「Black Mageに伝わる伝説」と「地球から来たふたり」
帝国神聖力術士養成大学の生徒達が、鋼竜の飼育、訓練、金鱗竜の騎竜訓練、調教訓練に励んでいる頃、アラン達スチュアートリア帝国軍も空軍部隊設立に向けて準備をしていた。
ルデ・トロア宮殿内に帝国陸軍本部に近いグリーンエバリスト山脈の麓に大規模な、竜の飼育訓練所を造った。
また、Holy Mage騎士を中心に辺境伯から借りて来た金鱗竜の騎竜部隊で飛行訓練も実施していた。
もちろん、アラン自ら率先して訓練に参加していた。
Holy Mage達は、神聖力を使って動物や人間の脳に直接アクセスして思考を操ることが可能なので、訓練などしなくても竜を自由に操ることは可能である。
しかし、それは操られる側にダメージが無いとは言えないので、しっかり操縦法を身に付けていた。
アランは、対Black Mage対策として重要な戦力になると考えていた。
オスカー・エンドリケ・ブルーフォレスト近衛騎士団長とシオン・ミッシェル・ヴァイオレット・フィールド参謀長官を従えて、騎竜部隊の訓練飛行を行っていた。
「オスカー、やはり辺境伯領の竜は素晴らしいな」
アランが直接オスカーの意識に話しかけた。
「ありがとうございます」
Holy Mage同士の三人は、お互いの神聖力を使って、精神感応術で直接会話が可能なのである。
「エド・ブロ戦の時も父ラファエル前帝と現アレクサンドル帝が、辺境伯家の竜を借りて突入したらしいからな」
「はい、あれは伝説の奇襲戦で祖父から何度も聞かされています」
「私も父と叔父から、最高に頼もしい戦友だったと聞かされている。辺境伯家の竜がいなければ、第二回エド・プロの奇襲作戦は成功しなかったと」
「それも、祖父の自慢話のひとつです」
ブルーフォレスト家にとっては、両皇帝と共に闘った歴史は誇りであった。
「今度は、我々がスチュアートリア帝国の為に闘う番だな。オスカーよろしく頼む」
「はい、もちろんです」
三人は、帝都上空を飛行して帝国軍空軍基地予定地に戻った。
「どうだ、シオン?竜の乗り心地は?」
と、アランがシオンに聞くとシオンはいつもの冷静な顔で答えた。
「乗り心地は悪くありません。よく訓練されているので操縦も楽で、神聖力を使う必要はありませんでした」
「シオンが褒めるとは、相当良いってことだな」
と、アラン笑いながら言った。
「ありがたいことです」
と、オスカーは恐縮したように言った。
シオンは帝国軍参謀室長なので、基本的には軍師としての仕事に集中しており現場に出ることは無い。
だが、新しく空軍を設立する為には軍内部の調整が必要であり、軍全体の戦力や配備を知り尽くしていなければならない。
今回は、その為のテスト飛行であった。
アランがこっそりとオスカーに耳打ちした。
「シオンは、部下に対して指摘が無いという事は上出来だというくらい滅多に褒めない人間なので覚えておいてくれ」
「えっ?はい、心得ました」
と、オスカーは参謀室から滅多に出ないシオン参謀長をまじまじと見つめた。
「なんです?」
と、シオンがその視線に反応した。
「いえ、その…」
とオスカーが焦りながら答えると
「ブルーフォレスト辺境伯家には、本当にご尽力頂いてます。これからも、よろしく頼みますよ。きっと、今回のBlack Mageとの闘いでは、重要な駒として動いて頂くことになると思いますので」
と、シオンは淡々とした調子でオスカーに言った。
「はい。ブルーフォレスト辺境伯家はいつでも準備が出来ております。なんなりとお申し付け下さい」
と、オスカーも真摯な表情で答えた。
「ポリアンナ嬢も頑張ってくれているようだな」
と、アランがオスカーに言った。
「はい。帝国神聖大の騎竜パイロット候補の訓練や、鋼竜の飼育まで頑張ってくれています」
「そうか。私の発案でポリアンナ嬢には負担をかけてしまっているようで済まない」
と、アランがオスカーに言うと
「いえ、ポリアンナは自分にも帝国の役に立てることがあると喜んでいます」
オスカーは、少し誇らしそうに答えた。
「そうか」
アランは、オスカーの言葉に安心したように言った。
「折を見て、帝国神聖大へ視察に行こうと思うので宜しく伝えてくれ」
アランも若かりし頃は、帝国神聖力術士養成大学で学んでいた。
「はい。アラン様のお越しは、みな喜ぶと思います」
と、いうオスカーの言葉を聞いてアランはシオンに言った。
「ということなので、シオン、手配を頼む」
シオンも同じく帝国神聖力術士養成大学の卒業生である。
「かしこまりました。手配致します」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大黒主神教の神父達とネオは、ジャンバラン村の教会を出発したネオは、線上に居た。
前回の航海では、船酔いに苦しんだネオだったが、魔術書で独学し身に付けた魔法で、船酔いを抑えることが出来ていた。
ネオは、帝国に入国できた時には、大黒主神教一団から逃げ出すつもりでいたので、時間がある限り魔術書を読んで自分に出来そうで役立ちそうな魔法を身に付けておこうと考えていた。
ネオが持っている魔術に関する本は、大黒主神教の施設内にあった本だが、識字率の高いパドラルでは、マジュ文字が読める者はいないので放置されていた。
そんな無用の長物扱いの本をネオが持ち出しても誰にも何も言われなかった。
「おい、ネオ、また本を読んでるのか?」
と、ジェフリーが甲板の隅で本を読んでいたネオに声をかけた。
「ああ、暇だからさ」
と、ネオがジェフリーの言葉を受け流していると、そこへフードを深く被った男がネオを見下ろして言った。
「おまえ、字が読めるのか?」
男の顔はよく見えなかったが、ネオは鋭い視線を感じて、男の顔を見上げて答えた。
「はい。少しだけ。読めない所が多いけど読んでるうちに覚えられるかな?と思って」
と、ネオは嘘を答えた。
「そうか、トロア文字は読めるのか?」
と、フードの男は言った。
「はい、トロア文字は読めます。でも、この本は読めない文字だらけです」
本当は、トロア文字だけでなく、マジュ文字ほほ読めるようになったのだが、直感的に隠そうと思って答えた。
「それは、マジュ文字で書かれているからな。眺めているだけじゃ読めないだろう?」
ネオは、このフードの男は黒魔術師なのだなと思った。
「マジュ文字というのか。あなたは読めるのですか?」
と、ネオは聞いてみた。
すると男は言った。
「ああ、マジュ文字という文字で書かれている。ほとんどの魔術書と魔導書はマジュ文字で書かれている。魔導書は読むだけで使える魔法もあるからな」
だが、読めるとは答えなかった。
ネオは、もう少し探りを入れてみた。
「魔導書を持っているのですか?」
「何冊か持っている」
と、男は答えた。
「使ったことは?」
「ある」
と、男は一言だけ答えた。
ネオは、この男の力が良くわからなかった。
本当に魔導書を持っていて、使いこなせているのか?疑問だった。
「もし、文字を読める者が増えていたら、状況は変わるだろうな」
と、男が言った。
「なんの状況ですか?」
ネオは、この男の考えがわからなかった。
自分を大黒主神教の信者で味方だと思っているはずなのだが、どこか疑われている気もする。
俺が、別の星から転移して来たことを知っているのだろうか?
「俺は、スチュア・トロア大陸とは別の大陸から来た。そこの大陸の国々は常に闘っていて平和というものが無い。だから文字を学ぶ余裕も無いんだ。もし、文字が読めていたらと思う者が多い」
という男の話を聞いてネオは、日本の戦国時代をイメージしていた。
常に、あちらこちらで闘いが起こっていると、勉強どころでは無いのだろうし、本も貴重品になって来るのだろう。
地球に居た頃は、勉強なんてくそくらえ!くらいに思っていたが、ここに来て文字が読め、計算ができる有難さを実感していた。
また、情報や知識を得るための本の貴重さを感じてた。
スマホもパソコンも無いこの世界で、情報を得ることは非常に困難であり、知識や情報を得た者が優位に立てるのは間違いなかった。
「お前は、元から文字が読めたのか?」
と、男はネオに尋ねた。
「元から?」
ネオは、この男は俺が転移者だと知って言ってるように思ったので
「以前居た国は、ほぼ全員文字の読み書きはできてましたから。でも、この国の文字は、ここに来てから学びました」
と、正直に答えてみた。
「そうなのか。それは素晴らしい国だな。そんな国なら平和か?」
と、男はネオに言った。
ネオは、平和と言えば平和だとは思ったが、それが識字率の高さに比例しているようには思えず返答に苦慮した。
「はい。平和は平和ですが、犯罪は少なくはありませんでした」
確かに日本は平和だが、毎日犯罪のニュースは流れて来ていた。
現に自分も騙されて闇バイトという犯罪の片棒を担がされて逃げて来たのだから。
「犯罪はどこにでもある。戦争は国同士の闘いだから国民全てが巻き込まれて死ぬ」
と、いう男の言葉にネオはなぜか悲哀を感じていた。
なんだか、悪い男には思えなかった。
「あなたは、黒魔術師なんですよね?」
「ああ、そうだ」
と、男は臆せずに答えた。
「どうして、パドラルに来たんですか?」
ネオは、思い切って尋ねてみた。
「自分の国を守るためだ」
と、男はきっぱり言った。
この星の歴史や地理を知らないネオには、よく理解できなかった。
別の大陸の国の人がなぜ、スチュアートリア帝国を狙うのかさっぱりわからなかった。
だが、この男にも、きっと守りたい場所と守りたい人が居るのだろうなと思った。
「あの名前を聞いても良いですか?」
と、ネオが言った。
「ガニバランだ」
「僕はネオと言います」
「知っている。別の星から来たというのは本当か?」
「はい」
ああ、このガニバランという黒魔術師は、俺が地球から来たことを知ってるのだ。
「だから、お前を連れて行こうとしているんだな」
と、ガニバランが言う。
「俺は、なぜここに来たのかわかりますか?」
「いや、それは俺にもよくわからん。ただ、伝説があるんだ」
「伝説ですか?」
ガニバランは、Black Mage達の間に伝わる伝説について話し出した。
「昔、Black Mageが、魔王を呼び出そうと試みたことがあったらしい。しかし、その時に現れたのは魔王では無く、異星から来た者が現れたのだと。その者が、異星の未知の知識と道具を用いてBlack Mageの力になったという事だ」
「それで、Black Mageが勝ったんですか?」
ネオは、ガニバランの話を聞いて、全く他人事とは思えずに言った。
「いや、それはわからん。あくまでも伝説だからな。Black Mageといえども500年くらいしか生きられないし、文字が読めないばかりだと正確なことを伝える術がない。その点、スチュアートリア帝国のGrate Mageは1000年以上生きるらしいし、文字の読み書きも普及しているらしい。そこがあの帝国の強みのひとつかもしれない」
「俺たちもBlack Mageの魔法で転移させられたってことですかね?」
と、ネオは一番聞きたいことを聞いた。
「さあな。だが、お前らには活用できそうな知識も道具もなさそうだから、違うんじゃないか?」
ネオは、複雑な気持ちになった反面、ちょっと安心して言った
「ですね」
どうやら、ネオとノアがここに来ることになったの、Black Mageの魔法と関係ありそうだ。
だが、俺たちは伝説の者とは違うということで、あまり相手にされなかったのだろう。
下手に能力があると思われない方が良いのかもしれない。
長い船旅の間に時間はたっぷりある。
ネオは、このまま無能なふりをしながら、できるだけ魔術を身に付けようと思った。
そして、ノアと合流して大黒主神教からジャンバラン村の人々を開放してあげたいと思っていた。
ネオとノアの遠く離れてしまった道が再び交差する日は来るのだろうか?
それぞれが、今、置かれた状況を精一杯生きている。
それが己の魂を磨くことであるとは気づかないまま…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ノアは、スチュアートリア帝国の帝国神聖力術士養成大学内で、午前中はWhite Mageとしての勉強に励み、午後はもっぱら鋼竜たちの飼育と調教に励んでいた。
悠久を生きると言われるほど寿命の長い竜の成長は決して早くは無い。
大きな図体で、自分を母親のように追いかけて来る鋼竜の子供のエディをノアは可愛く思うようになっていた。
元々ノアは、動物が好きだったので見慣れぬ生き物である竜に初めは戸惑っていたが、今は愛らしい生き物だと思っていた。
「ノア君、エディも随分慣れて来たわね」
と、ポリアンナが声をかけて来た。
「ああ、すっかり僕に懐いてくれたみたいで可愛いよ。竜がこんなに可愛い生き物だとは思わなかったよ」
と、ノアが答えた。
「体が大きいから、怖いと思いが先に来るものね。竜に慣れている私でも、きっとおとなの鋼竜を見たら怖いと思うかもしれないわ。私もまだ、おとなの鋼竜は見たことないの」
「ポリアンナもおとなの鋼竜を見たことが無いのか!どこまで大きくなるのだろうね?」
「それは、アラン様が空軍部隊に使うつもりでおられるくらいだから、人を乗せて余裕で飛べるくらい大きくなるのは間違いないわ。もしかしたら、金鱗竜よりも大きくなるかもしれないわね?」
「この子に乗って空を飛ぶなんて、俺にはまだ想像できないなぁ」
と、ふたりで仲良く話していると、また例の食いしん坊竜が邪魔しにやって来た。
「この子もノア君のことが好きなのね~」
と、ポリアンナは食いしん坊竜の首を捕まえて頭を撫でながら言った。
食いしん坊竜の担当の女子生徒が走って来て
「ごめんなさい。この子本当に食い意地張ってて!」
と、言いながら手綱を持って連れ帰ろうとしたが、ガンとして動かない。
ポリアンナは、食いしん坊竜の担当の女の子に言った。
「この子にお名前付けてあげた?」
「えっ?名前ですか?まだです」
女子生徒は、少し驚いたように答えた。
「じゃあ、お名前をつけてあげてちょうだい。そして名前を呼びながら言い聞かせるようにして。あなたは、動物の言葉は聞こえる?」
と、ポリアンナが言ってる間にも食いしん坊は、担当の女生徒の服を掴んでじゃれていた。
「はい、名前ですね。動物の言葉は聞ける方だと思います」
と、女子生徒は竜の口を開いて自分の服を引っ張り出しながら答えた。
「だったら、この子の名前を呼んで言い聞かせたら、この子の声を聞いてあげて。竜も動物だから、言葉は持っているのよ」
「はい、わかりました」
と、女子生徒は餌で釣って食いしん坊竜を誘導して自分たちの持ち場に連れ帰った。
その後姿を見ながらポリアンナは言った
「あの食いしん坊君、お名前は何になるかしらね?」
「食いしん坊だからなぁ」
と、ノアは言いながら心の中で
「気弱なエディをいじめに来るから、あいつはジャイアンだな」
と、つぶやきながらニヤついていた。
そんなノアを見てポリアンナが勘違いして言った。
「ノア君、あんな感じの女の子がタイプなの?」
と、ちょっと不機嫌そうに言うポリアンナを見てノアは慌てて否定した。
「違うよ。あの食いしん坊の名前を考えていたら変な名前しか浮かばなくてさ」
そんなノアの言い訳を聞いてもポリアンナの不機嫌そうな顔は変わらない。
すると、エディが何を思ったのかポリアンナの顔を舐めた。
「きゃっ」
竜に慣れているポリアンナだが、竜の大きくネトネトざらざらした下に舐められてはたまらない。
「いや~ん。顔洗って来る~ぅ」
と、言って手洗い場の方へ走って行った。
ノアは、エディの頭を撫でながら
「お前は、平和主義なんだな。ポリアンナのご機嫌を直したかったんだろ?」
と、言った。
エディは、「そうだ」いうに首を何度も縦に振っていた。
「でも、女の子の顔を舐めちゃだめだぞ?」
たいていのノアの言葉を理解できるようになっていたエディだが、なぜ女の子の顔は舐めてはいけないのかわからなそうに首を傾げた。
「はは…、お前は可愛いな。内緒だけど、あの子は僕の大切な人なんだ」
と、ノアがこっそりエディに伝えた。
エディは、「その言葉は理解できた」というように、首を縦に一度振った。




