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Beyond of Cosmos =星巡りの物語=リゲル・ラナ編  作者: 詩紡まりん
『淀む光と影』=新たな闘いの始まり= リゲル歴4045年

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トゥルリー先生とマリア先生の本来の任務


 トゥルリーとマリアは、翌日から午前中の授業を終えると、私服のまま帝都内の各地を偵察していた。

 ふたりともアラン同様に見た目は20代に見えるが、実は230歳を超えているHoly Mage騎士である。

 White Mage達を指導する為に帝国軍から帝国神聖力術士養成大学の教師として出向しているが、有事には本来の帝国軍指揮官としての任にも当たる。


「久しぶりに、年末年始以外での軍人としての任務ね」

 と、マリアがトゥルリーに言った。


「ああ、平和な時な時は我々も後輩の育成に尽力していれば良いが、本来の任務に戻る時は有事ということだから喜んでもいられない」


「そういうことね」

 ふたりは、カップルのふりをして各地を偵察していた。


 時には、怪しい男たちを備考し、事前に報告を受けていた『大黒主神教』関連施設と思われる場所にも足を運んでいた。

 アラン達の情報通り、一般の信者と思われる信者が外で水たばこをふかしている場面に多々出くわしいてた。

 その場所に、黒魔術師と思われる者を見かけることもあった。

 どうやら、帝都内の施設には黒魔術師が同居している所が多いらしい。


 そして、ふたりはついにレイマーシャロル地区にも足を延ばした。

 ノアが『大黒主神教』からの逃亡者であり、今も追われていることを知っている宿屋『アフィニティ』の主人ティム・ランダー。

 彼はノアの親代わりとして彼らの情報を集めながら、ノアの身を案じていた。


 トゥルリーとマリアもノアから宿屋の主人のティムがノアの親代わりとして身を案じていることを聞いていたので、ノアの代わりに宿屋『アフィニティ』に立ち寄ることにした。

 宿屋『アフィニティ』は、平日の夜には、居酒屋、ダイニングバーになる。

 その時間帯にふたりは、宿屋の主人ティムを訪ねた。


 トゥルリーとアンナは、カップルを装い宿の受付に向かい

「こんばんは」

 と、声をかけた。


 すると奥から人のよさそうな中年の男が出て来て

「いらっしゃいませ。おふたりでお泊りですか?」

 と、尋ねた。


「いえ、こちらの宿の御主人にお会いしたくて立ち寄らせて頂きました」

 と、トゥルリーが言うと、男は少し身構えながら

「私がこの宿の主人です」

 と、ティムが答えた。


「突然失礼致します。ティム・ランダーさんですか?我々はノア君の大学の教師です」

 と、ティムの警戒心を感じたトゥルリーが安心させようと素性を明かした。


 ノアが帝国神聖力術士養成大学へ通っていることを知っているティムは、ふたりが先生なら魔導士かHoly Mage以上の魔法使いだと思った。


 そして、少し安堵しながら言った。

「ああ、ノアの先生方ですか?」

「お話したいとこがあります。ひとまず客室にご案内しますのでお入り頂けますか?」

 と、周囲を気にしながら小声で言うと、受付カウンターから出て来た。


「わかりました、お願いします」

 と、トゥルリーはそう答え、アンナと共にティムの案内に従った。


 ティムは、受付の横にある階段を上がり、客室のひとつにふたりを案内した。

 そして、ふたりが室内に入ったのを確認すると客室のドアを閉めて言った。

「ノアは、元気ですか?あれから全く連絡が無いので心配していました」


 ティムの心配する言葉を聞いて

「あら、ノアったら連絡もしていなかったのですか?」

 と、マリアが驚いたように言うと

「いや、ノアも我々に迷惑をかけないように気を使っているのでしょう」

 と、ティムは慌ててノアをかばうように言った。


 そして、さらに小声になってティムは言った。

「先生方は、ノアが最近噂の怪しい宗教教会から逃げて来たことを御存じですか?」


「ええ、ノアから聞いています」

 と、マリアが答えた。


 トゥルリーは、ティムがやけに周囲を気にしているのを見て、部屋全体に結界を張って言った。

「我々はいわゆるGrate(グレート) Mage( マギ )と言われている者です。今、この部屋に結界を張ったので普通に話されて大丈夫ですよ。声は漏れません」


 ティムは、「やはり、この方たちはそうかだったか」と、思いながら安心したように言った。

「安心しました。先生の元にいればノアも心配ないですね」

「実は、ノアがここを出る前にも例の宗教関係者が来ていたのです」

「うちは、宿泊の少ない平日の夜は、ダイニングバーとして居酒屋としてダイニングで酒と料理を提供しているのですが、ノアが学校の寮に戻って以降もヤツラは度々ここに飲みに来ては『ノアはいないか?』と聞いて来るのです」

「まだノアは狙われているんでしょうか?」

 と、ノアを我が子のように思っているティムは心配そうにふたりの先生に尋ねた。


「ノアは今、神聖力大のWhite Mageクラスで頑張っています」

「大学に居れば我々が守りますから大丈夫ですよ。安心して下さい」

 と、アンナが優しく言った。


「その大黒主神教の者らしきヤツラは、まだ来るのですか?」

 とトゥルリーが尋ねると

「はい。時々…ここのところ来てないので、今夜あたり来るかもしれません」

 と、ティムは答えた。


 宿屋の主人のその言葉を聞いて、マリアとトゥルリーは顔を見合わせて頷いた。


「ご主人、ダイニングバーの開店時間まで、レイマーシャロル地区を巡回して参ります」

「後でこちらのバーに寄らせて頂いてもよろしいですか?」

 と、トゥルリーが言うとティムは喜んで応じた。


「もちろんです。お席を用意してお待ちております」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 その頃、パドラルから海路でブロッサン国を目指していたネオは、少ない情報を整理して今後の自分の身の振り方を考えていた。

 思えば地球に居た頃は、ここまで多くの事を考えたことはなかった。

 何も持たず、何にも知らず、誰も頼る者も居ないこの世界(リゲル・ラナ)では、自分だけが頼りだ。


 地球で何の目的も無く、生きているのか死んでいるのかもわからない無気力な日々を過ごしていた頃は、べつに明日、命が尽きたとしても構わないと思っていた。

 ただ、漠然と死というものが怖かったから、もし死ぬ時は、苦しまずに逝きたいとだけ思っていた。

 だが、ここ(リゲル・ラナ)では、少しでも判断を間違えれば、確実に生死に関わる状況となる。

 そう実感すると、自然と生への執着心も変わるものだった。


 何も持たない、何も出来ないこんな自分にも、優しく接してくれる者がいたり、困った時に助けてくれたりする者もいる。

 そうした者を大切に思う気持ちが自分にもあるとネオは気づかされた。

 問題は、何も持たぬ、何も知らぬ自分に、知恵や技術、物を与えてくれた人達が「善」なのか、「悪」なのかがわからない事だった。


 パドラルのジャンバラン村の村人にとって『大黒主神教』は、脅威であり悪に近い存在だった。

 彼らが、村人を利用し自分たちの目的利用しようとしているのは明らかだ。

 ネオにとって大切な人であるディアネ、マッキンリー家にとって「悪」である事に違いはなかった。


 だが、自分が地球からリゲル・ラナに転移した初日から衣食住を提供してくれたのは、大黒主神教のジェイコブ神父や息子のハンス、教会の人たちだった。

 何もできぬ自分に多くのことを教えてくれたのも彼らだ。

 だが、彼らのことを知れば知るほど、ネオが彼らに加担することが、自分が地球で教えられた「正義感」や「善意」というものに反していると感じてしまう。

 地球に転移する寸前に、意図せず闇バイトとして老人宅に強盗に入ることとなった。

 ノアとふたりで、それが嫌で逃げた結果、今、ここに居る。

 一緒に地球から転移して来たノアは、とっくに大黒主神教から逃げ出してしまった。

 ここに残った自分に出来ることは…

 大黒主神教の者たちの前では無能なふりを続けて、可能な限り魔術を身に付けるしかない。

 何も持たない、何も出来ない自分ではなく、知識と技術と出来ることを増やす。

 それが、ここで自分が生き抜く術なのだろう。

 そして、いつかノアと合流して大黒主神教からジャンバラン村の人々を開放してあげたい。

 それだけは確かなネオの願いだった。


「船から降りたら、俺はどうするべきなのか?」

 ネオは、青い海の水面を船上から見つめながら、ひたすら考えていた。


「どうしたネオ、今日は本を読まないかのか?」

 と、黒魔術師のガニバランがノアの背後からやって来て言った。


「はい、今日は休暇にしました」

 と、ネオは笑いながらガニバランに言った。

「船の上では、休暇もなにも無いんですけれどね。ちょっと疲れました」


 そんなネオの言葉を聞いてガニバランは言った。

「船の上では出来ることは限られているからな」

「でも、この船が海賊船に襲われる心配がないだけマシなんだぞ?」


「海賊船に?」

 ノアは、なんだか久しぶり海賊という言葉を聞いた気がした。

 そして、この星に海賊船なるものがあるんだなと思った。

「そりゃ陸に盗賊がいるのだから、海にも盗賊がいるのは当然か」と思った。


「スチュアートリア帝国には海軍もあるんだが、やつらは海賊とも提携しているんだ」

「スチュアートリア帝国とエド・ロアの船さえ襲わなければ、取り締まられることは無い」

「だから、その二国以外の船は、自衛しなくてはならないんだ」

 と、ガニバランが静かな低い声で言った。


「えっ?海賊船に襲われる可能性があるんっすか?」

 と、ガニバランの言葉にネオは驚いて言葉につまりながら言った。


「ああ、商船ならな」

「だが、奴らも盗むものが無い船を襲うほど暇ではない」

「この船には獲るべき金目の物は積んで無いからな」

「海賊のほとんどは、俺たちの故郷であるアモー・ロンド大陸の者なんだ」

「ほら、あの旗を見ろ!」

 と、ガニバランは船のマストの先に掲げられてはためく旗を指さした。


 単に真っ白な旗に見えるが、真ん中に黒い星のマークが★★★3つ。

 三角形を描くように描かれていた。


「あのマークは、Black Mageを乗せているマークなんだ」

 その船がどこの国の船かを示す旗と共にこの旗が掲げられている船を海賊は襲わない」

「盗むものが無い合図であり、攻撃すれば沈められる可能性が高いからな」

 と、ガニバランは、マントの下の腰に刺した魔法の棒を見せニヤリと笑いながら言った。

「もし、この船を攻撃する船があれば俺が沈める」


 ネオは、ガニバランが本当に実力のある黒魔術師なのか疑問に思っていたが、これで彼が黒魔術師であることを確信した。


 そして、思い切って聞いてみた。

「ガニバランさんは、Black Mageというものなんですか?」


「Black Mageとは、黒魔術を極めた者の総称であって別にテストを受けて合格すれば成れるというものではない。自称Black Mageという黒魔術師もいる。俺は自分では、まだまだだと思っているがな」


「そういうものなんすね。どれくらいだと周囲の人がBlack Mageと認めるレベルになるんですか?」

 ネオは、この質問は失礼になるのか?と思いつつも聞かずにはいられなかった。


「いや、それはその人の魔力を見せつけられれば一目瞭然だ。これから行くブロッサンの大黒主神教教会にBlack Mageの方がおられる」

 と、いうガニバランの言葉を聞いてネオは、以前ブロッサンの大黒主神教教会に付いて行った時のことを思い出していた。


 そういえば、俺は留守番させられた時に儀式を執り行うと言ってジェイコブ神父と一緒に居た人の中にもうひとりフードを被っていた人がいた。

 それにしても、なぜ魔術師の人は皆フードを深く被っているのだろう?

 横に居るガニバランという黒魔術師も同様だ。

 以前は、全くネオに話しかけて来ることも無く、会話をすることもなかったが、船上での生活を共にしているうちに、こうして会話をするようにまでなった。

 それでもやはり、フードの下の顔はよくわからない。


 そこに、奇妙な鳥のようなものが飛んできてガニバランの立っている船のへりに止まった。

 体は鳥、顔と手足は鬼のような奇妙な生き物だった。

 おそらく魔物というものなのだろう。


 その生き物の足には、獣の皮で作られた手紙のようなものがくくりつけられていた。

 ガニバランはその手紙を取って言った。

「ご苦労、また夜来てくれ」

 と、ガニバランが言うと魔鳥はすっと姿を消した。


 ネオがえっ?と驚いていると

「あれは、使い魔として魔術で創り出された魔鳥だ。異次元空間を使って移動している。一年程度しか使えない消耗品だ」


「消耗品?」

 あれは、命ある生き物ではないのか?とネオは思った。


「異次元空間を行き来する度に魂が削られるから人間には不可能だ」

 と、ガニバランが言うと

「あの、俺はおそらく異次元空間を使ってこの星に来たと思うんですが…」

 と、ネオは他人事に思えず言った。


「そうだな、お前も異次元空間を通って来たのかもしれないが…ちょっと違う気もする」

「あの魔鳥たちが居る異次元空間はこの星を取り巻く並行世界の狭間にある」

「だが、お前は全く別世界から来たようだから、もっと魂にダメージがあったはず。自分では感じるか?」

 と、ガニバランにそう尋ねられても、ネオは魂のダメージというものが良くわからなかった。


 魂にダメージがあるということは命のダメージということだろうか?

 転移して来た当日は、かなり空腹ではあったが、それ以外のダメージを感じるこしはなかった。


「いや、とくには…」

 と、ネオが答えるとガニバランは

「大きな魔法の力に守られていたのかもしれんな」

「では、俺はこれで」

 と、言って魔鳥から受け取った手紙を握り締めて船室へ向かう階段を降りて行った。


「まだまだこの世界には、俺のわからないことが多いな」

「もっと色々知りたいが、この世界にはネットも無いし本も簡単には手に入らない」

「人から聞くしかないが…」

 と、ネオは再び海の水面を眺め考えていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 レイマーシャロル地区は帝都にある多くの地区の中でも港にも近く、欲しい物がなんでも手に入る常設の市が立つマルシェで有名である。

 マルシェには年間を通して帝都内の様々な地区からの買い物客がやって来て常に混雑しているが、週末ともなると帝都外からの観光客で賑わう。

 そんなレイマーシャロル地区で長年旅人をもてなして来た宿『アフィニティ』は、週末は宿泊のみの営業となるが、平日はダイニングを解放しダイニングバーとして営業している。

 今日もリゲル・ラナの長い一日が終わり、レイマーシャロル地区の遥か向こうに連なるグリーンエバリスト山脈を赤く染めながら沈んでいく。


 リゲル・ラナには月がふたつある。

 今宵の月は、ひとつは満月、もうひとつの月はまだ登って来ていない。

 地平線に近くで輝く満月は、大きく赤くきく静かにその姿を現し空へと昇り出した。

 もうひとつの月がその細長い姿を現しだした頃、トゥルリーとマリアは、レイマーシャロル地区の巡視を終えて宿屋アフィニティへ向っていた。


「この街全体は、以前とそう変化は無いように思えるが、郊外へ行くとやはり大黒主神教の悪い噂は絶えないな」

 と、トゥルリーが言うと

「そうね。でも、住民の話を聞いていると、この地区の大黒主神教の拠点はひとつみたいね?」

 とマリアが答えた。


「今から乗り込んでも良いが、まずは宿のバーに宿の主人が言うノアを狙う奴らが来るかを確かめてからだな」

 とトゥルリーが言うとマリアもその言葉に同意して頷いた。


 宿に着くと宿の主人のティム・ランダーは、待っていましたと常連客を迎えるように言った。

「お待ちしておりました、いつもありがとうございます。お席は用意してございますので、こちらへどうぞ」


「ご主人、いつもありがとう」

 と、トゥルリーもティムに合わせて答え案内されるまま入店した。


 ダイニング店内の客はまだまばらだったが、ティムは「予約席」という札が立てられている席にふたりを案内した。

 その席は、ダイニング全体を見渡せる場所であり、入り口から入って来る者を確認するには最適な場所だった。


 すると、ティムが。

「あちらが厨房の入り口になっており、すぐに裏口から通りに出られます」

「もしもの時は、あちらから出て下さい」

 と、トゥルリーに耳打ちするように言った


「ああ、ありがとう」

「では、お勧めの料理を頂いて腹ごしらえをするとしよう。酒も二人分みつくろってくれ」

 と、トゥルリーが主人に言うとマリアが語尾だけ小さな声で

「飲み物は、果実酒の『しゅ』抜きでね」

 と、言った。


「かしこまりました」


 アフィニティのスタッフはみなノアが大好きだったので、ティムからふたりがノアの先生カップルだけ聞かされ、腕によりをかけて料理を作った。

 そんな心の籠った料理を出され、ふたりはノアが、この宿の人達に愛されているかを感じていた。

 そうこうしているうちに店内のテーブルは、酒や食事を楽しみに来た客で埋まっていった。

 トゥルリーとマリアは、聴力強化術を使い客たちの会話を聞くことが出来たが、これと言った情報を得ることは出来なそう立った。


 一通り、食事を終え果実酒という名の果物ジュースを飲んでいると、そこへ見覚えのある顔を含めた三人の男が入って来た。

 トゥルリーとマリアは一瞬顔を見合わせて驚いた。


 あれは、昨年末から新年にかけての休暇の時から帝国神聖力術士養成大学の魔導士クラスから姿を消したピート・ループという生徒ではないか!

 ノアからピートが、大黒主神教と繋がっているらしい事を聞いていたふたりは一瞬どうしたものかと迷った。

 だが、ピートの方は奥の席に座っている男女のカップルが、自分の居た学校の先生だとは気づいていないようだった。


 ティムは、ピートを含む男たちをトゥルリーとマリアから少し離れた席に案内し、ピートがふたりに背を向けて座るように上手くエスコートしてくれた。

 ティムは、彼らの注文を取りながら、目配せをしたのでトゥルリーは笑顔で頷いてからマリアを見た。

 そのしぐさは、傍から見るとマリアに向けた笑顔に見えた。


 それを見たマリアは、

「なかなか演技派だわね。前星ではプレイボーイだったという噂は本当かしら?」

 と笑いながら言った。


「なんだよ、それ、今はそんな話をしている場合じゃないだろ?」


「いえね。あなたとふたりきりで、こういう所に来るなんて100年以上ぶりじゃない?ちょっとカップルムードを演じてみようかと」

 と、マリアは冗談を言いながら精神感応術(テレパシー)でも語り掛けていた。


「あれは、魔導士クラスに居たピート・ループに間違いないわよね?」

「ああ、ノアにしつこく付きまとっていた上にポリアンナ嬢の誘拐を試みたらしいから、大黒主神教の手先に間違いないだろう」

「では、一緒にいる奴らは、大黒主神教の関係者ね」

「ひとりは、黒魔術師だろう」

「ええ、黒い気を感じるわ」


 ふたりは、仲良く会話を楽しんでいるカップルのふりをしていると、ティムが間を持て余さないようにと気をきかせてスイーツと温かい飲み物を持ってきてくれた。


「ありがとう。先にお代を払っておこう」

 と、トゥルリーがお金を渡そうとすると

「いえ、今回はいりません。我々の心づくしです。あの子(ノア)をよろしくお願いします」

 と、ティムが言うのでトゥルリーはその素直に気持ちを受け止めた。


「ご主人の温かいお気持ち、あの子にしっかり伝えますからね」

 と、マリアも笑顔で言った。


 そして、テレパシーでトゥルリーに言った。

「レイマーシャロル地区の大黒主神教の施設と思われる場所は既に判明しているのよね?」

「ああ、White Mage騎士たちが、この地区の大黒主神教関係者と信者をリストアップしてくれている。ただ誰が黒魔術師で、誰が単なる信者なのか、Black Mageが混ざっているのかがわからなかったんだが…」

「あそこの男が黒魔術師なのは間違いないわね」

「ああ」

「今日のところは深追いするのはやめておこう」

 トゥルリーとマリアは、そう相談してからマリアが席を立った。


 そして、厨房の入り口から顔をのぞかせて言った。

「あのお手洗いはどちら?」

 すると、ティムが来て

「ご婦人の場合は、こちらになります」

 と、奥にエスコートしてくれた。


 マリアは、歩きながらティムに言った。

「今日来た三人は間違いなく『大黒主神教』の関係者です」

「ひとりは我々の生徒だった者ですが、魔導士クラスでは劣等生だったので問題ありません」

「ただ、奥のマントを来たままの男は、黒魔術師だと思われるので気をつけて下さい」


「はい。で、今日は、先生方はどうなされますか?」

 と、言うティムの質問に答えてマリアが言った。


「今日のところは一旦引き上げます」

「帝国軍は帝都内の大黒主神教施設を一斉摘発する予定です」

「それも一般な国民にはなるべく気づかれぬように」


 ティムは、続けてマリアに尋ねた。

「そうなんですか、我々に協力できることはありませんか?」


 マリアは静かにティムに言った。

「ありがとうございます」

「国民の皆様には可能な限りいつも通りの生活を送って頂けると我々もやりやすいです」

「実は、我々は、平時には教師をしておりますが、身分は帝国陸軍所属の騎士なのです」

「必ず、帝都の平和を守りますから安心していつも通りお過ごしください」


 こうして、トゥルリーとマリアはレイマーシャロル地区を後にした。




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