「ネオの決断」と「金鱗竜部隊」
ネオは、ひとりで悩み迷っていたが、ついに数日後決意してディアネにうち明けることにした。
「ディアネ話がある。ちょっといい?」
ネオは、市の屋台店舗の閉店後にディアネに声をかけた。
「うん」
ディアネは、いつになく怖い顔をしたネオの様子に少し戸惑いながら後ろから付いて行った。
川沿いの土手に立ってネオが言った。
「今度また神父が布教活動に行くから、俺にも付いて来いと言ったんだ」
「えっ?」
ディアネは、先日話したこともあったので驚いて尋ねた。
「ネオ君も一緒に行くの?」
「俺も迷ったんだ。神父達が居ない間にノアのように逃げるか、付いて行くか…」
「どうやら、ノアは帝国内に居るらしく、『大黒主神教』はノアの居場所も把握しているみたいなんだ。そして、今回は布教と言いつつ、帝国内に密入国しようとしているんだと思う」
ディアネは、ただ黙ってネオの真剣な横顔を見上げながらネオの話に耳を傾けていた。
「俺は、どうせ逃げるなら帝国内に入ってからにして、ノアを捜そうと思うんだ」
「そしてノアと合流する」
「ノアも、俺と同じくこのジャンバラン村の人たちへの恩は忘れていないと思う。あいつは、俺より数倍優しいやつだからな」
「そして、ふたりで、この村を『大黒主神教』の脅威から解放したいと思うんだ」
そう言ってネオは、ディアネの方を向いて言った。
「だからディアネ、待ってくれないか?必ず、ノアと戻って来るから」
と、ネオはディアネの両肩に手を置いて言った。
「時間はかかるかもしれないけれど、必ず戻って来る」
ディアナはノアの真面目な顔を見て頷いて言った。
「ネオ君、無理はしないでね」
「無理か無理では無いのか俺にはわからないが、俺に出来ることをするよ」
「今までの俺の人生は、逃げの人生、やけくその人生だった」
「でも、今は明確な目標が出来て、生きてるって感じがするんだ」
ディアネが心配してくれる気持ちもわかる。
だが、今のネオには無理をしなければ何も出来ないように思えた。
「まだ、いつ出発するかハッキリしていないんだが、行く時は突然だと思う」
「だから、その時はマッキンリーのお父さん、お母さんにディアネから話して欲しいんだ」
ネオの決意の籠った言葉にディアネには返す言葉も無く
「わかったわ。必ず元気に戻って来てね」
と、言うのが精一杯だった。
ネオも、ディアネもお互いの身の安全を願っていたが、非力な自分に出来ることも無く、ただ悔しい気持ちを噛み締めながら相手の安全と幸せを祈るしかなかった。
「ねぇディアネ?」
「ノアは、本当に優しいやつだったと思うから、市場のみんながノアに優しくしてくれたのは当然だと思う」
「でも、俺のような自己中の自分勝手なヤツにまで、なぜみんな親切にしてくれたんだろう?」
ネオは、当分市場のみんなに会えなくなるかもと思って言った。
「皆、ノア君のまっすぐな優しさも、ネオ君の不器用な優しさも、どちら好きなんだと思うわ」
「ネオ君はネオ君の良さがあるから誰かと自分を比較したりしないで」
と、言うディアネの言葉に少し照れながらネオは言った。
「俺の良さなんてあるのかな?自分にはわからないや」
「そうね、ネオ君は不器用で、ちょっと素直じゃないからね」
と、ディアナは笑いながら、自分が首にかけていたペンダントを外してネオに渡しながら言った。
「ネオ君、これを私だと思って持っていて!」
「自分の良さがわからくなったらこれを見て思い出して欲しいの。あなたの良さを知っている人が沢山いることをね?」
ディアネから渡されたペンダントを見つめながらネオが言った。
「え?貰ってしまって良いの?じゃあ、俺のも君に預けるよ」
そう言って皮紐の先に獣の骨を細工したペンダントヘッドがついたネックレスを自分の首から外した。
「これは、俺が初めて捕まえた獲物の骨で作ったものなんだ。ちょっとだけ魔術をかけてあるからディアナを守ってくれるかもしれない」
と、言いながらディアナの首にかけた。
「ネオ君魔法が使えるの?」
「うん、少しだけね。でも黒魔術がほとんど。でも、この魔法は魔術書を読んで覚えたもので白魔術らしいんだ。これを身に付けている者を怪我や病気から守ってくれる魔法らしい。上手く出来ているかはわからないけどね」
と、ネオは照れ笑いしながら言った。
「ありがとう。ネオ君が帰ってくるまで大切にするわ」
と、ディアネが言った。
以前はネオも攻撃的な黒魔術に憧れていたし、身に付けようとして努力していた。
しかし、『大黒主神教』の黒魔術師達がやっている事を見聞きし、Black Mage達の野望を知るほどに、黒魔術を忌み嫌う自分に気づいてしまっていた。
ネオは、独学でトロア文字とマジュ文字を習得し魔導書や魔術書が読めるようになっていた。
ジャンバラン村の『大黒主神教』の者たちはトロア文字でも怪しい者も多く、マジュ文字が読める者はいなかったので、ネオが魔導書や魔術書を読んでいても特に怪しむことはなかった。
そこでネオは、魔術書の中に書かれていた白魔術をこっそり試してみていた。
そのひとつがこの魔法だった。
ネオは、この白魔術のかかったペンダントがディアネを守ってくれるようにと心から願っていた。
それから10日後、ネオ達を乗せた船がこっそりとパドラルからブロッサン国へ向けて出港して行った。
そんなネオのこと等知らないノアは、帝国神聖力術士養成大学のWhite Mageクラスで勉強に励んでいた。
午前中は、White Mageクラスの授業を受け、午後は図書館で自学をしたり、クリストファー達Holy Mageの先輩たちに指南を受けて魔術や騎馬剣術の練習をしたりしていた。
「ノア、ずいぶん剣術の方も上達したな」
と、クリスが声をかけて来た。
ノアは、肩で息をしながら嬉しそうに答えた。
「はい、クリス先輩!先輩方のおかげで、だいぶ形になって来た気がします」
と、ノアはそう言いながら水筒の水を飲み干した。
「先日、Holy Mageクラスでトゥルリー先生が言っていたんだが、大学で金鱗竜を数匹連れて来て竜部隊のパイロット訓練を行うらしいぞ」
とクリスが言った。
「竜部隊ですか?」
地球から転移して来たノアにとっては、この星独特の動物を見ることに慣れて来てはいたが、やはり本物の竜には驚かされる。
ポリアンナの使徒の竜は、普段はミニチュアサイズになっているので可愛いもんだが、本来の大きさ恐竜そのものである。
「いずれは、軍の空軍部隊を作るそうなのだが、まずこの大学で竜を乗りこなせるパイロットを養成するそうだ。また、レッドリオン公爵の発案でレッドリオン公国に生息している鋼竜を卵から孵化して育てて調教する計画もあるのだそうだ」
「へぇ~、あのレッドリオン公爵のですか!」
ノアは、アランと面会して以来、すっかりアランのファンになっていた。
「その前にまずは、我々、帝国神聖力大の生徒が竜に慣れるようにと、竜のパイロット志願者は、ポリアンナ嬢が指導してくれるらしい」
と、クリストファーが言うとノアは驚いたように言った。
「え?彼女がですか?」
「ああ、ポリアンナ嬢は辺境伯家の令嬢だからね。子供の頃から竜と育っているし、使徒も竜だ。訓練の時は、ポリアンナ嬢の兄上のオスカー卿も来られる」
「彼女の兄上ですか!」
ポリアンナに兄がいるのをノアは初めて知った。
「オスカー卿は、我々の先輩でもあって、帝国神聖大を卒業後あっという間に近衛隊長に昇進されたエリートなんだ」
どうやら、オスカー卿はクリス先輩の憧れの先輩のようだなとノアは思った。
それにしても、ポリアンナのことを名前で呼べないのはいよいよマズイな?と内心思っていた。
「ポ、ポリアンナ嬢が竜の乗り方を教えてくれるのですか?」
と頑張って名前を呼んでみた。
「ああ、そのようだ。楽しみだな?ノアもパイロットに志願するだろ?」
と、クリスが言った。
クリスは、使徒のマエルは猫なので竜を乗りこなしマエルと共に空を飛行することを夢見ていたので、竜パイロットに立候補しようと思っていた。
「えっ?僕ですか?」
ノアは、竜に乗るなんて思ってもいなかったのですぐには答えられなかった。
「竜を見たことが無いので…見てから決めます」
と、答えた。
実は、ポリアンナの使徒のクロエが手紙を届けてくれたので、見たことが無いのは嘘になるのだが、使徒は使徒であって、本来の竜とは違うので、嘘ではないだろうとノアは思った。
そして、いよいよ帝国神聖力術士養成大学に辺境伯領から金鱗竜部隊がやって来た。
やはり本物の竜はでかい!!
Holy Mageクラス生徒も、White Mageクラスの者もその大きさに驚いてた。
金鱗竜部隊のリーダーは、オスカーの使徒のクレイブ。
クレイブは、日頃はオスカーの使徒として常にオスカーと帯同し日頃はポケットサイズになっていたが、今回は本来の大きさになって金鱗竜部隊を率いていた。
本来の姿になると、他の金鱗竜よりも一回り大きかった。
ちなみに、ポリアンナとオスカーの祖父のブルーフォレスト先生の使徒クロヴィスは今も現役であるが今回は参加していない。
(クロヴィスはシオン参謀の帝都内の黒魔術師掃討作戦に参加し密偵として
派遣されていたからである)
ポリアンナの使徒のクロエは、まだ若い牝なので、サイズ的には一回り小さい。
使徒である、クレイブ、クロエを加え、辺境伯領から来た六頭を合わせ8頭の竜が揃うとなかなか圧巻であった。
ノアは、はっきり言ってビビッていた。
リリアーナとアイラも、ポリアンナのクロエで見慣れてはいたが、本来の大きさになった竜の団体を見て驚くと共に恐怖を感じていた。
しかし、そこは辺境伯家の娘のポリアンナ嬢は、堂々としたものであった。
トゥルリー先生からの紹介を受けてポリアンナが挨拶をした。
「みなさん、僭越ながら、これからしばらくは、私ブルーフォレスト辺境伯が娘のポリアンナが、竜の扱い方、乗りこなし方、調教の仕方についてご指導させて頂きます」
と、言ってポリアンナがお辞儀をした。
そして次に兄のオスカーを紹介した。
「今日は、私の兄でもあるオスカー・エンドリケ・ブルーフォレスト帝国軍近衛騎士団長と我が家の騎士達で、竜のデモ飛行を行いますのでご覧ください」
と言うと、オスカーに合図をした。
すると、オスカーとその家臣たちが竜に跨り、クレイブを先頭にして飛び立った。
ポリアンナも
「では、私も一緒に参ります」
と、言ってクロエに乗って金鱗竜部隊の後を追って飛び立って行った。
クレイブを先頭にサイドバックに3頭ずつの竜が続きその後方にクロエが行く。
ダイヤモンドの形になっていたが、その変態を様々に変えながら空を悠々と飛んで行く。
かと思えば、急降下をして地面すれすれまで降りたところから急上昇したり、反転したり、二手に分かれてクロス飛行をしたりと一糸乱れぬ飛行を披露し、元の位置に戻って来て着陸した。
すると、自然に生徒たちから拍手が巻き起こった。
リリアーナとアイラは、目に涙を浮かべて感激していた。
「ポリーちゃん凄い!!」
「オスカー様、カッコイイ!」
ノアもクリスもその見事な飛行に感動していた。
そしてトゥルリー先生が生徒に向かって言った。
「これで、金鱗竜たちの実力はわかったと思う。パイロットの腕さえよければ、これだの飛行が出来るということだ。いずれ、帝国軍に正式に空軍部隊を作る予定なので、今から君たちにも竜に慣れておいて欲しいのだ」
「それと、その後に鋼竜を育て調教して貰いたいのだ。使徒が決まっていない者で希望するなら使徒候補にしても構わないと帝国軍総司令官のレッドリオン公爵から許可も出ている。みな、帝国軍の為に力を貸して欲しい」
「まずは、騎竜パイロットになりたい者から訓練をして貰おうと思うので、希望者は次回の授業までに申し出て欲しい」
今日は、金鱗竜部隊のデモ飛行披露だけで終了した。
クリスとアンナとキースの3人は、前々から空軍設立に貢献したいと話し合っていたので、デモ飛行終了後にすぐにその旨を申し出ていた。
プリシラは、馬の方が好きなので立候補しないと言っていた。
リリアーナ、アイラ、ノア達White Mageクラスの者にはまだちょっとハードルが高いように思えた。
竜の操縦には少なからず神聖力を使うからである。
でも、3人は思っていた。
今は、無理でもいずれは竜を乗りこなしてみたいなぁと。
クリスとアンナとキースの3人は、早速、竜に触れて慣れようとした。
まずは、使徒のクロエとクレイブに触らせて貰ってから、使徒ではない竜に触れてみた。
馬は、乗り手を見ると言うが、竜はもっと乗り手を選ぶ。
そういう面でも、意識コントロール術を使いこなす神聖力を持っていることが必要になって来る。
キースは、迷いがとれメキメキと能力を伸ばし、もうHoly Mageとしては一人前に近い。
いつ卒業してもおかしくない状況に仕上がっている。
だが、彼は卒業前に騎竜術を身に付けて空軍パイロットになってから卒業したいと思っていた。
キースは、臆することなくオスカーに積極的に質問へ行った。
そんなキースの熱意にオスカーは言った。
「試しに飛んで見るかい?」
「よろしいんですか?」
キースは、思わぬオスカーの誘いにこころが沸いた。
「ああ、もちろん」
オスカーはそう言うと自分の使徒のクレイブを呼んだ。
クレイブは単なる竜では無く、オスカーの忠実な使徒なので、すぐに騎乗しやすい態勢で待っていた。
「クレイブは、私の使徒なので特に操縦技術は必要ない。指示通り飛んでくれるから試しにひとりで乗って見るとよい。その後に、普通の竜に私とタンデムで乗ってみよう」
「はい」
キースは、恐る恐るクレイブの背に乗った。
馬のように手綱を握って
「クレイブ、よろしく頼む」
と言うと、クレイブは大きな翼を広げて大空に舞い上がって行った。
その姿をアンナとクリスも羨ましそうに見ていた。
その姿に気づいたポリアンナがふたりに声をかけた。
「アンナ先輩、クリス先輩」
「ああ、ポリアンナ嬢。さっきのデモ飛行カッコよかったよ」
と、クリスが言うと
「ありがとうございます」
と、ポリアンナが嬉しそうに答えた。
そして言った。
「先輩たちは、騎竜パイロットを志望されているんですよね?先輩たちも私の使徒のクロエでテスト飛行してみませんか?」
「え?いいの?」
と、アンナが言うと
「クロエも特に技術は無くても、指示通りに動いてくれるので、おふたりで載ってみてはどうですか?」
とポリアンナが提案した。
「ふたりで?」
と、クリスが言うとポリアンナはいたずらっぽく
「よくおふたりで馬にタンデムされてるじゃないですか、それと同じですから心配ないですよ」
と、言った。
「あら、そう?じゃあお願いしようかしら?」
と、アンナが言うのでクリスも腹を決めてふたりで乗ることにした。
先に飛んでいたキースを追って、アンナとクリスを背に乗せたクロエが飛び立ち、2匹の竜が大空を舞っていた。
それをブルーフォレスト兄妹が下から見守りながら言った。
「こんな日が来るとは思わなかったなぁ」
と、兄のオスカーが言うと妹のポリアンナが答えて言った。
「ええ、本当に。いつかは私も帝都に来て帝国神聖力術士養成大学へ入ることになるとは思っていたけれど、まさか竜の飛行部隊を作るお役目の一端を担うとは思わなかったわ。アラン様がいらっしゃらなかったら、当分辺境領から出る気にはなれなかったと思うもの」
「そうだな。俺たちブルーフォレスト家が竜の空軍部隊設立の役目を担うという名誉を頂いたからには、一族あげて頑張らないとだな」
オスカーは、辺境伯家の長男としての誇りをもってこの重要な役目を果たさねばと思っていた。




