↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

社畜日記〜不可思議な日常と煩悩編〜後輩女子にズボン、脱いでくださいと言われた日

作者: 奥村 俊
掲載日:2026/10/26


「佐藤、てめぇ〜またミスしてるじゃねぇか!! 何度ミスすれば気が済むんだ!!」


「すみません。新しく作り直します」


徹夜コース確定だ。

なんで、こんなブラック企業に勤めてしまったんだろう。


作業を淡々と進める中、

時計の針はどんどん進んでいく。

針と針が重なった時、ふとあることを思い出した。


ピピピー


今日は俺の誕生日だ。

11月10日、この世界に誕生してから、31年が経った。

今日が誕生日というよりかは、正確には昨日。


俺はデスクの上で、

書類の山と一緒に誕生日を終えていた。

31歳になって初めて、

デスクの上で誕生日を終えたのだ。


そんなことを考えていたら、

頬から冷たい雫がひとつこぼれた。


「何やってんだろ」


パソコンの画面だけが点滅し、

暗いオフィスは妙に冷たかった。


どうせなら、コンビニでショートケーキでも買って食べようか。


俺は、冷え切った外へと歩き出した。


「う〜、東京の夜は思った以上に冷えるな」


渋谷の路上には、

酒を飲んで歩いているサラリーマンがゴロゴロといた。


「おい、何テメェ俺様の前通ってんだ? ウェッ……ゲェー」


ケーキを買い終わってコンビニを出ると、

酒を飲んだ中年親父に絡まれた。


しかも、顔の前でゲップをする始末だ。

この匂いだけで吐きそうになる。


「いや、すみません」


こんなところで騒ぎを立ててたまるか。

ここは穏便にいこう。


ちょっと待てよ、と声をかけてくる男に対し、

俺は背中を向けて走り出した。


ケーキを守るためでもあり、

面倒な騒ぎを避けるためでもある。

しかし、男はしつこく迫ってくる。


タッタッタと、足音が背後から追いかけてくる。

(なんだっていうんだよ!!)


無我夢中で、見覚えのない道を走り続けた。


角を曲がり、

狭い路地裏をくぐり、

また角を曲がった。


「くそ!! 行き止まりだ」


「へへへ、やっと追いついたぞ……!!」


中年男はぜぇぜぇと息を荒げながら、

こちらに不敵な笑みを浮かべていた。


身構えながら壁際へ後退すると、

街灯の光が点滅し出し、ついに消えた。


周囲は真っ暗で、何も見えない。


ビシビシッ――


背中の壁から、

電流のような光が飛び散りはじめた。


「なんだ、これ……!?」


光は次第に強まり、

巨大なゲートのような形を作り出していく。


そしてそのゲートは、周囲の空気を、景色を、あたりのもの全てを凄まじい勢いで吸い込み始めた。


「うわ、うわ、うわぁぁぁ!?」


俺は電柱を必死に掴み、

光のゲートに吸い込まれないよう耐えてた。


そして、必死に耐えている矢先、

俺の足を誰かが掴む。


「おい、離せ!!」


それは、酔っ払いの中年親父だった。


「死にたくなぁぁぁい!!」


足を何度も蹴り飛ばそうとするが、

死に物狂いの力で掴む腕はびくともしない。


「お前キモいんだよ!! 早く俺から離れろ!! 」


何度も何度も、必死に足をもがいているうちに、

男はいなくなっていた。


男がいなくなったのと同時に、光のゲートも嘘のように消えていた。


(一体なんだっていうんだよ!!)


この時の俺は気がどうかしていた。


さっきまでの不可思議な現象も頭から離れないが、

とりあえず、会社に行かないと……資料が間に合わない。

それ以上に上司に怒られる恐怖の方が勝っていた。


スマホを開くと、

画面の時計は午前2時を回ろうとしている。


「俺が何をしたっていうんだよ……」


買ったケーキも中身がぐちゃぐちゃだ。

もう食えたもんじゃない。


♢♢


午前4時30分。

なんとか資料を完成させた。

完成と同時に集中力は完全に途切れ、

猛烈な睡魔がドッと襲ってきた。


♢♢


午前8時00分


デスクに伏せた俺が次に目を覚ましたのは、後輩(高橋結衣)の声だった。


「一真先輩!! 朝ですよ!! また会社で寝泊まりしたんですか?」


「う、うん……どうした?」


「あ、あの……」


どこか決まずそうに、モジモジとしながら何かを言いたげにしている。


……なんだ、この妙な空気感は。


非モテ歴31年の俺の中で、

都合のいい妄想が暴走し始める。


ついに俺にも、後輩からの告白というのが来たのか……!?


「ズボン、破けてますよ……」


だが、そんな勝手な妄想は打ち砕かれた。


「え?」


言われて自分の足元を見下ろすと、確かに膝のあたりが大きく破けていた。

……俺には、これに思い当たる節しかなかった。


昨夜、あの路地裏で酔っ払いに思いっきり掴まれた場所だ。


「ごめん! これは昨日、夜中に酔っ払いに絡まれちゃってさ……」


慌てて言い訳をするが、後輩に見苦しい姿を見せてしまった恥ずかしさでいっぱいになる。

おっさんの生足なんて誰も見たくないはずだ。


「……よければ、縫わせてくれませんか?」


だが、彼女から返ってきたのは意外な言葉だった。

断る間もなく会社の休憩室へと腕を引っ張られ、

高橋は裁縫道具と膝掛け用の毛布を取り出したと思えば――


「先輩! 脱いでください!」


目を輝かせながら、俺にズボンを脱ぐよう急かしてきた。


「え、ここで……!?」


高橋は大きく首を縦に振り、両手で自分の目を覆った。


「両手で目を閉じているので!!」


俺は言われるがままベルトを緩め、ズボンを脱いで毛布を腰から足へと巻きつけた。


(誰かにこんな状況見られたら、マジでヤバいぞ……)


しかも毛布の下では、焦りと困惑のせいなのか俺の息子がピンピンに立ってしまっている。


そんな俺の命がけの焦りも気にせず、

彼女は器用に針を動かし、

ズボンの穴を塞ぎ始めていた。


「高橋って……裁縫得意なのか?」


どうにかなりそうな理性を保つため、

必死に気を紛らわせようと質問を投げかけた。


「私の家、母子家庭だったんです。少しでも母の役に立ちたくて、裁縫もたくさん練習したんですよね」


そう語る彼女の目には、単なる寂しさや懐かしさとは違う、どこか冷たく静かな感情が宿っているように見えた。


「そうか……高橋は立派だな」


「やだな、よしてくださいよ。……ほら、完成しましたよ、先輩!」


毛布を退かそうとしたが、

俺のエクスカリバーは未だにピンピンとそり立っていた。


31歳になっても、俺の「ブツ」は衰えを知らず現役のようだ。


彼女はまた両手で固く目を閉じ、「着替えていいですよ」と合図を送ってくる。


俺はサッとズボンを受け取り、

毛布で大事な部分を必死に隠しながら、

大急ぎで穿き直した。


「とりあえず応急処置なので……あれ? ちょっと縫い目が歪んじゃってますか?」


「いや! 気のせいだ、完璧! ありがとう、マジで助かったよ!」


できる限り前傾姿勢を保ち、

なんとかこの場をやり過ごすことに成功した。


……まったく、朝からとんでもなく目が覚めたな。

俺はそのままお礼もそこそこに休憩室を飛び出し、

溜まりに溜まった煩悩を鎮めるため、一目散にトイレへ駆け込んだ。



【評価(★★★★★)】

グッドマークや☆印などで「読んだよ!」と伝えていただけると、飛んで喜びます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。