ノアのお受験「帝国神聖大=魔導士クラス=」
ノアは、「帝国神聖魔術士養成大学」の魔導士クラスを受験しようとしていた。
地球で受験といえば必ずテストが有り、その対策の受験勉強をせねばならない。
が、全く情報が無い。
地球では、白峰希空として高校受験の経験はある。
一応、希空の高校はそれなりのレベルの進学校だったので過去問も解いて受験勉強も頑張った。
あれから一年も経たず…
いや、一年くらい経過しているのか?
(地球とは、時間的概念が全く違うのでわからない)
とにかく、また受験することになるとは!
今度は、大学と名前が付くところなので、合格すれば飛び級になるのか?
しかも、帝国立の大学らしいので、日本の東大みたいなものなのか?
それを無勉強で受けるなんて、いやはや無謀にもほどがある。
が、今のノアは、無敵な気分なのである。
地球から転移して以来、困ったことが無い。
恐ろしいくらい、全てがとんとん拍子に進んで行く。
これは、転移させられたことに意味があり、その用意された道を進めば良いだけのようにも思えた。
ただ、自分で言うのもなんだが、目の前に与えられた課題は常にクリアする努力はして来た。
一度も逃げたことは無い!
と、自分では思っている。
今回も、やるだけやってみようと思っていた。
ノアは、宿屋の主人のティムが集めてくれた情報を頼りに「帝国神聖魔術士養成大学」へ行ってみた。
そこは大学というよりは城というか宮殿のようであった。
門のところの衛兵に確認するまでは、そこが大学だとは思えなかった。
入城許可書を発行して貰うため、衛兵のひとりに受付へと案内された。
そこで受験にエントリーしたいと言うと、名前と年齢、職業、住まいを記入させられて受験番号を渡された。
受験日は、なんと明日だとのことだ。
「えーーっ、そんなに早く?」
と、ノアは、心の中で叫びながら受験票を貰って宿に戻った。
宿で、その受験票を眺めていると、文字が空間に浮かび上がって来た。
― 受験生の方へ ―
この文字が読めた方は、当日、『参番館』にお越しください。
魔導師クラスは、入学できるのは12歳~16歳までです。
出生記録が無く年齢が不詳な方は、当日こちらで判断します。
卒業年数は3年以内です。
受験または合格後に入学拒否をしてもペナルティは発生しません。
明日のお越しをお待ちしております。
― 帝国神聖魔術士養成大学校長
カジミール・デューク・ヴァイオレット・フィールド ―
入学できるのは12歳~16歳までか!
だから、受験も明日なのかもしれない。
俺は、今、何歳なのだろう?
ギリギリ16歳のはずだが…
ここに来た時は、16歳になったばかりだったが、あれから何ヶ月経ったのかもわからない。
まさに俺は、「年齢が不詳な方」だからなぁ。
まぁ、明日行ってみればわかるだろう。
翌日、ノアは『帝国神聖魔術士養成大学』の門の前に立った。
昨日とは違う衛兵に受験票を見せて
「参番館へお越しください、って文字が浮かんだのですが…」
と、言った。
「そうですか、では参番館は、あちらになります」
「まず、そこをまっすぐ進んだところに馬車が待機していますので、それにお乗りください」
と、言われた。
『帝国神聖魔術士養成大学』の建物は、元々、第三代皇帝ラリーアダムス帝の時に使われていた宮殿を改装したものである。
敷地面積は広大で、大小含めて20棟以上の建物が存在する。
大学内は、普通に歩いて移動できる距離ではない。
White Mageと、Holy Mageは、国の宝なので護衛騎士たちに厳重に守られている。
また、Holy MageクラスとWhite Mageクラスは、魔導士クラスとは完全に別になっており、顔も合わせることが無いように区別されていた。
ノアは、初めて入る宮殿のような建物内を馬車の窓から口を開けて眺めていた。
「フランスのベルサイユ宮殿ってこんな感じなのかなぁ」
と、思いながら馬車に揺れること五分ほどで馬車が停まった。
ここで、降ろされるのかとノアが馬車の椅子のから立ち上がろうとすると、塀が連なる大きな門の前に立っていた衛兵らしき騎士が馬車扉を開けて言った。
「受験票を確認させて下さい」
ノアは、すぐに手に持っていた受験票を見せた。
「ありがとうございます」
騎士は、受験票を確認するとノアに返却しながら
「申し訳ございませんがまず所持品検査をさせて頂きます」
「一旦馬車から降りて頂けますか?」
と言ったので、ノアは素直に馬車から降りた。
「刀剣等武器の所持はありませんね?」
と、言ってから騎士は持ち物検査という身体検査を始めた。
ほぼ手ぶらで来たノアは驚いたが、なんだか刑事ドラマやスパイ映画のようだなと思いつつ、両手を横に広げて素直に持ち物検査という身体検査を受けた。
「ありがとうござました。参番館はこの奥になります」
「どうぞご乗車下さい」
一通り検査をされ、問題なしと判断されてノアは再び馬車に乗ると、目の前の大きな門が開いた。
ノアを乗せた馬車が走り出して門を潜ると、中は庭園のように美しかった。
その横をぐるりと回り込むように敷かれた石畳の馬車道を通ってしばらくすると木の繁みがあり、そこを抜けたところに小さな宮殿のような建物があった。
「これが参番館か」
と、ノアが思っていると、参番館の前に立っていた騎士が停車した馬車のドアを開けて
「受験生の方ですね。お待ちしておりました。どうぞ馬車を降りて下さい」
と、言った。
ノアが馬車から降りその建物前に立つと、両脇に立っていた騎士が扉を開けてくれた。
「ご案内いたします」
騎士のひとりが、ノアの前を歩いて建物内へと入って行った。
ノアは、遅れないようにその騎士の後をついて行った。
中には吹き抜けの大きなホールがあり、中央に大理石の大階段があった。
騎士はその階段を登って行きさらに奥へ進んで行った。
ノアは、黙ってその後から着いて行くと、いくつか扉を抜けた所で案内の騎士立ち止まり、その部屋のドアを開いた。
「どうぞ、中へお入り頂き、この部屋でお待ちください」
と、その中へ入るように言われた。
部屋の月辺りには大きな窓があり、その窓を背にするように置かれた椅子と、その前に大きな机が置かれていた。
大きな机の前には、机を挟んでこちら側にもひと椅子が置いてあった。
騎士は、その手前側の椅子に座って待つようにノアに言った。
「はい」
と、言われた通りノアがその椅子に座るのを見届けた騎士は、
「失礼致します」
と、言って一礼をすると静かに扉を閉めて部屋から出て行った。
ノアは、緊張しながら周囲を見渡してみた。
壁は飾模様のついた布張りで、柱は金細工で飾られているが華美ではない。
年月の経過も感じられるが、それが味わいを醸し出していた。
「宮殿の中ってこんななんだなぁ」
と、見回していると、気付けば誰も座っていなかったはずの机の反対側の椅子に人影が現れた。
窓を背にしているので、その人の顔がわからなかった。
しかし、その豊かな髭と長く伸びた白髪から、それが老人であろうことは予想できた。
ノアは、慌てて椅子から立ち上がろうとしたが、光の中のその男の手が、そのままで良いというように手を上下に動かしたので椅子の上に留まった。
そして、その男は低い落ち着いた声で話しかけて来た。
「帝国神聖魔術士養成大学にようこそ」
その声は、決して、年寄りのしゃがれた声ではなく、張りのある落ち着きのある心地よい声だった。
「私は、今日、魔導士クラスの入学テストを担当するこの大学の特別顧問のアレキサンダーじゃ」
「緊張せず、リラックスしてくれたまえ」
ノアは、緊張はしていたが、その穏やかな声に気が休まる気がしていた。
ノアは、自分の自己紹介をした。
「ノア・シラミネと申します。年齢は16歳…のはずです」
「今は、宿屋に住み込みで働いています。本日は宜しくお願い致します。」
と、言って座ったまま座礼をしながら高校受験の時の面接を思い出していた。
アレキサンダー先生は、ノアをじっと見て言った。
「君は年齢不詳なのだね。生まれた場所は言えるかね?」
ノアはいきなり確信を突く質問をされて困ったような顔をした。
その表情を見て取ったアレキサンダー先生は、咎めることなく優しく言った。
「いや、言いたくなければ言わなくても良い」
「この国には、生み捨てられる者もいないわけではない」
「当人が知らぬこともある」
と、複雑な環境で育った者も居ることを考慮するように言った。
この国では、戸籍のようなものは存在するが、完全な集権統一国家ではなく、各領主に領民の管理が任されている。
それゆえに、出生が曖昧な地域が少なからず存在するのである。
「はぁ~」
と、ノアはホッとしたのと、申し訳ない気持ちと両方で思わずため息をついてしまった。
「ははは…まだ緊張はとれぬかね?」
と、アレキサンダー先生は、優しくノアに問いかけた。
「あ、はい、少し」
ノアは、緊張もあったが、本当のことを言えないもどかしさと申し訳ない気持ちで気が重かった。
アレキサンダー先生は、全てを見通しているような気がしてそれがまたプレッシャーとなってノアに襲い掛かっているようだった。
「君は、どうして帝国神聖魔術士養成大学に入りたいと思ったのかね?」
アレキサンダー先生は、ノアの身上調査にあたるように質問を避けて、ノアの気持ちを聞くことにした。
「それは、魔法が使えるようになりたいからです」
「魔法を使えるようになって、どうしたいのかね?」
「初めは、魔法が使えたら便利だなと思ったのですが、良い魔法で人の役に立てたら良いなと思ったのです」
ノアは郊外でレッドリオン公爵のヒーリング術を見て、あんなことも出来るのか!と感動したことを思い出して言った。
パドラルの大黒主神教教会で見たような黒魔術には興味がなかったが、あれが白魔術というものなら自分も身に付けたいと思っていた。
アレキサンダー先生は、Holy Mageの中でもGrate Holy Mageと呼ばれるほどの偉大な先生なので、人の心の中も読むことが出来る。
だが、さすがにノアが異世界から転移して来た者とは気づいておられなかった。
「君、参番館に来たということは、多少魔法が使えるのだね?」
「はい。たったひとつだけ、火をつける魔法が使えます」
「それは、どこで身に付けたのかな?独学で?なのかな」
ノアは、ここで独学でと嘘をついた方が深く突っ込まれずに済むかと思った。
だが、嘘をつくことを躊躇って言った。
「前に住んでいたところに魔法が使える人が居て、その人に教わりました」
「でも、その方の他の魔法は、私に必要無いと思って火の魔法だけ教わりました」
ノアは、年齢や出身地のことも深く詮索されなかったので、ここは正直に話そうと思った。
「その人は、他にどんな魔法が使えたのかな?」
と、アレキサンダー先生が質問した。
「水を凍りに変えたり、水をお湯に変えたり、獲物を凍結させたり、あとは獲物を獲るのに攻撃するような魔法だった気がします」
「それらの魔法も、生活に役立つと思わなかったのかい?」
ノアも今思うと、なぜ点火の魔法しか覚えよとしなかったのか自分で不思議だった。
「はい、その時は思いませんでした」
「でも、先日、骨折した人の足の痛みをとって病院へ行くように勧めていた人を見て、僕もそういうふうに人を助けたいと思いました」
と、帝国内で会ったレッドリオン公爵の怪我の痛みを抑える魔法を思い描いて言った。
「なるほど~」
と、アレキサンダー先生は、その長い髭を撫でながら言った。
そして、立ち上がりノアに向かって手をかざすと、手から不思議な七色の光を放った。
しばらくその光が部屋の中を駆け回るように弾けていたが、その中の一色がノアに引き込まれて消えた。
すると、他の光も消滅し部屋は、窓からの柔らかい日差しだけに照らされていた。
「不思議じゃな」
と、アレキサンダー先生は、つぶやいた。
「お前さんから感じるものは我々の知るそれとは違うのに、近いものを感じる」
「私もそれが何か知りたい」
と、言うアレキサンダー先生の言葉の意味をノアは理解できずにキョトンとしていた。
そんなノアを見ながらアレキサンダー先生は、再びその長い髭を片手で撫でてから窓の方を向いて一言
「合格としよう」
と、言った。
ノアは一瞬、何が起こって何を言われたのかと戸惑っていた。
だがすぐに我に返ると
「えっ?合格ですか?」
と、聞きアレキサンダー先生に返した。
「そうじゃ、合格じゃ。頑張ってくれたまえ」
アレキサンダー先生の姿は窓の光の中に消えており、その声だけが部屋に響いていた。
ノアは、しばらく呆気に取られて動けずにいると、後ろの扉から別の男性が入って来て言った。
「君は、合格だそうなので、一週間以内に入学手続きをしなさい」
「16歳だとぎりぎりの年齢だからね」
「それと、自宅から通うことも出来るが寮に入ることも出来る」
「寮費は無料だし、衣食住は全て帝国負担になるので費用の心配ない」
「どちらにするか次回までに決めてくれ。入寮に関しては、いつでも変更可能だ」
ノアは、すぐに我に返った。
地球から転移して来て以来、不思議な事には慣れている。
それでも、初めてのことにすぐには対応できないが、パニックになることは無くなった。
「いえ、寮に入りたいです!」
「衣食住が保証されるのであれば、今の仕事を辞めて勉強に集中したいので」
と、すっかり気を取り戻したノアが、男に答えて言った。
「そうか。では入学手続きと入寮手続きをすれば、君は晴れて私の生徒だよ」
と、その男は、にこやかにノアに手を差し伸べて言った。
「私は、帝国神聖魔術士養成大学で教えているトゥルリ―・アンソニー・イエローバレーだ」
「White Mageクラスと魔導士クラスの両方を教えている。宜しく!」
ノアは、トゥルリ―先生と握手をしながら言った。
「はい、よろしくお願い致します」
こうして、地球か転移して来た白峰希空は、ノア・シラミネとして帝国神聖魔術士養成大学の魔導士クラスの生徒となったのである。
帝国神聖魔術士養成大学内は、魔導師クラスと他のクラスとは完全に分けられていた。
Holy Mageの存在は帝国のトップシークレットであった。
また、それぞれのクラスには貴族の子息子女が多く在籍している。
それがBlack Mageに知られ狙われる危険もあったので安全確保の為にもクラスは分けられていた。
魔導士クラスは、神聖力を持たない者でも、一定の条件を満たせば入学を許可されるので、Holy Mageの秘密が漏れる可能性がある。
また、黒魔術師やBlack Mageの手先の者がスパイとして送り込まれる可能性もあった。
それでも、帝国が魔導士クラスを開いていたのは、志を持って魔術師になりたいと思う者が居るのなら、身分や貧富の差に関係なく学ぶチャンスを与えたいという考えからだった。
魔導士クラスの者でも、優秀で帝国に尽くせると判断された者は、稀に魔導士クラスからWhite Mageクラスに転入できることもあったが、それは本人に神聖力が少しでも認められた場合のみだった。
アレキサンダー先生は、言葉にこそ出されなかったがノアに神聖力に近いものを感じ取られていたが、それは神聖力とは微妙に違うものであった。
ノアが帝国神聖大で学ぶうちに神聖力に目覚めるものなのか、アレキサンダー先生も見極めたいと考えておられた。
この事に関しては、他の魔導師クラスを担当する先生とヴァイオレット・フィールド校長先生にも情報共有されていた。
◆ ◆ ◆ ◆
用 語 整 理
◆ ◆ ◆ ◆
リゲル・ラナ星は、魔法が生きている星である。
魔法とは、異なる神聖力(Holy Power)が存在する。
【神聖力】
神聖力は、宇宙全ても司る力で宇宙全体に存在する。
【Holy Mage】
神聖力を活用できる者をHoly Mageと呼ぶ。
神聖力は、その者の魂に宿る者で、能力差がある。
【White Mage】
白魔術を使う者を白魔術師と呼び、その力を極めた者をWhite Mageと呼ぶ。
白魔術は、魔法の中でもライトエナジーを活用するものメインである。
特に人を治癒したり、自己治癒力を高めたり、癒したりする力がある。
【Black Mage】
黒魔術を使える黒魔術師と呼び、その力を極めた者をBlack Mageと呼ぶ。
黒魔術は、魔法の中でもダークエナジーを活用するものメインで、攻撃性が高く、呪術と呼ばれる呪いを用いて人を殺めたり、魔物を強化させることが出来る。
【魔導士】
魔法を使える者の総称で、この中に白魔術師も黒魔術師も含まれる。
【Grate Mage】
神聖力を使いこなせるHoly Mageは、それほど数は多くなく、スチュアートリア帝国内にしかいない。
それゆえにHoly Mageの存在は、一般人には知らせておられず、優れた魔法使いという認識でGrate Mageと呼ばれている。
つまり、Grate Mage =Holy Mage として使われている。




