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Beyond of cosmos = 星巡りの物語 = リゲル・ラナ編  作者: 詩紡まりん
地球編 2023年~リゲル歴4044年「ふたつの星の狭間」

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「ノア」と「ネオ」の分かれ道


 ネオが、ジェイコブ神父達とブロッサンに向けて旅立った後、ノアも『大黒主神教』の教会から逃げ出し、海路でスチュアートリア帝国を目指していた。

 初めて乗る帆船にノアもまた船酔いと闘いながら頑張っていた。

 デイブスのおかげで、船員のひとりとして乗船させて貰ったので、船員として働かなければならなかったが、初めの数日は全く使い物にならなかった。

 最初の数日は、波が凪の時でも船酔いが止まらなかったが、そのうち体が慣れて来たのか、あまり酔わなくなっていた。

 それでも、波のうねりが酷く船が木の葉のように揺れる時は、胃が口から出てしまうかと思うほどの吐き気を感じて動けなくなっていた。


 すると見かねたデイブスが、

「船酔いは体を慣らすのが一番なんだがな。これを噛んでおけ」

 と、乾燥させた木の葉のようなものを渡して来た。


 ノアは吐き気を堪えながら言った。

「なんですか?これは」

 料理に使うローリエのようだなと思った。

「吐き気止めの薬だ。半日くらいは効く。奥歯で噛み締めていろ」

 と、言った。


 この世界では精製された薬は存在しなかった。

 もっぱら、地球でいう漢方薬のように、自然界にあるものを乾燥させ、それを混ぜたり、煎じたりしたものが主流だった。

 また、それらに魔力を注力したものもあったが一般的ではなかった。

 ノアは、リゲル・ラナに来てから風邪ひとつひいたことも無く、この世界での薬を口にするのは初めてだったので、ためらう気持ちはあったが、今はとにかくこの苦しみから逃れたかった。


 デイブスから渡されたかローリエの葉のようなものを口に入れて奥歯で噛み締めてみた。

 苦みがあるのかと思ったが全く味も匂いもしない。

 だが、呼吸がすーっとするような気分がして来て、だんだんと吐き気が収まって来た。

「デイブスさん、凄いです! なんか楽になって来ました」

「そうか、それは良かった」

「こんな葉で治るなんて。これがあれば船酔いする人もいなくなりますね」

「そうだな。でも、この薬はそんなに簡単に手に入らないし、作れないからなぁ」

「え、そんな貴重なものを、すみません」

「いや、高価だとかそういう意味じゃないから、手に入りにくいってだけだ」

 そういう言ってデイブスは甲板から去って行った。

 ノアは、奥歯で噛み締めていた木の葉を口から出して見てみようとしたが、すぐに船酔いが戻って来たので、慌てて口の中に戻して噛みしめた。


 船での生活も2週間目に入り、すっかり船に慣れて来た頃、ノアはデイブスに聞いてみた。

「スチュアートリア帝国の首都のトロアに近い港はトロアジュなんですよね?」

「そうだ。この船は、そこで荷を降ろす。お前もそこで荷降ろしの手伝いをして、そのまま帝都へ向え」

「デイブスさんは、そこで降りないんですか?」

「俺は荷降ろしを手伝ってから、また船に乗って別のところへ行く」

「どこか行く所があるんですか?」

「ああ。でも、このままこの船の船員になっても良いかとも思ってる」

「そうですか」

「お前も船員になるか?」

「いや、俺はスチュアートリア帝国ってとこを見てみたいなと思ってます。せっかく来たので、色々見てみたいなと思って」

 ノアは、○○○帝国という世界史でしか耳にしたことの無い国を実際に見られるチャンスだと思い興味を持っていた。

「そうか、それがいい」

 デイブスはなんとも言えない顔で海を見つめていた。

 ノアは、その横顔を見ながら、この人は、スチュアートリア帝国に何か嫌な思い出でもあるのかな?と思った。

 パドラルとスチュアートリア帝国は、どんな関係なのかは知らないが隣国だとそれなりに歴史的いざこざはあるのかもしれない。

 日本は、島国なのに海を挟んだ中国や韓国とは、戦後80年も経つのに未だにごちゃごちゃ言い合っているくらいだから、陸続きの隣国なら、なにかしらあるだろう。

 何も無かったら、陸路からの入国もそれなりにできるはずだろうと思っていた。


「明日にはトロアジュの港に着く。そこでお別れだ」

 と、デイブスが言った。

「デイブスさん、本当にお世話になりました」

 ノアは心から感謝した。


「お前は、いいやつだな。もうひとりのヤツとは違う」

「ネオ君のことですか?」

「そう、ネオとか言ったか。あいつは、根っから血を好むヤツだな」

「そうですか?ネオ君も優しいところありますよ」

「俺はやつとは親しくないから、その点はわからんがな。一緒に狩りに出た時に生き物の命を奪うことに躊躇(ためら)いが無いなと思ったのさ。その点、お前はそういうのは苦手だろ?」

「あー、そういうのは苦手です」


 ノアは、ネオの名前が出て、久しぶりにネオの事を思い出していた。

 今頃どうしているだろうか?

 やはり、自分のように船酔いで苦しんでいるのだろうか?

 ネオは狩りやサバイバルな生活を楽しんでいたし、魔法も積極的に習おうと頑張っていた。

 きっと、上手くやっているだろうと思った。

 でも、『大黒主神教』という組織は怪しいところなので、そこに気づいた時に逃げ出してくれれば良いとも思っていた。


 翌日、ノアを乗せた船はスチュアートリア帝国のトロアジュという港に到着した。

 ノアは、船員達と共に船の荷を降ろす作業を手伝った。

 船から荷を降ろした後は、それを倉庫に運んだ。

 そうして、軽くなった船に今度はトロアジュからの荷を運び入れる作業を行い、ノアの船員としての仕事が終わった。


「これで、仕事は終わりだ」

 と、デイブスが言った。

「おつかれさまでした」

 と、汗をふきながらノアが言うと、ジャラジャラと音のする袋をノアに渡しながらデイブスが言った。

「これは、お前の給金だ」

「えっ?船に乗せて貰っただけでも充分なのに、給料まで貰えるんですか?」

「これから、頼るあてもない帝都に、文無しで行ってどうするんだ?」

「そうでした。でも、どこかで働かして貰おうかと思っていました」

「お前こそ、アテがあるのか?」

「アテなんか無いです。でも、今までも何とか生きて来れたから、なんとかなる気がしちゃって」

 と、ノアは頭を掻きながら下を出しておどけて見せた。

「ははは・・・お前も(たくま)しくなったんだな。まぁ、とりあえず持ってけ」

「ありがとうございます!デイブスさん。何からなにまでお世話になりました」

「いいってことよ」

 と、言ってからデイブスは小声になり

「帝都にも『大黒主神教』は入り込んでいる。お前なら見ればわかるだろう」

「えっ?でも、ここの『大黒主神教』の人は、俺のことは知らないですよね?」

「おそらくはな。利用するもよし、避けるもよし、そこはお前次第だ」


 デイブスは、パドラルの『大黒主神教』の信者だったのに逃げて来た人だ。

 だから、スチュアートリア帝国に入れないのかもしれないな…と、ノアは思った。


 デイブスから貰った給金をポケットにねじ込み、ノアは港を後にした。


 パドラルからスチュアートリア帝国へ入る陸路の国境の検問は厳しいと聞いていたが、港では検問らしきものは見当たらなかった。

 時折、帝国騎士と思われる者の姿を見かけたので、声を掛けられないように避けながら港とは反対の方に向かった。

 リゲル・ラナ星の直径は地球の約2倍あるので、1日の長さも地球の2倍ある。

 朝から船の荷降ろし荷揚を手伝って地球のまる1日分かかったが、まだ昼を過ぎたところだった。


 ノアは、空腹を覚えて何か食べ物を得ようと思った。

「すみません。何か食べるものを売っている場所か食堂を知りませんか?」

 と、港の荷夫(にお)のような男に声をかけて聞いてみた。

「お前、どこから来た?」

「あ、船でさっき着いて…荷降ろしを終えたところです」


 ノアは、怪しまれてはマズと思って、船員のふりをした。

「そうけ。港の近くはないぞ?マルシェまでいくしかないな。そこまで行くと船が出るまでに戻れないかもだ」

「そうですか。ちなみにマルシェにはどうやって行けば?」

「馬車を拾うと早い。あそこに辻馬車乗り場があるから、そこで聞け」

「ありがとうございます」

 ノアは、とにかく港から離れた方が安全だと思い、辻馬車乗り場に急いだ。


 辻馬車乗り場は、すぐに見つかった。

 まるで駅前のタクシー乗り場のように馬車が何台も停まって客待ちをしていたからだ。

 ノアは、その先頭の馬車に近寄って、御者らしき男に声をかけた。

「すみません。マルシェに行って欲しいんですけれど」

「マルシェって、どこの地区のマルシェだ?」

「ここから一番近いところのマルシェまでお願いします」

「レイマーシャロル地区のマルシェで良いかな?」

 と、御者が言った。

 ノアは、全く地理がわかっていないが、そこで良いと思ったが持ち合わせ以上の値段を言われて捕まるのは怖いので

「そこまで、いくらかかりますか?」

 と、馬車代を訪ねた。

「10リゲーニだ」

 ノアは、パドラルの市場で野菜や工芸品を売っていたのでこの星での金銭感覚は身に付けていたので、妥当な値段なので安心した。

「それでお願いします」

 ノアは、馬車に揺られて無事にスチュアートリア帝国に入国したのだった。


 リゲル歴4044年。

 アラン達が『魔の森』へ向かう半年以上前のことだった。

 ちなみに、リゲル・ラナ星は、地球とは異なり直径も二倍あり、自転48時間は、公転周期400日と長く、一年は14ヶ月である。


 一方、ネオはブロッサン国の『大黒主神教』の教会に戻って来ていた。

 ジェイコブ神父によると、ここがブロッサン国唯一の『大黒主神教』の教会だそうで、ここからブロッサン国内に拠点を増やしたいとのことだった。

 以前、このブロッサン国内に『大黒主神教』とは別のBlack Mageが教祖の宗教が広まっていたそうだが、「第二回エド・プロ戦争」という戦争の時に全て潰されてしまったとのこと。

 その時の一部の信者がスチュアートリア帝国へ逃げて、『大黒主神教』を立ち上げ、スチュアートリア帝国の各地に拠点を作っているらしい。

 今は、別の大陸から来たBlack Mageが教祖となっているとか。

 もしかしたら、ジェイコブ神父と一緒に行動している人が、その教祖のBlack Mageなのかもしれないなとネオは思った。

 その人に気に入って貰えたら、俺ももっと黒魔術を教えて貰って幹部になれるかもしれないと思っていた。


 ブロッサン国は大陸の北部にある国なので、寒くなる前にパドラルへ戻ることになり、再び船の旅となった。

 来るときは船酔いが酷かったネオも、長い船旅ですっかり慣れたようで、帰りの船では酔うことも無く快適に過せた。


 嵐でもない限り船上での仕事は、陸上でのそれよりも楽だった。

 空いている時間で、魔導書を読むために他の信者から文字を教わっていた。

 なぜか、地球での言葉と、この星の言葉は全く違うのに言葉が理解できた。ところが、文字に関してはそうはいかない。

 パドラルの人は一般の人でも読み書きはできない人の方が多い。

 また、お金に関しても大金を扱わない限り、計算も小学生低学年レベルが普通だった。

 それゆえ文字の読み書きと、計算ができるだけでかなり有利だった。

 地球に居た頃は、教科書はもちろん、本など読んだことなどほとんど無かったが、リゲル・ラナに来てからは、積極的に読むようになった。

 こちらの世界では、生きるためにする事が多く、娯楽を楽しむ時間など無いのが普通だ。

 ゲームやスマホはもちろん、テレビもラジオも無い世界で、娯楽などほとんど無いのに、それが全く気にならない。

 むしろ、ネオにとって別世界の生活は刺激的な事が多く、毎日、飽きることが無かった。


 そんな刺激的な生活でも、時々は地球のことやノアの事を思い出すこともある。

 ただ、それは子供の頃の想い出のように遠い昔の記憶であり、今は、前に進むことしか考えていなかった。


 実は、ネオも心の底では『大黒主神教』が、なんだか怪しい宗教だという事を察していた。

 でも、彼にとって異世界で生きていく仲間は、彼らしかいなかったし、何よりも彼らに教わることはネオにとって刺激的で興味深いものばかりだった。

 地球では、何をやっても続かず、つまらない事ばかりで生きている実感も無かったが、ここでは何もかも刺激的だった。

 何よりも、ひとつずつ何かを身に付け習得する喜びがあった。


 もうひとつ、彼が気に入っていることがあった。

 それは、彼らは何も押し付けて来ないこと。


 いつも、ネオからやりたいと言ってやらせて貰うことばかりだった。

 水たばこも、皆が吸っているので興味を持って見ていたら、勧めて貰えた。

 地球に居た頃は、年齢的にたばこを吸うのは違法になるが、ここでは全く咎められることも無い。

 酒に関しても船の上では水は貴重なので、水の代わりに酒を飲んでいたので、ネオも普通に飲ませて貰えた。

 ここでは、年齢に関係なく一人前に扱って貰えている気がして気分が良かった。


 ある天気の良い日に甲板で魔導書を呼んでいたネオにジェイコブ神父が声をかけて来た。

「お前は、勉強熱心だな」

「あ、神父様。勉強は嫌いなんっすけど、魔法を身に付けたくて」

「そうか、お前には素質は無いと思っていたが、その姿勢なら黒魔術を習得できるかもだな。実は魔術は、宇宙にあるダークエナジーとライトエナジーを使う術なんだが、物の(ことわり)を理解していないと使えない術もある。その点、お前は文字も覚えてようとしているようだし、才はなくても素質はあるぞ」

「ほんとっすか!!」

「ああ、今度ガニバラン様に紹介してやろう」

「ガニバラン様って、Black Mageの方っすか?」

「いや、Black Mageではないが、偉大な黒魔術師の方だ」

「神父様より魔法が使える方なんですね」

「もちろんだ」

「やった!」

「黒魔術は、宇宙(せかい)に存在するダークエナジーを使うのだが、そのために覚えることが多い。そもそもこの国には文字の読み書きすらできない者の方が多いからな。その点、お前は読み書きやある程度の理論は理解できるから、見込みはある。うちのハンスは、文字を覚えるのすら出来ないから、困ったもんだ」


 地球の現代日本では義務教育と称して、読み書きや計算は教わる。神父の話を聞いたネオは、

「案外小学生レベルの理科でも役立つことがあるもんだな」

 と、思った。


 それから、ネオは神父から魔導書を読むための文字と、魔法陣を書くための文字を教わった。

 この世界にもいくつも言語は存在しているようだったが、基本的にスチュア・トロア大陸では、スチュアートリア帝国のトロア語が共通語だとのことだった。

 文字は、トロア文字とは別に魔導書に使われるマジュ文字がある。

 トロア文字は、アルファベットを置き換えると、英語に近い感じがした。

 ネオにとっては、中学校で習った英語より難しいはずなのに、読みたい、書けるようになりたい気持ちが強いせいか、英語よりはるかに容易に覚えられた。

 また、マジュ文字はトロア文字よりも遥かに難解だったので、こちらには苦戦しそうだった。

 それでもネオは、船員としての仕事以外、他にすることが無いので、空き時間全てを使ってこの世界(リゲル・ラナ)での読み書きを必死で学んだ。

 航海の期間、魔導書を読みながら簡単な魔法の詠唱を暗記し、魔術の発動の仕方を繰り返し練習した。


 ネオ達を乗せた船がパドラルに到着し、ジャンバラン村の『大黒主神教』の教会に一行が数ヶ月ぶりに戻った。

 数か月ぶりに戻った教会は、出発前の様子となんら変わりが無かったが、ノアの姿がなかった。

 留守番の信者によると、「信者でも無いのにいつまでもお世話になるのも申し訳ない。神父様や他の皆様に大変お世話になりしたと伝えて欲しい」と言って出て行ったとのことだった。


 それを聞いたネオは、「やっぱりな」と言う気持ちと、少し裏切られたような気持ちになっていた。

 地球から一緒にここへ来た、たったひとりの仲間が、自分の居ない間に去って悲しかったし捨てられたような気分でもあった。

 リゲル・ラナに転移する前は、顔も知らない者同士だったし、地球でたった一日、正しくは数時間を共にしただけの相手。

 それでも、こちらに来てからは、右も左も分からない状況で互いに助け合い支え合って来た仲間だと思っていた。

 そんなネオの心の底に裏切られたという気持ちと、それを恨む気持ちが芽生えていた。


 ノアの方は、ネオを裏切ったつもりはさらさら無く、むしろ、ネオは自分を置いて別の道を行ってしまったと思っていた。

 ネオとノアの歯車は少しずつ噛み違いを起こしながら回り出していた。



 ネオとノアのそれぞれの航路地図

挿絵(By みてみん)

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