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第二十一話  くるみ割り人形

 クリスマスイブ当日、空は厚い雲に覆われた曇天だった。

 待ち合わせの駅に着くと、柚希と亜衣はすでに来ていた。

 俺と林原が近づくと、亜衣が気づいて頭を下げた。

「こんにちは」

「ごめん、待たせた?」

「大丈夫ですよ。じゅうぶん余裕があるので」

 開場の時間まで、まだ四十分くらいある。花屋に寄りたいからと訊いてはいた。

「あっ、もしかしたら、惣介の写真のモデルした子? 学祭の」

 林原が柚希の顔を見て尋ねた。林原のことはふたりに話してある。美大生で舞台美術に興味があると説明しておいた。俺がモデルをつとめた絵の作者であるとも。

「はい」

「そうか、やっぱり。いや~、可愛いなあ。写真映りが特別なのかと思ってたけど」

「あ、そうだ。柚希ちゃん、ごめん。林原には君のこと話してるんだ」

 勝手に柚希の性別をばらして悪かったかな。こんな風に直接会うことになるとは思わなかったから、正直、気まずい。

「べつにかまいません。勘違いされたりわざわざ説明しなくて済むので、むしろ助かります」

「そっか。ありがとう。それで、亜衣ちゃん、なんで花屋に行くの?」

「出演する友達に、花束の差し入れをするんです」

 そういうものなのか。

 四人でぞろぞろフラワーショップまで歩いた。駅に隣接しているので、それほど遠くはなかった。

 亜衣と柚希が、店員と花を選んでいる。

金平糖こんぺいとうの精って衣装がピンクなの。花もピンクがいいかな?」

「うん。赤やオレンジはおかしいよ。ピンクか白でいいんじゃない」

 レジ付近には出来上がった花束がいくつも置いてある。みんな、バレエの出演者に送る花なのかな。うーん、右も左もわからないとは、このことだ。

「お聞きしてますか?」

 別の店員に声をかけられた。

「いやオレたちは……」

 林原が慌てて首を横に振ったが、俺は店員に歩み寄った。

「花束をひとつお願いします」


 とにかく、どう選べばいいかわからなかったから、亜衣と柚希に教えてもらいながら小さめの花束を作ってもらった。

 中国の踊りとやらは、赤い衣装だそうで、オレンジや黄色のバラがベースになった。

 考えてみたら、女の子に花束を贈るなんて、生まれて初めてだ。この状況で、凜にあげる花束を『贈る』なんてものに入るかどうかわからないけど。

 会館に着いた。受付で花束を預かってもらえるようだ。亜衣に倣って花束にカードを添えて手渡した。

『凜ちゃん、頑張れ。楽しみにしてるよ』

 カードにありきたりのメッセージを名前と一緒に書いた。困った。妙に照れくさい。

 そんなことをしているうちに、開場の時間になった。

 亜衣にこの辺りなら観やすいと思います、と言われて、並んで座った。俺は柚希と林原の間で、柚希の反対隣りには亜衣が座った。

 何列か後ろに、カメラマン席がある。さすがにいいカメラだ。型番は古いけど、俺なんかじゃ一生、手にすることはできないだろう。三脚も一流品だ。

 それにしても、この距離から写すのか。いくら望遠レンズとはいえ、もう少し近いほうが写しやすくないのかな。

 まだ開演まで時間があるので、俺は席を立って動いてみることにした。客席を一通り歩いて空席に座ってみたりして、なんとなくわかった。前から撮ると、見あげる角度になりすぎるのだ。それに、広角レンズを使っても全体を入れるのは難しい。後ろから撮れば舞台のどの場所で踊っていても、カメラに収まるようだ。

 もちろん、客席への配慮もあるのだろう。前の真ん中で三脚を立てて撮影されたら、後ろの客は観覧しづらい。

 席に戻ってしばらくすると、開演時間になった。

 客席が暗くなり、幕が上がった。

 凜の最初の踊りは七番目だ。

 いま踊っているのは、幼稚園くらいの小さな子どもだ。動きは揃わないし、人数は多い。カメラマンは苦労しているだろうな。それに、舞台のスポットライトは目で見える以上に、カメラには厳しそうだ。止まってくれればシャッター速度を遅くして光を取り込めるが、前後左右に動くから難しい。

 それに二番目の踊りが始まったときに、ライトの色が青くなった。このまま写せば顔まで青くなる。踊りによって、ホワイトバランスを変更しないといけないようだ。

 大変だな。ここに来なければ、カメラマンが近くにいなければ、こんなふうに舞台を見ることはなかった。なかなか新鮮だ。

 凜の最初の踊りは、問題もなく終わった。基準もなにもわからないが、結構うまいんじゃないだろうか。普段会っているときより背が高く感じるのは、あのトウシューズとやらのせいだろう。

 このあと二十くらい踊りが続いて一幕が終わる。休憩をはさんで、二幕がくるみ割り人形だ。

 それまでは正直、退屈だ。

 最初こそもの珍しさで観ていたけど、だんだん眠くなってきた。これがまだ、似たような踊りが多いんだよ。さっきも踊ってなかったっけ? みたいな連続なんだ。

「柚希ちゃん」

 小声で隣に話しかける。

「はい?」

「もし俺がくるみ割り人形まで寝てたら、中国のふたつ前で起こしてくれる?」

「わかりました」

「悪いね」

 反対隣りを見れば、林原はとっくに眠り込んでいた。一幕に舞台監督の見せ場はないようだ。


 一幕は退屈だったが、二幕のくるみ割り人形はなかなか面白かった。

 結構、CMなんかで訊いたことがある曲も多くて驚いた。大道具や背景も多くて、林原は身を乗り出すように観ている。

 中国の踊りはふたりで踊っていた。凜と同じくらいの背丈の男の子だ。

 バレエ自体、踊る子はほとんどが女の子だけど、この踊りは男女のペアで踊るらしい。

 色違いの衣装に、同じ動き。

 なんだか中国の民族人形みたいで可愛い。だけど、可愛くて胸がきりきり絞られた。凄く似合っている気がして、凜がふさわしい相手といるように思えて、言いようのない気持ちが込み上げた。

 舞台の上の凜が、遠い存在に感じられた。



くるみ割り人形に関しては、ちょっと怪しいです。

すっとこどっこいだったら、ごめんなさい。

調べられる範囲で調べてはみましたが……。

クリスマスを、柚希と亜衣がバレエで、碧とさくらが映画に行くのは、早い段階で考えていたんですが、林原くんまで参加することになったのは、結構ぎりぎりで決定しました。

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