番外編2 恋を感じる指先
街に溢れるイルミネーションとクリスマスソングの中を、碧と歩いた。
ずっとこの日を想像していた。クリスマスに思い入れがあるわけではないけど、とりとめもなく考えていた。
去年まで、自分には縁のないものだったから、碧と過ごすクリスマスを楽しみにしていた。
けれど柚希は友人の舞台を観に行かなければならなかったし、碧は一緒に来てくれなかった。がっかりしていたら、碧はちゃんと自分に会いに来てくれた。
自分ひとりが子どもっぽい我が儘を主張していたような気がして、いたたまれない気持ちになった。
マンションの近くにあるコンビニに差しかかったとき、柚希は足を止めた。
「碧さん」
「なに?」
「食事してないんですよね?」
「うん」
「なにか、食べられそうなもの、ないですか?」
「一食くらい抜いたって、死なないよ」
笑って答えたけど、柚希は心配そうに顔を曇らせた。碧は苦笑して、コンビニの店内に視線を向けた。
「あっ」
「え?」
「あ、ううん、ごめん。やっぱりなんか買ってくる。おにぎりくらいなら食べられそうだし。待ってて」
碧はそう言うと、自動ドアの向こうに入っていった。
待っててと言われたので、柚希は店の外で待つことにした。昼間は曇り空だったけど、いまは綺麗な星空が見える。明日の朝は、冷えそうだ。
店の中の様子を、ガラス越しに伺う。碧はレジの前にいた。不自然に顔を背けている。どうしたんだろうと思っていたら、レジのすぐ横に肉まんのケースが見えた。
いまの碧には、見るのも怖い食べ物なのだろう。
一緒に入って支払いをすればよかったと後悔した。
店から逃げるように、碧が戻ってきた。
おにぎり以外にも、買い物があったらしい。レジ袋が少し大きかった。
泊まることになったからだろうか。けれど碧は、最初からそのつもりで寮を出たはずだ。鞄も大きい。引っかかるものを感じたけど、荷物や買い物のことを訊くのは躊躇われた。
「ね、瀬戸さん、手、繋いでいい?」
言葉に驚いて、隣を歩く碧の顔を見つめた。イルミネーションの光で、白い頬に赤や緑の明かりが反射していた。
つぶらな瞳が可愛かった。
柚希は微笑むと、黙って碧の手を握った。碧の手は温かかった。伝わった温かさに、自分の手が、冷たく凍えていたことを知った。
碧に冷たい思いをさせて、申し訳なかっただろうか。けれど、碧は嬉しそうに笑いかけた。
「クリスマスイブの夜に、女同士で手を繋いで歩いてたら、変に思われるかな」
確かにそうだ。他人が見たら、女同士にしか見えないだろうから。
「そうですね。でも、いまさら離せないので、急いで帰りましょう」
指先から伝わる体温に、幸せってこういうことかもしれないと思った。
凍てつく寒さも忘れてしまうほど、柚希は温かな気分だった。