帝国神聖力術士養成大学、三つ目のクラス
スチュアートリア帝国神聖力術士養成大学には、Holy Mageクラス、White Mageクラスの他に、三番目の魔導士クラスがあった。
Holy Mageクラスは、神聖力を持つ特別な者しか入れないクラスだったが、White Mageクラスは、神聖力がまだ弱い(正確には、神聖力を魂に宿してはいるが目覚めていない)者や、白魔術が使える者のクラスである。
それに対して、魔導士クラスは、神聖力を持たないが、魔術師としての能力を持つ者や、魔導士を目指すクラスである。
以前は、騎士の採用試験で魔導士としての実力のある者は魔導騎士として採用されていたが、自力で有能な魔導騎士になるのはなかなか困難であり、白魔術と黒魔術の区別もつかずに身に付けてしまい、Black Mageに取り込まれる者も少なくなかった。
そこで、魔導士クラスとしてWhite Mageを目指す者に対して門戸を開いたのだった。
しかし、Holy MageとWhite Mageクラスには、入学・卒業年齢や年数に制限が無いのに対して、魔導士クラスは、Mage達のように寿命を延ばすことは出来ないので、入学できるのは12歳~16歳まで、卒業年数も3年以内と決まっていた。
さらに、Holy Mageの神聖力に関しては、帝国のトップシークレットであり、一般の国民にはHoly Mageという言葉使われずGrate Mageと呼ばれていた。
一般的には、皇帝たちのような強力な魔術師が、Grate Mageだと思われていた。
以前、魔導士クラスにBlack Mage側のスパイが入り込んでいた為、魔導士クラスの寮は「ミラ・ローズ寮」とは別の場所にある旧貴族の館「リ・ジェルス館」が用意された。
魔導士クラスは生徒数も少なく、規模は小さいものの「リ・ジェルス館」も元貴族の邸宅を改装されているもので、内装や設備は「ミラ・ローズ寮」と同様の至れり尽くせりの施設だった。
ただ、魔導士クラスの授業は、Holy MageやWhite Mageのクラスと合同で授業を行うことはなかったので、先生たち以外は、お互いの生徒の顔を知らない者も多かった。
ここ最近になって、魔導士クラスへの入学希望者が増えており、年々受験者数も増えていた。
この日、アランの執務室に以下の三名が呼ばれた。
トゥルリー・アンソニー・イエローバレー。
マリア・エバー・グリーンフィールド。
シオン・ミッシェル・ヴァイオレット・フィールド。
アランと、トゥルリー、マリア、シオンは、共にアレキサンダー先生の愛弟子であり、アランが皇太子だった頃のいわゆる御学友である。
現在、トゥルリー、マリアは、帝国陸軍からの出向で、帝国神聖大のHoly Mage達の指導に当たっている。
Holy Mageは、卒業後は帝国軍内の職務に配属される幹部候補なのだ。
シオンは、自身も帝国陸軍参謀室長であり、シオンの父ヴァイオレット・フィールド侯爵が宰相兼、帝国神聖大校長である。
今、四人以外の者は室外に退室させられ、さらに結界が張られていた。
「忙しい中、集まってくれてありがとう」
と、アランが三人に礼を言う。
すると間髪入れず下にシオン参謀が言った。
「私は、アラン様の招集には何をおいても駆けつけます。私はアラン様の参謀なので」
「ありがとうシオン」
「アランが我々、教師陣を呼ぶのは珍しいな」
と、トゥルリーが言うとマリアも同意した。
「ほんとね。陸軍本部にいた頃なら別だけど、今、私とトゥルリーは帝国神聖大へ出向中ですものね」
「今日集まって貰ったのは、俺が最も信頼できる仲間の意見を聞きたいと思ったからなんだ」
と、静かにアランが話し始めた。
長年の親友たちは彼の言葉へ真摯に耳を傾けた。
「先日、久しぶりにアレキサンダー先生にご意見を伺いに言ったんだ」
「シオンが寝る間も惜しんで調べてくれた『時の扉』についてと、最近急に活発になって来た黒魔術師やBlack Mage対策についてだ」
「もちろん、皇帝陛下やウィリアム殿下のご意見も伺った。そのうえで今回のことは、主に俺が動くことなりそうなんだ。俺は、いつも自分の考えで突っ走ってしまうんだが、今回はいつになく不安なんだ」
「それで、アレキサンダー先生に『私は、間違わずに進めていますか?』と質問した」
めずらしく弱気な発言をするアランに、長年の友たちは少し驚いていた。
アランは、続けて言った。
「その質問に対して、『お前には仲間や友人、家臣がいるだろう』と言われたんだ」
そのアランの言葉に感動したのは、アラン大好きシオン参謀長。
「もちろんです!私はアラン様の参謀として付き従いますよ!いつでもご相談ください」
「たまには弱気なアランも良いな。俺たちの存在価値が上がる」
と、冗談のように言ういつもニヒルなトゥルリー。
「アランが悩むなんて珍しいわね。でも、私達を頼ってくれるのは嬉しいわ」
と、マリア先生。
「ありがとう、マリア、トゥルリー、シオン」
そう言って、まずはシオンが調べてくれた『時の扉』とウィリアムの予知からの一連の出来事を、詳細を知らないマリアとトゥルリーに話した。
「『時の扉』については、我々の憶測にしか過ぎないのだが、皇帝陛下、皇太子殿下、アレキサンダー先生、予知と先読みの能力を持たれる方々が否定されないので、憶測の域を脱していると考えている」
と、アランが言うと『時の扉』について膨大な時間と労力をかけて調べたシオンも
「私も多くの文献や資料、伝承、伝説、口伝に至るまで調べましたが、アラン様のおっしゃる通りだと思います」
と、言った。
マリアとトゥルリーもふたりの意見に異論はなかった。
ただ、『時の扉』という言葉は耳馴染みが無かったので、すぐには判断できない事に思えた。
「それと、これは最もマリアとトゥルリーの意見を聞きたいことなんだが、帝国神聖力術士養成大学の魔導士クラスについてなんだ」
「君たちも報告を受けているとは思うが、帝都のあちこちで黒魔術師達の動きが活発になっている。先日も、生徒たちが黒魔術関連する野盗の被害を受けたとの報告もあったと思う」
と、アランが言うと
「ブルーフォレス先生のお孫さんが狙われたかもしれないって事件もあったわね」
と、マリアが言った。
「それは私も聞いて驚いた。彼女が帝都に来てそんなに経っていなかったからな」
と、いつも冷静なトゥルリーが少し語気を強めて言った。
アランは、続けてレッドリオン公国で視察した時の事を三人に語った。
「俺は、先日レッドリオン公国に戻って、父の代わりに公国の首都ラ・マリオンから離れた村を視察して回ったんだが、今はBlack Mageも黒魔術師の気配も無かった」
「だが、その昔『インディゴ村事件』の時には、我々Holy MageをGrate Mageと呼び、魔法を身に付けてGrate Mageのように長生きしよう、という宗教を作って村人たちを洗脳しようとしていたとの話を聞いた」
「我々Holy Mageのことは一般の国民には知らされていないから、ただ長生きしている者にしか思えないのでしょうね」
と、マリアが悲しげに言うと
「Holy Mageの背負う使命と苦労は、Holy Mage以外には理解できないだろうしな」
と、トゥルリーが言った。
「そのHoly Mage中でも、最も重い使命を背負われているのはアラン様です」
と、シオンが言うと
「いや、それは違う。皇帝も皇太子殿下もそして前皇帝である私の父も、皆、皇帝の一族として生まれた責務を果たすために全てを投げうって帝国を守り、国民の為に尽くしておられる。私は、その助けをしているに過ぎない」
と、アランが言った。
三人は、ここでアランの言葉を否定することは、アランの望むところでは無いと思った。
そしてトゥルリーが言った。
「Holy Mageの気持ちは、Holy Mageの我々が一番よく理解している。アラン、迷い悩むことがあれば、いつでも我々に言ってくれ」
「トゥルリーは、子供の頃いつも俺の暴走を止めてくれたな。マリアは、適切な助言をくれた。シオンは、いつでも俺に忠実で俺の味方でいてくれた。これからもよろしく頼む」
と、いうアランの言葉に三人とも力強く
「あらたまって言わないでくれ」
と、トゥルリー。
「当然のことでございます」
と、シオン。
「これからも頼って」
と、マリアが言った。
そしてアランは本題を述べた。
「それで、私はそうした魔法を身に付けたい者のために、帝国神聖力術士養成大学とは別に魔導士のための学校を作るべきではないかと考えているんだ。もちろん、今も魔導士クラスがあるのは知っている。が、諸々を考えるとHoly MageとWhite Mageとは分けた方が良いのではないかと思うのだ」
「なるほど、それで我々教師を呼んだわけね」
と、マリアが言った。
「そうだな。最近は、魔導士クラスの入学希望者が増えていて人数制限をしないとならない状況らしいからな」
というトゥルリーに対して
「実際に、魔導士クラスの者の能力と上達ぶりはどうなのですか?」
と、シオンが聞いた。
「そうだなぁ。やはり、魔導士クラスの者には、ほとんど神聖力は無い」
「だから、教えることは魔術の知識と詠唱、だが、そこには物の理対する知識が必要になる。挫折するとすれば、そこだろうな」
「入学時点で文字の読み書きができるのが最低入学条件だが、魔導書を読んだり魔法陣を書く為のマジュ文字の取得が出来ない者も多い」
「その点、黒魔術は詠唱と魔力を含む生贄や魔道具を利用すればある程度は使えるので、そちらに流れやすいということもある。我々は、黒魔術は教えないから、挫折した者がそちらに流れる可能性は否定できない」
と、トゥルリーは現状を伝えた。
「なかなか難しい問題ですね」
トゥルリーの答えを聞いたシオン参謀は答えた。
軍の参謀長の役職にあるシオンは、帝国軍の頭脳でもある。
今回は、教育現場の話にはなるが、人を司り操るという点では遠からず近からず、である。
軍師が悩むことなので、アランが悩んでも当然のことである。
「やはり、このことは皆でしばらく状況を観察し、現状を踏まえて考えるべき問題だな。性急には答えは出せない。皆もそれぞれの立場で現状を把握してから、また意見を聞かせて欲しい。よろしく頼む」
と、アランが三人に頼んだ。
「御意」
と、シオンが答えた。
「そういえば…『インディゴ村事件』で指揮を執ったラングレー子爵の息子のキースが実家から戻って来たわ。一時は戻って来ないかと心配しちゃった」
と、マリアが言った。
「彼も悩める男だったからね。でも、吹っ切れたようで良かった。きっと素晴らしいHoly Mageなる」
と、トゥルリーも言った。
「ラングレー子爵は、早くに退役されてましたよね?」
と、いうシオンの質問にアランが答えて言った。
「ああ、父から聞いた話では、事件後結婚をされ、Mageではない奥方が産後体調崩されたのを機に軍を退職され、領主としての仕事に専念されているという。妻想いの優しいお方なのだな」
「息子のキースは、母の命を助けたい一心でHoly Mageの力を命の理に逆らって使ってしまいそうで帰省できなかったみたい。彼は、あえてヒーリングの能力を磨こうとしてなくて…だからアレキサンダー先生からなかなか卒業の許可も下りなかったのよね」
と、マリアがキースの話をした。
「でも、先日その母上が危篤になられた際に帰省し自分とも向き合ったようだ。母上が次の星へ旅立たれて、しばらくしてから戻って来たけれど、踏ん切りがついたようだよ。最近は、自分の神聖力を最大限に生かして頑張っている。彼は良いHoly Mageの騎士になるよ」
と、トゥルリーが付け加えた。
「そうか、それは楽しみだな」
と、アランが言った。
「ぜひとも、父のラングレー子爵にも現役復帰を願いたいですな。まだまだ活躍できるでしょう」
と、シオンが言った。
「そこは、若い者に託しても良いのではないか?シオン。ラングレー家のご子息は、君の良い部下になるかもしれないな」
と、アランに言われ
「はい。そうですね。楽しみです」
と、アランには素直なシオン参謀であった。
「それと、もうひとつの課題は、帝都各所に潜伏していると思われる黒魔術たちの隠れ蓑である宗教施設だ。『大黒主神教』という施設らしいが、実際に施設に居るのは魔導士レベルの者たちで、Black Mageが陰で操っているらしい」
「その者たちがどこに居て、何人いるのかがわからない。騙されたり洗脳されたりしている者をいくら逮捕しても意味が無い。Black Mage達を捕まえなければならない」
「それも、できる限り同時にだ」
と、アランが言った。
「確かに、それが一番大切ですね」
と、シオン。
「おそらく、その者たち動きと『時の扉』が繋がっていると思うのだ。これはシオンに、また調査して貰うべき事項だが、ふたりにも知っておいて欲しい」
と、いうアランの言葉に、マリアとトゥルリーは頷いた。
シオンは、
「かしこまりました。軍の諜報員を総動員して調べさせます。お任せ下さい」
と、言った。
「いつも苦労をかけるが、よろしく頼むシオン」
すると、トゥルリーが
「今日のアランは、よろしく頼むが多かったな」
と言って笑った。
「そんなにかしこまって頼まなくても、我々はアランの助けになれるなら、いつでも頑張るさ」
と、トゥルリー言う。
「そうよ。アランが如何にいつも帝国のため国民のため、考え尽くして頑張っているかを知っているもの」
と、マリアが続く。
「そうです。アラン様の言葉も行動も、全てはスチュアートリア帝国の為だと理解していますから遠慮なく命令して下さい」
と、シオンも当然ですという顔で言った。
アランには三人の言葉が有難かった。
アレキサンダー先生に問うた
「私は間違わずに進めていますか?」
という問の答えを貰ったような気がして嬉しかった。
進むべき道は決まった。
帝都にはアレクサンドル皇帝が戻られたので、帝都のことは三人に任せ、アランと従弟であるウィリアム皇太子は手分けして海からの侵入者を監視、阻止するため、各港への海軍配備と整備をすべく各港を視察に回ることにした。
もうひとつのアランのプロジェクトである空軍部隊設立に関しては、ブルーフォレスト一族とその部下たちが動いてくれていた。
再び、Holy MageとBlack Mageの闘いが始まるのだろうか?
何かの歯車が大きく動き始めているのは確かだ。
全ては宇宙の中の法則に基づき動いている。
全てのものごとは為るべくして起こる
その流れに人は抗うことはできない。
しかし、その力の源を神と呼ぶならば、神は決して意地悪ではない。
前に進もうとする者、魂を磨く者には必ず力が与えられるのである。
例えそれが、今星の人生で報われないとしても、次星でそれが活かされるのである。
人は、己の魂に問い、その魂が正しいと指し示す方向に進むのみ!
リゲル・ラナ最強のHoly Mageのアランに、今、迷いはなかった。
アラン達、スチュアートリア帝国軍が、海からの侵入者を監視、阻止するための各港への海軍配備と整備のために、各港を視察に回ることにした。
アランとラファエル大公の懸念通り、Black Mageとその組織の機関となっている『大黒主神教』は、着々とその魔の手を伸ばしていた。
既に、ネオとノアは、既に海路にてスチュアートリア帝国に侵入していた。
ネオは、一年筋前に『大黒主神教』を隠れ蓑として暗躍するBlack Mage達と共にブロッサン国経由で、ノアは、その『大黒主神教』の教会から逃げ出し、パドラルから海路にてスチュアートリア帝国に入っていた。
アランが『魔の森』で遭遇した呪われた狼を生み出した者こそ、ネオが行動を共にしたBlack Mageであったことをアランは知る由もなかった。
そして、今、ノアは、帝国神聖力術士養成大学ね魔導士クラスの生徒に、ネオは『大黒主神教』の者と共にパドラルに戻っていた。




