃんのホラー好き、なんとか治せないのかな」
趣味嗜好は病気じゃないけど。
こんなことをさくらが訊いたら、副部長の熟女好きの方が病気じゃないですか、とか言うんだろうな。
俺はいっそう虚しい気分に陥った。