第68話 それぞれの「大義名分」
ノアとトゥルリー先生の活躍により、Black Mageの名前と居場所を突き止めることができた。
それにより、大黒主神教の教祖であるBlack Mageがスチュアートリア帝国内に居ないことは確認できたが、他国に居る者に、こちらからは簡単に手出しが出来ないという難点がある。
アランはトゥルリーから報告を受け、彼と共にアレクサンドル皇帝の元へ向った。
皇帝の執務室では、皇帝専用の執務デスクの前に陛下が座り、その机を挟んで息子のウィリアム皇太子が立っていた。
アランは、近衛騎士が開いた扉から室内に入ると、奥のふたりの元まで進みウィリアムの一歩後ろに立って皇帝に挨拶をした。
「陛下、お忙しいところを失礼致します」
アランが入室するのを見た皇帝は、椅子から立ち上がって言った。
「待っていたぞ、アラン。そなたが帝国の未来に関わる情報を持って来ることは予知していた」
いつも穏やかでにこやかなアレクサンドル皇帝も、今日は厳しい面持ちだった。
「今回は、私も同様の予知をしていたぞ、アラン」
と、皇帝に続いてウィリアム皇太子が言った。
アランとトゥルリーは、この優れた予知能力を持つ親子が同時に予知をするということは、この案件が帝国の未来を左右するものであると事を示していると悟っていた。
四人は、皇帝の執務室中央に置かれたソファーテーブルに移動し、皇帝が先に座って厳しい表情のまま言った。
「私と兄のラファエル大公が『赤い荒野の闘い』、二回の『エド・プロ戦争』で闘った時も背後にはBlack Mageがいた。しかし、いずれもそいつらを捕まえることも出来ず、正体すらわからないままだった。未だに悔やんでも悔やみきれぬ!」
アランとトゥルリーは、皇帝の向かい側にウィリウム皇太子は皇帝の横にそれぞれ座わり、奥歯を噛み締めるよう言う皇帝の顔を見つめていた。
いつもニコニコと穏やかに話す印象の皇帝が感情を滲ませて語る事はそう多くはない。
アランは、そんな叔父に答えて言った。
「はい。それは父ラファエルも同じです。私も何度も聞かされて参りました。だからこそ父は、皇帝の地位から退いてでも、かつて『赤い荒野』と呼ばれたあの地を、死守する覚悟でレッドリオン公国を建国したのだと思います」
アランは父と叔父の強い想いを知っていた。
だからこそ、アラン自身も休む間もなく帝国中を駆け巡り、先陣を切ってこうした事態の対応に当たっているのだった。
そして、続けてアランは言った。
「今回は、黒幕であるBlack Mageの名前と居場所を知ることが出来ましたので、逃がさずに捉えて話を聞きたいと思っています。奴らは、アモー・ロンド大陸から、数百年に一度のタイミングでスチュア・トロア大陸の国の侵略を目論むようですので、今後の対策の為にも聞き出したいところです」
甥であるアランの言葉を頷きながら聞いていた皇帝が言った。
「Black Mageをこのリゲル・ラナ上から一掃することはおそらく不可能だろう。つまり、彼らとの闘いは、我々の使命でもある。但し、帝国民への被害を最小限に抑えねばならない。それも国民の知らぬところで防ぐのが理想だ」
スチュアートリア帝国の皇帝を継げるのはHoly Mageのみであり、Holy Mageの寿命は1000年以上と一般の人間の10倍以上長い。
それゆえに歴代の皇帝は、経験値も高く知識量も多い。
その経験値と知識と知恵に神聖力が加わることで、他の者よりも先見の明に勝っていた。
それは同じく、皇帝の血を引く皇族であるアランも同様だった。
但し、経験値という面では叔父であるアレクサンドル皇帝には叶わない。
「はい、叔父上のおっしゃる通りだと思います。今回の『大黒主神教掃討作戦』も夜明けと共に帝国各地で一斉に開始し、正午前には完了したので、一般国民の殆どが気づかぬうちに終了しました。帝国民の被害は黒魔術に洗脳された信者たちだけで、その者たちも解呪が完了次第普通の生活に戻れると思われます」
皇帝は、アランからの報告を聞き、少し安堵の様子で声のトーンも穏やかな調子に戻って言った。
「『大黒主神教掃討作戦』については、シオン参謀から詳しい報告を受けているが、他の領地でも被害がなかったようで安堵している。それだけ各施設に居た黒魔術師の数が少なく、魔術師としての力もたいした事が無い者ばかりだったということなのだろう」
「それよりもトゥルリー、帝国神聖力大の元生徒との面会はどうだったのだ?」
と、皇帝は次にトゥルリーからの報告を求めた。
「はい、彼もアモー・ロンド大陸から来た者でした。但し、Black Mageと違うのは、奴隷として売られて来たということです」
と、トゥルリーは、皇帝からの問いかけに答えた。
「は?奴隷だと?」
三人のやりとりを黙って聞いてたウィリアム殿下がたまらずに声をあげた。
「はい、アモー・ロンド大陸の国々では、人身売買も横行しており、特に子供や女性がターゲットにされ易いようです」
「なんと野蛮な!」
と、心優しき皇太子殿下はトゥルリーの説明を全部聞く前につぶやいていた。
「彼、ピートもパドラルの農場倉庫を取り仕切る者に売られたようです。苦役に耐えられず逃げ出して、荷物に紛れて船に乗り、セントキャロル港から帝国に入国したとのことでした」
と、言うトゥルリーの報告を受け、皇帝もピートに同情の念を禁じえなかった。
「気の毒なことだ。子供が親元から引き離され、人権を奪われて労働させられるとはな。そんな事が当たり前の国が、このリゲル・ラナにある事が悲しくて仕方ない。しかし、我々の力でこの星の全ての国を支配することは不可能だ。まずは、この帝国を守ることを第一に考えよう」
皇帝もまた、愛情深く優しい心の持ち主であった。
だが、皇帝として帝国を統べる者として情に流されることは無い。
自分たちの限られた力で、何をなすべきか、自分たちの責任範囲での優先順位を見失うことはない。
それが、彼らHoly Mageであり、広大なスチュアートリア帝国を建国以来4000年以上、大きな混乱や争いも無く平和に維持している秘訣なのである。
「陛下、Black Mageはバドネリアスとい名前で、ブロッサン国内の大黒主神教教会に居て、各地の黒魔術師に指示を送っていたそうなのです」
と、トゥルリーが報告すると
「では、帝国内の黒魔術師達からの連絡が一斉に途絶えたとなると、その者も帝国内で何かあったと気づかれてしまうかもしれんな」
と、皇帝は新たなる不安を覚えた。
「はい、そのことが我々の一番の気がかりです」
アランも皇帝と同じく、そのことが今後の対策の要となる所だと考えていた。
「今、隣国へ住まわせている密偵のWhite Mageは、どこに居る?ブロッサン国にも数名派遣してあったな?」
と、皇帝が尋ねると
「はい。今はマニ・トバール以外の各国全てに派遣しております。今もその国の者として生活しながら、随時情報を送って来ております」
と、ウィリアム皇太子が答えた。
「ブロッサン国内にも大黒主神教の組織は広がっているのだろうか?」
皇帝の疑問に対してアランが答えて言った。
「いえ、帝国以外の国には関連施設が、それぞれ一つ乃至は、二つしかないようです。第二回のエド・ブロ戦争以降は、ブロッサン国でも黒魔術を忌みする傾向が生まれ、反対に白魔術やHoly Mageに対しての信仰心を持つ者が増えたようですから、その影響もあるのかもしれません」
すると、トゥルリーが付け加えて言った。
「それに、帝国のように豊かな国でなければ、宗教活動資金を得ることは容易では無いと思われます。また、彼らの目的はこのスチュアートリア帝国を内部から切り崩すことのようでしたので、他の国での人材育成にまでには手が回らなかったようです。この広大な帝国を敵に回す厳しさを痛感したのではないでしょうか?」
「その点に関しても、まずは情報収集から始めないとならんな」
と、アランがつぶやくように言うとウィリアム皇太子も
「そうだな。Black Mageひとりでは、すぐに態勢を立て直して帝国内に何か仕掛けることも不可能だろうからな」
と、言った。
ふたりの会話を聞きながら、アレクサンドル皇帝は以前からのアランに関する予知について考えていた。
彼にまもなく何か大きな出来事が起きる。
それは避け得ないことであり宇宙の意思である。
それを知りながら、何も出来ない自分にいら立つしかなかった。
「陛下?どうか致しましたか?」
と、アランが皇帝の顔色を伺った。
「いや、若者に苦労をかけることしか出来ない皇帝ですまないなと思ってな」
と、言う皇帝に対して、三人は恐縮しつつ
「陛下は、若い頃に何度も身を呈して帝国を救っておられます。今度は我々の番です。陛下は内から帝国をお守りください」
と、笑顔でアランが言うので皇帝も笑顔になり
「そうだな、私もまだまだ若いけれどな。ここは君たちに華を持たせるかな」
と、言っていつものにこやかなアレクサンドル皇帝の表情に戻っていた。
こうして皇帝とアラン達の話し合いは続けられていると、他の仕事を終えたシオンや他の重臣たちも集まり、今後の対策についての会議が続けられた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時は、リゲル歴4045年も年の瀬に向かおうとしていた。
ノアと、ネオにとっては二度目のこの星での年末となる。
パドラルから船でブロッサン国内の大黒主神教教会へ向っていたネオ達も目的地に到着していた。
熱帯のパドラルと違いブロッサン国は寒い。
寒さに慣れてないネオは、厚めの上着を着ながらも震えつつ、なんとかブロッサン国の大黒主神教教会へ辿りついた。
「こんな寒さの中で脱走して、もし吹雪にでも遭ったらすぐに凍死するか飢え死にするな」
と、ネオは心の中で思っていた。
しかし、同行している黒魔術師のガニバランという男は、船の上でも来ていたのと同じフード付きの外套を着ているだけなのに寒そうな様子が見受けられなかった。
ネオは、暖炉にくべられた火に当たりながら、ガニバランに尋ねてみた。
「ガニバランさんは寒さに強いんっすか?」
「いや、そんなことは無い。この外套には魔法がかけられているから暑さ寒さを遮断してくれるのだ」
と、ガニバランが答えた。
「ああ、だからいつもフードを深く被っていたのか!」
と、ネオの疑問のひとつが解けた。
そして、もし俺にもあの外套があればいつでも脱走できるのでは?と思った。
「いいっすねぇ。俺にもその魔法はできますかね?」
と、軽い気持ちで聞いているようなフリをした。
「ああ、お前なら可能かもしない」
と、ガニバランが言ったので、ネオは心の中で「しめた!」と叫んだ。
「パドラルは暑かったのに、こっちはえらく寒いから風邪ひきそうですよ。可能なら、俺にもその魔法教えてもらえますか?」
と、ネオは心の中で「頼む!」と、祈る思いで言った。
すると、ガニバランはあっさりと
「ほらよ!」
と、カバンの中から魔導書を一冊取り出し、それをネオに投げて来て
「この魔導書を読めばわかる。お前マジュ文字も読めるんだろ?」
と、言った。
ネオは、自分がマジュ文字も読めることを隠していたので、バレていたのか?と焦りつつも
「まだ、怪しい部分もあるけど…頑張って読むんで、借ります」
と、言って有難くその魔導書を受け取った。
この世界では本は貴重だった。
まず、文字が読める者が少ない国では、そもそもの需要が無いから売れない。
本もインクも貴重であり、印刷技術もスチュアートリア帝国内くらいにしか普及していなかった。
パドラルやブロッサン国では、本屋などあまりお目にかかったことが無い。
もっともネオは、リゲル・ラナに来てからは、人目を避けるように作られている大黒主神教の関連施設でしか暮らしたことが無かったので、そもそも市場にすらあまり言ったことがなかった。
そんな貴重な本を借りられるとは、またと無いチャンスだった。
実のところ、パドラルの大黒主神教教会にあった魔術に関する本は、全て読破してしまっていたし、ほぼ暗記してしまっていた。
ガニバランから借りたこの本は、今まで見たことも無いものなので、知らないことが書かれているに違いない。
ワクワクしながら、ネオはその本の表紙をめくってくると、
「気に入ったら、その本はお前にやる。俺はほぼ覚えたからな」
と、ガニバランが言った。
魔導書とは、その本を持ってそこに書かれている詠唱を唱えることで、魔術を使える魔道具でもある。
そんな貴重なものをくれるとは…
「えっ?これ魔導書っすよ?ここの中にある魔法を使う時に困るのでは?」
と、ノアが言うとガニバランは笑って言った。
「そこにある魔法程度なら、この杖さえあれば使える」
「そういうもなのか!では有難く頂戴します。大切にします」
と、ネオは大切そうに本を抱えて言った。
この人を見ていると、黒魔術師が悪い人というイメージが失せる。
ディアネ達ジャンバラン村の人たちは、大黒主神教も、黒魔術師は悪だと言っていた。
確かに彼らの村人への仕打ちは許しがたいものが多かった。
だが、このガニバランという黒魔術師と話していると、どうしても悪い人とは思えずネオを迷わせた。
日本の諺に「盗人にも三分の理」というものがある。
これは、こじつければ誰にでも理屈はつけられるという皮肉である。
しかし、他者から見れば屁理屈でも、本人がそこに大義を持ってしまえば、本人とっては屁理屈では無く名分なってしまうのかもしれない。
喧嘩や戦争というものには、どちらの側にも少なからず『大義名分』が存在する。
個人同士の争いに関しての善悪の判定は、比較的つけやすい。
だが、それが集団になり、その総数が大きくなればなるほど、判定が難しくなる。
そして、勝てば官軍、敗ければ賊軍と言われてしまう。
歴史的に白黒ついているものでも、時間の経過と共にその評価が変化することも多い。
正義と悪は、時として見る側により変わるもののようだ。
全ての人の正義と悪が、一致することなどあり得るのだろうか?
情報が多かった地球の日本に居た時にですら、そんなことを考えた事もなかったネオには、情報が少ないこの世界では判定のしようもなく、自分の直感を信じるしかなかった。
ただ、ネオにはひとつだけ確かなことがあった。
それは、この世界に共に転移して来たノアは本当に良いヤツだったということだ。
自分が、新しい環境に舞い上がり判断に迷っている間に、ノアは、しっかりと自分で判断して大黒主神教から逃げ出していた。
地球で、ノアを闇バイトに巻き込んだのはネオだった。
そんな追い込まれた状況でもノアは、決して人を傷つけたり、悪に手を染めるような事めしたりせず、最後まで悪いことから逃げていた。
ネオは、逃げることは決して卑怯なことではないのだと知った。
だから、ネオがこの世界で無条件に信じられる人間はノアだけだと、今更ながらに気づいた。
なんとかしてノアに会いたい。
まずは、大黒主神教から逃げ出し、それからスチュアートリア帝国へ行きたいと思っていた。
そんな、ネオがブロッサンの大黒主神教の教会に到着した頃、帝都では大黒主神教関連施設の一斉討伐作戦が実施された。
それは、スチュアートリア帝国全土で、日の出と共に同時に実施された大黒主神教関連者は全て捕えられた。
また、ほとんどの国民に気づかれぬまま午前中には終了していた為、その状況が大黒主神教の教祖であるBlack Mageバドネリアスの耳に届くことはなかった。
何も知らぬバドネリアス達は、スチュア・トロア大陸に自分たちの国を建国の為の計画を遂行しようとしていた。
ブロッサン国の大黒主神教教会に到着した一行は、到着早々、食堂で用意された食事を夢中ですきっ腹にかけ込んでいた。
そんな一同の姿を横目に、ガニバランはひとり静かに教会の奥の部屋に向かった。
それの部屋は、半地下の灯りも届かないような奥の部屋だったが、その部屋のドアの隙間から漏れる光でそれほど暗くは感じなかった。
ガニバランは、いつも目深にかぶっている外套のフードを脱いで顔を出してから、静かにその部屋の扉を開けて中に入って言った。
その部屋には大きな暖炉があり、その前にある机の上には食事が用意されていた。
そこには男がひとり、机に寄りかかるようにして立ちガニバランを出迎えて言った。
「はるばるご苦労だったガニバラン」
と、言う男もガニバランと似たような外套を着ていたがフードは被っていなかった。
「やはり、こちらは北国だけあって寒くなるのが早いですね」
と、言いながらフードを外したガニバランの顔は、その低く太い声から察するよりも若々しかった。
左の頬に大きな傷があり、それを隠すかのように、肩まで伸びた黒髪が暖炉の火に照らされて黄金色に揺れていた。
ガニバランよりも年配と思えるその男は静かに言った。
「南国からの移動では、寒さも骨身に染みるか?」
「私は、魔術でなんとかなりますが、他の者はかなり応えているようです」
と、ガニバランは、自分よりも他の者を思いやるように言った。
男は、ガニバランを部屋の奥に招き入れて言った。
「この施設の中は、暖炉も完備されている。皆の者をゆっくり休ませてやれ」
「ありがとうございますバドネリアス様」
バドネリアスと呼ばれた男の額と眉間にある深いシワが、男がある程度年齢を刻んでいることを物語っていた。
しかし、Black MageもWhite Mage同様に魔力により肉体を強化し老化を遅らせることが可能なので見た目よりも、さらに年齢を重ねているのかもしれなかった。
「ところで…、」
それまでの会話のトーンから少し声を潜ませるようにガニバランが言った。
「例の計画は進んでおりますか?」
ガニバランの問いにバドネリアスは、少し答えに詰まったように言った。
「やはり、ここに居るとなかなか思うように進まないな。十分に計画を練って実行したつもりだが、思った以上にスチュアートリア帝国は広く、Grate Mageは手強い」
Black Mageと呼ばれる者たちが、スチュア・トロア大陸への進出を試みた歴史がある。
彼らは、この大陸内に自分たち(Black Mageの支配する)国を建国する野望がある。
その足掛かりとして、侵略しやすい国を狙い侵略を試みたが、その度にスチュアートリア帝国に阻まれ来た歴史がある。
そこで、今回は、国家としての形を成していないパドラルやマニ・トバールのような未熟な国を狙っているのであった。
出来ることなら、資源と環境に恵まれているエド・ロア王国を乗っ取れるなられが一番なのだが、その為にもまずはスチュア・トロア大陸に自分たちの国が欲しかった。
しかし、毎回、それを阻止して来るスチュアートリア帝国を分裂させ、スチュアートリアが国内で手一杯になっているうちに、パドラルやマニ・トバールのような未熟な国を本格的に洗脳する計画なのである。
「ブロッサン国は、『魔の森』と呼ばれる地帯があり比較的陸路から帝国に入りやすいのだが、全く情報が入って来ないのが難点なのと、思った以上に大黒主神教が普及しにくい」
と、バドネリアスが言った。
「なぜですか?」
「二回の『エド・ブロ戦争』で、国民が黒魔術に対しての警戒心と恐怖心が植え込まれていて、白魔術師やWhite Mageへの信仰心が根付いてしまっている」
と、バドネリアスは、忌々しそうに言った。
「ブロッサン国の奴らも学習したか」
ガニバランも同じく無念さを滲ませてつぶやくように言った。
「ここへ来てから知ったが、『第二回エド・ブロ戦』の後に、国を惑わした罪とかで、ごっそり黒魔術師の首を切られたらしい」
と、バドネリアスが自分の首元で、手のひらで首を切るしぐさをすると、
「くわばらくわばら…」
と、ガニバランも首をすくめた。
ガニバランのそんな様子を見たバドネリアスが不可解な表情で尋ねた。
「なんの詠唱だ、それは?」
「いや、どっかで聞いた昔ながらの呪いの言葉らしですが、効力は無いです」
と、ガニバランは心の中で少し焦れながら、表向きは無表情を装って言った。
ガニバランが内心恥ずかしがっていると察して、そこにはそれ以上触れずにバドネリアスは話を続けた。
「エド・ロアは、もっとWhite Mage信仰が強い。数代前の国王の娘が今の皇帝と、先代の皇帝の后だ。しかも、White MageがGrate Mageらしいから、手出しは不可能だ。マニ・トバールは、荒地が多く国としては貧しいし、国内も混乱している未開の国だ。手に入れても国として建国するのは難しい。やはり、国土は狭いがパドラルから市中に収めるべきなのかもしれん。その為にも、スチュアートリア帝国に手を出されぬように、帝国内をできるだけ混乱させておきたいところだ」
と、ここで一息つくとバドネリアスは
「そういや、ガニバラン、まだ着いたばかりで腹も減っているだろう。まずは食え」
と、言って椅子を引いて自分が座って見せた。
「いや、だいじょうぶです。久しぶりにバドネリアス様のお顔を拝見して腹も満たされた気分です」
と、言って笑って見せた。
「まぁ、そう遠慮せず一緒に食おう。相変わらずお前は可愛いヤツだな。子供の頃から変わらん。まあ座れ!」
と、バドネリアスがフォークの先を椅子に向けると、椅子がすっーと音も無く引かれた。
「そうですか?」
と、言いながらガニバランは、椅子に座った。
バドネリアスは、ガニバランが着席したのを見届けると言った。
「お前たちの為にも、早く安心して暮らせる国をこの大陸に作りたいものだ」
「そうですね。奴隷として売られる子供が居ない国を作りたいです」
と、ガニバランも答えた。
彼らには、彼らの「大義名分」があった。




