第25話
その時、不意にドアをノックする音が響いた。
蓮が急いで手を放して返事をすると、
さっきの蓮のお母様、桃子さんが入ってきた。
「失礼しますね。
夕食の支度が出来たのだけれど、
もうかなり暗くなってきているから、
お家へ連絡した方がいいかしら?」
「いえ、あの、お構いなく・・・」
1人暮らしのようなものなので・・・。
両親は私が2歳のときに離婚。
それから母親はずっと仕事三昧で、
最近は会社の寮に泊まっていて帰ってこない。
勿論、兄妹もペットもいないから、
1人暮らしも同然の環境。
「今夜は本当に遅くなっちゃってるから、
よかった泊まって行ってくださいな。
夕食、2人分運んでくるから、
食べ終わったら蓮も自分の部屋に戻りなさい」
桃子さんは、一度部屋を出て行った後、
小学校中学年くらいの女の子と一緒に
夕食を運んできた。
妹の桜だと、蓮が紹介した。
「お兄ちゃん、彼女?
大人しい感じの人なんて、
お兄ちゃんにはあんまりあわないね」
蓮は否定しながら桜ちゃんとじゃれていた。
目が覚めたときからずっと感じていた違和感。
やっと、正体がわかった。
こんな暖かい家庭、初めてだ。
誰かの家に泊まりに行ったのは七海がはじめてだけど、
そのときは七海のご両親は不在だった。
こんな暖かい家庭の雰囲気、知らなかった。
そうか、こんな環境で育ったから、
優しい言葉や、優しい行動が取れるのかもしれない。
私の家は、小学校に上がった頃から
ほとんど母親は帰ってこなかった。
隣の家のおばさんが手伝いに来てくれてたけど、
そのおばさんも小6の時に引っ越していった。
2歳以前の、両親がいたときの記憶なんて、
残ってるわけがないもん。
こんな家庭の雰囲気、知らなかった。
「ほらもう、桜はあっち行ってろよ。
・・・ん?どうした?
なんか食べられないものとかあったか?」
いけない、また泣いてしまう。
「ううん。なんでもない」
蓮は食事が済むと、隣の自分の部屋へ帰っていった。
どんなに感謝してもしきれない。
ありがとう・・・。




